辛い生活の中で両親に見捨てられ、湿地の中に建つ家で一人暮らす事になる一人の少女。ボートを操り、貝を取り、沼地の中で生きる術を身につけ、沼地の中で生きていく事を選ぶ少女。
暗くジメジメした沼地を想像するも、映画の中の湿地帯は、木々の間から差し込む光が水面に陰影を作り出し、水の流れに逆らわず水を這うように進むボートは、自然に逆らわずに暮らす彼女の暮らしを思わせる。沼地の美しさだけでなく、彼女の一挙手一投足から自分の周りにある自然に対する畏敬の念が感じられるのだ。
学校へも通わず、読み書きも出来ない彼女に文字を教えようとする少年の出現で彼女の生活は更に彩のあるものになっていく。自分の身の回りにいる植物、動物の名前を覚え、その種の生態をキチンを把握し、彼らの生きる術を間近で詳細に観察する。
沼地での彼女の生活を詳細に描きながらも、そこから感じられるのは生々しい人間社会の営みではなく、自然に身をゆだね、自然のルールに倣って生きる、まるで童話の中から抜け出したような女性の話だ。しかし、沼地から青年の死体が発見された事でその童話のような話は終わりを告げ、殺人容疑で裁かれる事になる。一気に自然のルールから人間社会が作ったルールの中に投げ込まれるのだ。
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裁判の様子と彼女が沼地でどのように生きて来たかが交互に語られる。犯人捜しは大事な一つの要素ではあるが、それが目的の話ではない。自然の摂理から自分を守る術を学んだ彼女が、何を想い何を大事にしようとしたかという話だ。すべてはザリガニの鳴くところに帰っていく。
Taylor Swift - Carolina (From The Motion Picture “Where The Crawdads Sing” / Audio)