すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

生き残りの小説

2014年11月02日 | 読書
 「2014読了」116冊目 ★★

 『となり町戦争』(三崎亜記  集英社)

 書名と表紙写真に惹かれて求めたものだ。なんとなくエンタメ系と感じたのかもしれない。もっと言えば往年の筒井康隆が書きそうな内容を予想した。出だしには若干そんな兆しもあり,「主任」は大きな鍵を握るはずだ,とか「香西さん」と主人公は結ばれるに違いないなどと,かなりミーハーな予測が勝手に思い浮かんでいた。ところが,どうしてどうして…。

 これは一種のミステリなのか。特定の犯人探しということではなく,「戦争」探しという意味で。「完全な比喩」としての戦争ではなく,日常へ戦争を入れ込む設定はわかりづらいゆえに,考えざるを得なくなっており…。終末の哀しさは複雑だ。その解釈は難しいが,実感が伴わなくとも,今も身の周りに「戦争」があることを認めざるを得ない,そんな読後感だ。


 「2014読了」117冊目 ★★★

 『終末のフール』(伊坂幸太郎  集英社)

 伊坂幸太郎を読み始めた5年前に一度読んでいる。3年後に小惑星が地球に衝突して「終末」を迎える設定は覚えていた。今,読み直してもエンタメ作品として非常に面白い。それと同時に,この連作のタイトルのつけ方が全部「〇〇の□―ル」であることに,漫才コンビ「ハライチ」のいわゆるノリボケのネタ元ではないか…とどうでもいいことが浮かんだ。

 惑星の衝突予告によって混乱した世界が,少し平穏さを取り戻した頃が舞台となっている。混乱で多くの人が死に,希望を失った状況にある。その中で登場する人物たちが何を考え,どう生きようとしているかを描いている。最終章の「深海のポール」にたどり着くまで,薄々と感じてはいたが,「生き残る意味」と言っていいだろうか。いや,それでは言葉が足りない。

 絶望して自虐的な行為により死んだ人,混乱に巻き込まれて亡くなった人,そして消息不明者…主人公たちは皆,それらを背負い生きている。それは生き残った者しかつかめない意味…陳腐ではあるが,また強い表現でもある「必死で生き残る」「みっともなくとも生きる」の具現である。人は,自分しか見えないと,楽になろうとか救われようとかしか考えない。