時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

あなたは10歳児を上回れる? 〜進歩とは(2)〜

2024年12月19日 | 午後のティールーム

いつの頃からか電車などに乗ると、反対側の座席に座っている乗客のほとんどが「スマホ」を覗き込んでいる光景に出会うことが日常になった。かつて多かった新聞を開いて読んでいる人を見ることはきわめて稀になった。今では読書している人すら少ない。電車に駆け込んで来て座席に座ったとたんに、ポケットやバッグからスマホを取り出し見入っている。私にはとても異様な光景に見えるのだが、多くの人はそう思っていないようだ。

10人がけの座席に座っている乗客のほぼ全員が、スマホに見入っているという光景も珍しくない。スマホ嫌いで古い機種を緊急用に置いてあるだけの筆者には、人々がスマホに魂を奪われているように見える時がある。横断歩道で「歩きスマホの人」に衝突されたり、足を踏まれたことも何度かある。「ケータイ」(携帯)という言葉も近頃はあまり使われなくなった。現代人にとって、「スマホ」はもはや身体の一部になっているかのようだ。スマホをどこかに置き忘れ、半狂乱になった人に出会ったこともある。

OECD調査では
最近、この問題に関する小さな記事を目にした。人々を対象とした成人スキル調査で、成人の5人に1人が、小学生レベルの数学と読み書き能力テストで、10歳の子供たちと差がない結果が示されたという。

計数能力では過去10年間に平均点が上昇した国がいくつかあったが、下落した国もほぼ同数あったとの結果が示された。成人がかつてないほど、大学などで高度な教育資格を取得しているにも関わらず、読み書き能力では点数が上昇するよりも下落する国の方がはるかに多くなっているとの結果も示された。

Adult skills in literacy and numeracy declining or stagnating in most OECD countries,
the second OECD Survey of Adult Skills 10th 0ctober 2024
この調査では個人の成長、経済的成功、社会貢献のための重要なスキルである読み書き能力、計算能力、適応型問題解決能力に焦点が当てられた。

この結果は、日本でも短く報じられたが、幸いなことに日本はフィンランドに次ぎ、オランダ、ノルウエイ、スエーデンなどに並び、上位の国にランクされた。しかし、細部についてみると、いずれの国も今後の社会、経済的変化に対応するには多くの改善すべき点があることが指摘された。


こうした調査結果の原因解明はかなり難しく、時間を要する。人口構成の変化も関係するかもしれない。新しい移民は受け入れ国での言語習得に苦労するかもしれない。他方、現地生まれの人々は外から持ち込まれる変化に対応できていない。人は高齢化に伴い、新しい変化への対応力が鈍っているかもしれない。

字を忘れたり、本を読まなくなったという現象も指摘されている。ネットフリックス、ビデオゲーム、SNSなどが、脳の活力を奪っていると考える人もいる。さらには、こうした変化に対応する教育・訓練システムが追いついていないとの指摘もある。

今回の調査では16-65歳を成人の対象としているが、実際の成人層はこれより遥かに高齢の層を包含しており、現実と調査の間でも大きなギャップが生じてしまっている。社会制度、教育制度も現実の変化に合わせて変革が必要だ。高齢化の進展は各国が対応できないほどの大きな変化を生んでいる。

このOECDテストでは、対象となった成人の収入、健康状態、人生への満足度、他人への信頼関係、政治への参加なども影響していると考えられている。

時代に追いつけない成人教育
更に、大きな困難は成人の教育システム自体が旧態依然で変化に対応できていなかったり、機能していないことだ。多くの国では、移民やハンディキャップを負った人々が抱える問題を認識してはいても、政府がそのために支出する予算も少なく、対象者も参加への意欲が低下しているとの問題が指摘されている。

学位の意味も薄れつつあり、大学卒業生の中でも、子供が恥ずかしくなるような計算力や読み書き能力の成績を出している者がいるとの結果が提示されている。

ある時期、本ブログ筆者も、こうした変化に応えるために大学の教育システムを改革したいと、かなりの時間を費やしたこともあったが、満足できる成果は得られなかった。システムを企画する側と求める側の意図がうまく合わないところもある。

今回のOECDの調査が意味するものは、その解明にも時間を要する。しかし、その結果は今後の人類のあり方にも関わる。戦争、紛争、天災など、多くの危機に直面する世界は、愚かな戦争に終止符を打ち、人類の進歩のために真になすべきことに尽力すべきだろう。教育はそのための柱となる。

始めるは遅きにしかず
身近な所に目を移そう。筆者の近くでも、90歳を超えて、小中学生の算数教室に通い、プールや体操などで、知力、体力の維持に努めている方がいることを知った。その意味や背景を知った子供たちが、大きな尊敬の念で見ていることは間違いない。彼女は70歳代からこうした努力を個人として続けてこられた。さらに、生活に困窮する人たちのために月に1度、バザーを開くなどで社会貢献にも尽力されている。

改革の手がかりは、足下にもあるのだ。政府が十分に対応できないならば、個人が努力する以外に、眼前に広がる危機に立ち向かうすべ、方策はない。AIの変化も目を見張るばかりの速度で進んでいる。生成AIのいくつかの成果は、実際に使ってみて圧倒される。しかし、その結果がどれだけ正しいものか、判定は困難なことが多い。技術の変化に翻弄されないうちに、人間が技術を制御できるシステムの確立も必要と実感する。しかし、今や頸木が外れたような急速な技術の進歩に人間は対応できるだろうか。疑問は尽きない。


REFERENCES
“Can you read as well as a ten-year-old?”   The Economist 14th-20th 2024

Adult skills in literacy and numeracy declining or stagnating in most OECD countries the second OECD Survey of Adult Skills 10th 0ctober 2024

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