時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

今年の桜は色あせているか

2008年04月05日 | 午後のティールーム

  東京での会議のため、台湾から来日した友人のL夫妻と一夕、歓談の機会を持つ。L氏は台湾の国立大学で経済学を教えている。奥さんのM女史は美術館の館長であり、自ら絵筆もとる。長年にわたり、ほぼ毎年、時には年に何回も会っているので、お互い頼りあう間柄だ。例年よりずっと早い桜の開花で、夜桜を見ながらの久しぶりに楽しいひと時となった。
  
  それぞれの専門分野が異なることもあって、話題はあちこちに飛ぶのが面白い。台湾は、総統選で国民党の馬英九候補の当選が決まった直後で、話は選挙戦の様相と結果から始まった。選挙戦終盤に、チベット暴動などの突発要因もあったが、ほぼ順当な結果のようだ。下馬評ではもっと接戦になると見られていたようだが、結果はかなりの大差となった。
  
  民進党の8年にわたる長い政権に、国民が飽きたというのが今回の結果を生んだ背景らしい。陳水扁前総統が就任した頃は、清廉、潔白なイメージが強かったが、その時がピークで急速に後退し、終盤は就任時とは逆のイメージになってしまった。産業基盤も次第に中国本土へ移転し、活気がない。民進党政権下、中国側はいつも選挙戦の頃に台湾有事を想定してとの理由で、軍事演習などで示威行動をする。このあたりも軍事大国意識が出て、いやな面だ。しかし、台湾側もこうした挑発には乗らず、危機発生にはいたらなかった。表面では鋭く対立する面を見せても、危機を回避するさまざまな地下水脈が働いているようだ。

  このあたりで、心機一転、国民党に任せてみようという機運が生まれたのだろう。国民党政権になったからといって、中国に吸収されてしまうわけではない。新総統に選ばれた馬英九氏も、これまでの過程では外省人で大陸寄り、国籍問題など、大分いじめられていたが、巧みに切り抜けた。台湾人は戦後の長い歴史の過程でしたたかなバランス感覚を身につけたようだ。

  繰り返し、一触即発の緊張を経験してきた
だけに、台湾の人は危機を巧みに回避する術にかなり長けているようだ。現実主義者が多い。馬新総統もその点で、中国とは一線を画すことは明言している。1989年の天安門犠牲者の慰霊祭には出席するとみられるし、ブッシュ大統領には遅れているF16戦闘機の引渡しを求めるだろう。今回の国民党の総統誕生で、多くの支持者が喜んでいるのは、大陸との交流が進むこと、そして台湾が最後の頼りにするアメリカとの関係が改善することだ。陳水扁前総統の独立志向の「冒険主義」は、危ういと感じたこともあろう。中国本土に在住する選挙権のある台湾人は約100万人といわれるが、そのうち20万人くらいは投票のために帰国したと推定されている。

  新総統の下で、台湾は再び新たな活力を取り戻すきっかけを得たようだ。完全な機能不全状態の日本の政治を考えると、窓外の桜も、今年はなんとなく色があせているような気がした。

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