5月11日、このサイトでとりあげたスペインのアムネスティ(不法滞在・就労の労働者を合法化する措置)は、EU諸国の大きな関心の的となった。EUの目指す方向とは異なる対応であったため、この措置での申請が締め切られた後、さまざまな反応が現れた。
当事者であるスペインのカルデラ労働大臣Jesus Calderaは、5月6日、「アムネスティ計画は大きな成功だ」と述べ、社会主義政権として実施した3ヶ月のアムネスティ措置の終了を告げた。この施策によって、要件を満たした約70万人の不法滞在者がスペインにおいて労働と居住の許可を得ることになった。
反対を押して
北ヨーロッパの国々は、移民受け入れに厳しく対しているのに反して、スペインは勇敢なステップを選んだといえよう。しかし、かねてからこの措置には大きなリスクがあることが指摘されてきた。アムネスティは、それを期待する不法滞在者の増加を招き、さらに不法滞在者を増やすのではないかと考えられてきた。そして、スペインへ密入国し、アムネスティで救われ、合法な資格を得た外国人労働者は、国境を越えて、より労働条件の良い他のEU諸国へ移動するのではないかと危惧されている。
今回実施された合法化政策の内容は単純である。2004年8月以降スペインに居住し、6ヶ月の労働契約がある外国人労働者について、申請を条件に毎年更改される滞在と就労の許可が与えられた。彼らはこれまでは不法滞在者として扱われていた。申請者の中身についてみると、エクアドル人が全体の21%、続いてルーマニア人、モロッコ人、コロンビア人の順だった。その他、40万人近い居住許可が、近親、親戚など家族の結合のために発行された。
カルデラ労働大臣は、このアムネスティの実施で、それまで見えなかったスペインの地下経済の90%が、合法化されたという。確かに、スペイン、ポルトガルなどの国々では、テンポラリーな仕事の占める比率が高いことは、OECDなどの調査でも明らかになっている。合法登録した外国人労働者が増加したことで、社会保障の支払いも増加するとみられる。政府は、社会の表面から隠れていた外国人労働者が合法化されることで、健康や教育に関する計画は改善されると期待している。
他方、カルデラ労働大臣は、アムネスティはこれからは実施されることはないと言明した。そして、今後は不法移民を強力に排除するので、不法就労もなくなるだろうとも述べた。もっとも、これはアムネスティを実行した場合に当事者が口にする常套語ではある。
スペインが実施したアムネスティ政策は、他のEU諸国では人気がない。スペインが突然こうした政策を採用したことについては、不満の意を隠していない。ドイツとオランダの政府関係者は、EU加盟国が移民についての政策実施を事前に通知する早期予告制度を提案している。フランスのヴィルパン内務大臣は、アムネスティの考えを否定した。
スペインへ流入する不法滞在者
スペインのメディアは、アムネスティ目当てにフランスから流入してくる移民労働者について報道した。たとえば、数百人のパキスタン人がフランス国内に不法に滞在していたが、この措置を知り、スペインへ入国してきた。「スペインはガードの甘い国と考えられている」と野党の人民党(People’s Party:PP)のスポークスマンは述べる。また、「エル・ムンド」El Mundo紙は「犯罪と統合を阻害する諸問題を持ち込む移民の雪崩減少が起きた」と形容した。
スペインの国家統計研究所は4月に統計を発表し、移民の目的先としてスペインはフランスより人気があるとした。確かにスペイン国内の移民労働者は、1年間で4倍の370万人となった。アムネスティが、移民の大きな流れを阻止する可能性はないようだ。モロッコとスペインの間に横たわるジブラルタル海峡は、世界において最も大きな所得格差の象徴といえる。昨年スペイン警察は、カナリア諸島、ジブラルタル海峡で不法移民15,675人を乗せた740隻の船舶を拘留した。
アフリカの発展支援が最重要
スペインは、これまでの15年間に、6回のアムネスティを実施した(1985-86, 1991, 1996, 2000, 2001)。そのほとんどは、現野党の人民党政権の時に実施されている。アムネスティを一度、実施すると、それを期待する不法移民が増えることは、いくつかの国の例をみても、ほぼ明らかなようだ。
アムネスティについては、このようにさまざまな見方があるが、今回のスペインのアムネスティは、EUが移民についての統一的政策を検討している時に発動された。それについて、スペイン国立統計研究所のサンデル氏は、統一的政策それ自体を否定し、「スペインはスペインのニーズに適合した外国人労働者を設定するメカニズムを導入しなければならない」と述べている。高齢化が進むスペイン経済は、若い労働力を必要としている。アフリカ諸国からの労働者の不法入国は、これからも絶えることなく続くだろう。
EUが北アフリカ諸国の経済を支援することにもっと力を入れていれば、移民の減少に役立ったかもしれない。今から10年前にアフリカ支援を目指す「バルセロナ・プロセス」が導入されたが、この計画はほとんど機能していない。ともすれば受け入れ側の利害ばかりが優先する移民(入国管理政策)だが、いまや根源に立ち戻り考えねばならない段階にいたったことは間違いない(2005年5月23日記)。
