和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

物ほしげ。

2009-12-13 | 短文紹介
桑原武夫集(岩波書店)の10巻目には、
「推薦文」が載っております。そこに加藤秀俊氏への推薦文があります。
それは、加藤秀俊著作集への推薦文(1980年)でした。
では、その最初の箇所。

「加藤秀俊は近代化日本を代表する思想家である。
そういわれてけげんな思いをするのは、軽薄な近代化批判の風潮にのせられているのであって、言うまでもなく私は加藤を高評価しようとしているのだ。近代化の成功なくして今日のわれわれの幸福な生活のありえなかったことは、加藤とともに、私の確認するところである。もちろん日本の近代化にも弱点はあるが、世界的にすばらしい点も少なくない。そのプラス面をもっとも見事に象徴しているのが加藤だといえる。
まず彼はたぐいなく勤勉である。しかもその勤勉は受身でなく主体的にして誠実である。人々の学説を鈍重に積みかさねるのではなく、つねに自分の目と足とで現地に現物を確かめてから聡明に料理する。
勤勉の当然の帰結として彼は良質多産である。十二巻の著作集が彼が書いたものの半ばしか収めえていないというのは驚くべきエネルギーというのほかはないが、その収録作品目次を眺めてさらに驚くことがある。それは表題に一つとして物ほしげな文学的なものがなく、すべて短く具体的なことである。彼の学問に甘さの情緒性がなく、取扱う対象は多方面にわたりながら、すべて澄明な意志によって統合されていることのあらわれといえる。・・・・」(p463~464)

あっ、もう推薦文の三分の二も引用してしまった。
これくらいにしておこう。
加藤秀俊著「メディアの発生」を読むとですね。
あらためて、この推薦文を思い出したりするのでした。
たとえば、「つねに自分の目と足とで現地に現物を確かめてから聡明に料理する。」という箇所など、そのままに「メディアの発生」にあてはめたくなります。
このそっけない題「メディアの発生」にしても桑原氏の推薦文を思い浮かべてしまいました。「表題に一つとして物ほしげな文学的なものがなく、すべて短く具体的なことである。彼の学問に甘さの情緒性がなく、取扱う対象は多方面にわたりながら、すべて澄明な意志によって統合されている」。

う~ん。あとは「メディアの発生」を再度読み直してみるだけなのですが(笑)。

そうそう。今日の毎日新聞の日曜日読書欄が、今年の3冊を特集しておりました。
「メディアの発生」は、どなたも取り上げていない。ふ~ん。そうなんだ。
コメント
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