時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

あるがままに写す

2020年12月02日 | 午後のティールーム




この写真、なんの瞬間を撮影したものでしょうか。日本人とみられる6-7歳の女の子が、胸に手を当てている。よく見ると他の子供たちも同様にしているようだ。子供たちの人種的背景は多様なようだ。さらに後方を見ると、背後には大人も立っている。どうもなにかの宣誓のポーズをとっているようだ。さらに写真もカラーではなく、モノクロで撮られていることもご注目。

苦難の時のアメリカを写した女性写真家
そこで、この写真に関わる歴史をふりかえってみる。
1966年ニューヨークの近代美術館(MOA)は、女性写真家ドロシア・ラングDorothea Langeの回顧展を開催した。この女性写真家単独の展示としては初めての試みだった。ランゲの残した写真は、今ではアメリカ大恐慌期の貴重な写真資料の一部となっている。

皆さんの中には、
出稼ぎ(移民)労働者の母親 Migrant Mother として知られるこの写真を見たことのある人が多いのではないか。1936年にカリフォルニアで撮影された。農業労働者のキャンプでひとりの女性が子供を胸に抱き、他の子どもたちと座っている写真は、アメリカ合衆国の歴史において最もコピーが作られた写真の一枚である。




しかし、彼女の大不況期とダストボウルに苦労する移住者の写真以外にも、ラングは20世紀アメリカの歴史的出来事に関する多くの映像を残した。その中には、大戦中に実施された日本人の強制収容所の状況、ブラセロ・プランとして知られるメキシコからの農業労働者の姿などが写されている。しかし、これらの写真の多くはアメリカ政府によって没収されており、長い間公開されなかった。

撮影活動中のドロシア・ランゲ




MoMAの写真部長が1960年代初め、公開を打診した当時、ラングは70歳近く、食道がんの療養中だった。しかし、理由は今日まで定かではないが、彼女は公開に応じなかった。自分が苦労して撮影した写真約800枚が公開を許されず、アメリカ政府によって国家に批判的であるとして没収されてしまったことへの抗議の意味もあったのかもしれない。そして、時が経過した。ラングの没後、写真はアメリカ議会図書館が所有することになり、閲覧が可能となった。

2020年2月、MoMA美術館は「ドロシア・ラング:言葉と写真」と題した個展を開催した。その中に同館が所有する上掲の一枚も含まれていた。アメリカ人の子供たちと共に星条旗に忠誠を誓う日本人(日系人)の子供たちの写真も含まれていた。

子供たちがアメリカ国旗の星条旗に向かい、胸に手を当て忠誠を誓っている光景なのだろう。それが何の意味があるのか理解できずに見様見真似で胸に手を当てている。その表情が示すように、そこにはアメリカに対するいかなる敵意も感じられない純真無垢な子供の表情が写されている。

実際には1942 年4月、カリフォルニア州のWeill Public Schoolで国旗に宣誓する集まりの時に撮影されたらしい。日本人の中には後に日系人強制収容所に入れられる人も含まれていたようだ。


写真に付された説明文には次のように記されていた。

Dorothea Lange: One nation indivisible, San Francisco, 1942
「分かちがたきひとつの国」




Reference
Things as They Are by Valeria Luiselli, Dorothea Lange:Words and Pictures, an exhibition at the Museum of Modern Art, New York City, February 19, 2020, Catalogue of the exhibition, MoMA, 170pp.



追記:2020年12月4日
1920年代末以降の大恐慌期については、America in Color (BS1)が生き生きと当時の状況を伝えている。
コメント
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