資料:The Economist, May 14th, 2005, SOPEMI. Trends in International Migration (2003),その他
当事者であるスペインのカルデラ労働大臣Jesus Calderaは、5月6日、「アムネスティ計画は大きな成功だ」と述べ、社会主義政権として実施した3ヶ月のアムネスティ措置の終了を告げた。この施策によって、要件を満たした約70万人の不法滞在者がスペインにおいて労働と居住の許可を得ることになった。
反対を押して
北ヨーロッパの国々は、移民受け入れに厳しく対しているのに反して、スペインは勇敢なステップを選んだといえよう。しかし、かねてからこの措置には大きなリスクがあることが指摘されてきた。アムネスティは、それを期待する不法滞在者の増加を招き、さらに不法滞在者を増やすのではないかと考えられてきた。そして、スペインへ密入国し、アムネスティで救われ、合法な資格を得た外国人労働者は、国境を越えて、より労働条件の良い他のEU諸国へ移動するのではないかと危惧されている。
今回実施された合法化政策の内容は単純である。2004年8月以降スペインに居住し、6ヶ月の労働契約がある外国人労働者について、申請を条件に毎年更改される滞在と就労の許可が与えられた。彼らはこれまでは不法滞在者として扱われていた。申請者の中身についてみると、エクアドル人が全体の21%、続いてルーマニア人、モロッコ人、コロンビア人の順だった。その他、40万人近い居住許可が、近親、親戚など家族の結合のために発行された。
カルデラ労働大臣は、このアムネスティの実施で、それまで見えなかったスペインの地下経済の90%が、合法化されたという。確かに、スペイン、ポルトガルなどの国々では、テンポラリーな仕事の占める比率が高いことは、OECDなどの調査でも明らかになっている。合法登録した外国人労働者が増加したことで、社会保障の支払いも増加するとみられる。政府は、社会の表面から隠れていた外国人労働者が合法化されることで、健康や教育に関する計画は改善されると期待している。
他方、カルデラ労働大臣は、アムネスティはこれからは実施されることはないと言明した。そして、今後は不法移民を強力に排除するので、不法就労もなくなるだろうとも述べた。もっとも、これはアムネスティを実行した場合に当事者が口にする常套語ではある。
スペインが実施したアムネスティ政策は、他のEU諸国では人気がない。スペインが突然こうした政策を採用したことについては、不満の意を隠していない。ドイツとオランダの政府関係者は、EU加盟国が移民についての政策実施を事前に通知する早期予告制度を提案している。フランスのヴィルパン内務大臣は、アムネスティの考えを否定した。
スペインへ流入する不法滞在者
スペインのメディアは、アムネスティ目当てにフランスから流入してくる移民労働者について報道した。たとえば、数百人のパキスタン人がフランス国内に不法に滞在していたが、この措置を知り、スペインへ入国してきた。「スペインはガードの甘い国と考えられている」と野党の人民党(People’s Party:PP)のスポークスマンは述べる。また、「エル・ムンド」El Mundo紙は「犯罪と統合を阻害する諸問題を持ち込む移民の雪崩減少が起きた」と形容した。
スペインの国家統計研究所は4月に統計を発表し、移民の目的先としてスペインはフランスより人気があるとした。確かにスペイン国内の移民労働者は、1年間で4倍の370万人となった。アムネスティが、移民の大きな流れを阻止する可能性はないようだ。モロッコとスペインの間に横たわるジブラルタル海峡は、世界において最も大きな所得格差の象徴といえる。昨年スペイン警察は、カナリア諸島、ジブラルタル海峡で不法移民15,675人を乗せた740隻の船舶を拘留した。
アフリカの発展支援が最重要
スペインは、これまでの15年間に、6回のアムネスティを実施した(1985-86, 1991, 1996, 2000, 2001)。そのほとんどは、現野党の人民党政権の時に実施されている。アムネスティを一度、実施すると、それを期待する不法移民が増えることは、いくつかの国の例をみても、ほぼ明らかなようだ。
アムネスティについては、このようにさまざまな見方があるが、今回のスペインのアムネスティは、EUが移民についての統一的政策を検討している時に発動された。それについて、スペイン国立統計研究所のサンデル氏は、統一的政策それ自体を否定し、「スペインはスペインのニーズに適合した外国人労働者を設定するメカニズムを導入しなければならない」と述べている。高齢化が進むスペイン経済は、若い労働力を必要としている。アフリカ諸国からの労働者の不法入国は、これからも絶えることなく続くだろう。
EUが北アフリカ諸国の経済を支援することにもっと力を入れていれば、移民の減少に役立ったかもしれない。今から10年前にアフリカ支援を目指す「バルセロナ・プロセス」が導入されたが、この計画はほとんど機能していない。ともすれば受け入れ側の利害ばかりが優先する移民(入国管理政策)だが、いまや根源に立ち戻り考えねばならない段階にいたったことは間違いない(2005年5月23日記)。
資料:The Economist, May 14th, 2005, SOPEMI. Trends in International Migration (2003),その他