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桜と絵本と豆乳と

一種の人生訓小説

2015年11月29日 | 読書
 【2015読了】119冊目 ★★
 『マリアビートル』(伊坂幸太郎 角川書店)
 
 ふううっ長かった。月曜から始めた入浴読書だったが、今朝ようやく読了。460ページを超すボリュームは久しぶりだ。読み終えてからサイトを見たら、今映画化されている『グラスホッパー』に連なるらしい(未読だ)。いわゆる「殺し屋小説」。その名の通り、ごく簡単に人が殺されていく顛末、しかも東北新幹線内だ。


 伊坂作品は久しぶりだった。次々に人が亡くなっていく筋はあまりピンとこなかったが、相変わらず会話の妙は冴えている。檸檬と蜜柑という殺し屋コンビが、それぞれ得意な分野「機関車トーマス」と「小説」で応酬する箇所が随所にあり、テンポと切り返しが楽しい。考えようによっては、一種の人生訓小説だ。


 中学生の「王子」が執拗に繰り返す問い「どうして人を殺してはいけないか」は、かつてセンセーショナルに取り上げられた頃のことを思い出す。様々なパターンの答えを登場人物に語らせ、「王子」が反駁、論破させていく手法もある意味見事だなという気がする。読者もそのどれかに入っているように感じさせる。


 次々に殺し屋が登場し、それらも殺害されて数少なくなるなかで、いったいどんな形で結着するのか、途中から気になりだした。最終的に「木村」の父母が動き出したときに、ああこの人たちが駄目だったらちょっと救いがないなと思えたが、安心できた形で終えられたことにほっとした。世代的な共感ということか。


 筋には関係ないが会話を楽しくするコツも学べる。それは多くの伊坂作品にもあるが、この作品は特に多い。上に挙げたように小説、物語の一節を使うこと、マーフィーの法則など知られている用語を使いながら変形させること、そして「死んだ親父から…」というパターン。いずれも「引用」の有効性を強く感じる。