すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

マインドセットに効く本

2014年11月29日 | 読書
 「2014読了」127冊目 ★★★

 『14歳の子を持つ親たちへ』(内田樹・名越康文  新潮新書)


 以前,この二人の対談本は読んだことがある。
 『原発と祈り』である。面白い組み合わせだと思った。


 この新書の存在は知らなかった。初刊より9年ほど経つが,けして古さは感じさせない。
 取り上げられるのは親子関係だけではなく,幅広い世相だが,事態はそのときより深刻になっているだろうか。
 表面上は似たようなものでも,おそらく少しずつ確実に,由々しき方向へ動いているのかもしれない。

 しかし,この本の(というよりこの二人の)スタンスは,基本的にこの文章に表れていると思う。そこに共感できるならば,わずかな光明はいつでも見いだせるというものだ。

 教育制度や家庭制度そのものを改善するのはたいへんな手間と時間がかかるし,どう変えるかについての社会的合意の形成も困難である。しかし,学校や家庭にかかわる個人が自分のマインドセットを切り替えるということだけなら,誰にでも,極端に言えば,その日のうちにもできる。(内田)


 さて,話題は名越先生の臨床経験との随時付きあわせられながら,かなり広範囲で,興味深いものが多かった。

 特にディベートを例に,コミュニケーションのことについて語るところが,予想された論述ではあるが刺激的だった。

 ディベートなんて,コミュニケーション能力の育成にとっては最低の教育法だと思いますよ。

 ディベートという手法に一定の効力を感じる自分だが,内田教授のこの物言いにカチンとくるわけではない。
 おそらく内田教授などはディベートをやらせれば,日本でも屈指の存在なのではないか。それだけの幅の広さに魅力があるのだから。

 基本的に「ぐずぐず堂々巡り」していいんだ,言葉に詰まったり,わけがわからなくなったりする過程が大事ということを強調している。ところが,こんなふうにも言う。

 それと同時に,どこかでその終わりなき呟きを断念することも教えないといけない。

 つまりは,相反する二つの忠告を持っていなければならないということだ。

 「言葉を探してごらん」
 
 「言い切りなさい」


 コミュニケーションというものの広さ,複雑さを示しているようで象徴的だ。



 最終章で「一番大事なのは『ルーティン』」という話題が出てくることも,初等教育に携わる者にとっては,励みになる。

 きわめて限定的な場と時間の中で,しっかりルーティンを組み立てていくことが基本になる。「ルーティンという土壌」という表現は,家庭はもちろん,学校の根本的なことについて語っていると思う。

 だからこそ,毎日何をしているかが問われるのである。