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   桑原靖夫のブログ

トランプ政権移行の衝撃(1):国境管理・移民

2024年11月17日 | アメリカ政治経済トピックス

アメリカ総人口に占める移民(外国生まれ)比率(%), 1850-2023年


資料出所;PEW RESEARCH CENTER



トランプ大統領の再選は、スローガンに掲げられたMAGA(Make America Great Again; 「 米国を再び偉大に」)、America First (アメリカ第一)という願望が、国民の間に根強く存在することを示すことになった。多くのアメリカ人が自国の基盤が、足下で揺らいでいることを感じ取ったのだろう。前回も記したように、アメリカが世界において絶対的な優位を誇示できる時代は、遠く過ぎ去っていた。

大統領選における予想を上回る共和党シフトは、連邦議会議員選挙にも及び、上院、下院も共和党が多数派をを占める「トリプルレッド」といわれる結果となった。これで、トランプ次期大統領は自ら掲げる政策をかなり進めやすくなる体制が整ってきた。

トランプ氏は大統領就任後は、思い切った政策遂行を次々と実施することだろう。既に就任前の今から自らの有罪判決を覆させる動きなど、やり過ぎと言われるまでに手を打っている。

「国境の皇帝」の指名
政策面では、移民規制は租税制度と並び重要度が高い。 上掲の図表からも明らかなように、アメリカの総人口に占める移民(外国生まれの人々)の比率は、1970 年を底にして、以後一貫して増加傾向にある。1890年以降の最高水準に達している。

トランプ氏は来年1月20日の大統領就任初日に、移民規制強化のため一連の大統領令を出す公算が大きいと推測されている。既にトランプ氏から国境管理責任者、いわゆる「国境の皇帝」として指名されたトム・ホーマン元移民・税関捜査局(ICE)局長代行ら共和党の対移民強硬派が政策推進に当たることが決定した。

トランプ氏は大統領に就任すると、国境警備強化についての命令も出し、州兵を国境に派遣するとともに、国境の壁建設資金を確保するため不法移民問題を国家の緊急事態と宣言する意向と見られている。

トランプ氏は、バイデン大統領が導入した人道的な移民の期間限定受け入れプログラムの撤廃も命じる見込みだ。さらに同プログラムの有効期限を過ぎて米国内に滞在する移民の自主的な出国を促すことも想定される。

N.B.
筆者はかつてカリフォルニア大学サンディエゴ校との日米比較共同調査の日本側責任者として、両国における移民の実態に接したが、移民で国家を形成したアメリカとはいえ、移民受け入れに反対の国民も多い。トランプ大統領自身、アメリカ生まれではなく、祖父母の代からドイツ、アイルランドなどヨーロッパからの移民の末裔である。


閉鎖的政策への新局面
建国以来、ともすれば移民受け入れへ寛容に見えるアメリカだが、国境閉鎖、制限的な政策への支持は格段に強まっている。「開かれた国境」open border が望ましいといわれながらも、現実には世界レヴェルで、多くの国々が保守的、閉鎖的政策へ重点移行している事実を見つめなければ、国境管理、移民政策を正しく理解することはできない。アメリカの場合、21世紀初頭に起きた同時多発テロ、9.11 を契機に国境管理の強化、閉鎖的方向への移行は既に始まっていたので、トランプ政権の国境管理政策はその延長線上にあるともいえる。


Edward Alden, The CLOSING of the AMERICAN BORDER: TERRORISM,IMMIGRATION, AND SECURITY SINCE 9/11,  HARPER PERENNIAL, 2009.

米国土安全保障省が見積もったアメリカ国内に居住する不法移民の数は2022年時点で約1,100万人だが、今ではもっと増えているかもしれない。バイデン政権下、移民を積極的に受け入れてきたニューヨークやシカゴ、デンバーといった一部の大都市では移民用の住宅や支援態勢の確保に苦労している。

トランプ氏は選挙戦で、バイデン政権が不法移民の大幅な増加を許したと批判してきた。実際、バイデン政権の全期間で見ると、国境で国境パトロールと(自発的・非自発的に)接触した(encounter)移民数は過去最大を記録している。ただその後、バイデン大統領も国境警備を厳格化する措置を講じ、メキシコも対策に乗り出したため、不法移民の流入は劇的に減少した。

それでもトランプ氏は不法移民をさらに減らそうとしており、逮捕や拘束、多数送還のために政府組織全体を活用する構えだ。

執行権限拡大や壁建設の強化へ
トランプ氏は大統領就任初日の命令で、不法移民の逮捕・拘束に関する執行権限を拡大する見込みだ。バイデン大統領が打ち出した指針では、重大犯罪記録がある人物を優先的に強制送還し、犯罪歴がない人への執行は制限されてきたが、トランプ氏はこの基準を撤廃すると関係者は見ている。重罪で起訴されたり、米国滞在資格を喪失したりした人々の強制送還を引き続き優先しつつ、当局者がそれ以外の不法移民を送還するのを禁止しない内容になると推測されている。

ある推計によると、米国内には強制退去を最終的に命じられた移民がおよそ140万人存在し、次期政権はこの対応を優先課題とするだろうといわれている。新政権で国境管理の責任者が予定されるホーマン氏は、11月11日のFOXニュースで『(連邦裁判所の判事がアメリカから)出て行かなければならないと宣告したのに、彼らは出国しなかった』と語っている。

新大統領のこうした閉鎖的政策への移行は、国際的次元での労働力移動に衝撃を与えつつある。例えば、中国人の流入増加の動きは、既に影響を受けており、トランプ大統領就任を前に減少に転じているとみられる。トランプ政権になれば、軍用機を使用しても中国へ移民・難民を送還するともいわれ、アメリカ移住を志す中国人の間には大きな動揺が生まれているといわれる。現にアメリカへ入国を求める中国人は減少に向かっている。今後の注目点の一つとなる。



1970-80年代、戦後最初の外国人労働者問題の台頭で、論客として活躍された西尾幹二、石川好、清成忠男氏などのご逝去が続いて報じられた。それぞれ立場は異なったが、当時の議論に関わった者のひとりとして、ご逝去を悼み、心よりご冥福をお祈り申し上げます。


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