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「夏河を」語るうれしさよ

2013年11月25日 | 読書
 野口芳宏先生の解釈の深さや斬新さには今までも幾度となく驚かされたが,今回の野口塾でも「えっ」と思わされたことが複数あった。特に,あの与謝蕪村の名句とされる「夏河を越すうれしさよ手に草履」に関して,話者が舟に乗っているという解釈は,今まで考えもしなかったし,まだ自分自身で消化しきれない。


 「河」からうける大きな河川のイメージ。「越す」にある旅の連想など,それらは共通しているが,「うれしさ」にある涼感が,水を直接足に浸しているものか,頬に受ける風のそれか…。また解釈によって「草履」を持つ「手」が両手か片手かの違いも出てくる。あまりに描く情景が異なり,決着はつけておかねば。


 検索して調べると,この句には「丹波の加悦といふところにて」と添え書きがあるという(「丹波」は蕪村の勘違いで正確には「丹後」)。母親の故郷ということで,となると「河」は大きくない,さらには「夏川」という表記も見られるので,なんだか自分の持っていたイメージもずいぶんとアヤシクなってきた。


 説明として一番まとまっているように思えたのはJR西日本のサイトだった。当然研究者の緻密な解釈もあるとは思うが,これが結構読みやすかった。私達としては,何が正解かではなく,どこに注目してどんな解釈を導くか,その過程が学びといえる。そうした言葉へのこだわりを示すことが,いい授業に結びつく。



 それにしても会終了後の宴席で,この句の話題で盛り上がっている時に,野口先生の仰られた一言が忘れられない。「こんな些細なことで,ああでもないこうでもないと話し合うことのできる,教師っていうのは幸せな仕事だね」。その場にいた全員が声をあげて笑い,深く頷いた。その幸せはやはり手離したくない。