すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

境遇とは変化していく

2015年11月03日 | 読書
 【2015読了】110冊目 ★★
 『境遇』(湊かなえ  双葉文庫)


 本の帯を見たとき、ああこれはテレビドラマになっているなと気づいた。数年前、松雪泰子主演だったと覚えている。あとがきを見ると、これはドラマのための原作の書き下ろしだったことがわかった。小説を出版して、すぐにドラマ放送というパターンらしい。そのせいか、今まで読んだ話より密度が低い気がした。


 それでもまあ「一気読み必至のノンストップミステリー」という惹句が、まんざら嘘でもないところが、湊の巧さだ。何かあると思わせつつ着地させ、どんでん返しやさらなる深みを用意しておくというストーリー展開の妙を感じる。確かにテレビドラマ用という気はするが、鍵となる「絵本」も新収録されて楽しい。


 主役となる二人が児童施設出身であることから、題名が「境遇」と名づけられたのだろうが、この題名、改めて見直すと面白い熟語だなと思う。「その人が置かれている立場や環境」(明鏡)がその意味であるが、まず「境」がポイントか。「さかい」を表すことから、一定の範囲、場所、状況等を一括りにしている語だ。


 「遇」とは何か。これは「あう」ことだ。そしてその出会いは必然というより偶然に近いということが、漢字を見ていてもわかる。つまり「境遇」とは、境目のある一定の地域等のなかで、様々な事物に出会うことから発している。大漢和辞典に書かれてある語義は実に渋い。「この世で人が置かれている運命の状態


 「運命の状態」はこの物語に当てはめるのには適当だ。出生時に背負った格差、施設に預けられ次へ向かう経緯、その後の変化により強化された環境の違い等々、かつて心を通い合わせた接点は実に強く結ばれたが、すれ違いを見せた。しかし、再びの出発を目指して歩む結末となる読後感は涼やかで、湊作品では珍しい。