昔、図書館で偶然見つけて、初めて書き写すという行為をしたのが
立原 道造のソネット 「のちのおもいひに」
不思議なことに何故かこの詩は覚えられなかった
覚えようとするまえに、頭がこの言葉がイメージする世界に酔って
何度トライしても覚えられなかった
最初は冒頭の部分が好きだった
しかし最近、2番めの部分の
──そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……
この部分がとても切実に思えてきている
年齢を重ねたせいか、それとも性格によるものか分からないが
結局人は誰でも孤独で、誰も聞いていないと知りながら
語り続ける存在なのだと思えたりして、、
のちのおもひに
立 原 道 造
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
──そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……
夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには
夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう