パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

完成させるのは難しい(〇〇ちゃんの思い出のために)

2022年10月30日 10時00分31秒 | 創作したもの

素人は思いつき(アイデア)はしばしばあっても、何かを完成させるのは難しい
仕事のように、しなければならない状態でないので
なんとしても完成させなければ、、という意識は弱い

作家とか作曲家に限らず人は何かしらの強制がないと作品の完成は
難しいのではないか!と思ってしまう

バッハは毎週のようにカンタータを仕上げなければならなかったし
モーツァルトも需要に応じて多くの作品を仕上げた
ミステリー作家は出版社の依頼に応じて職人的な多作を可能にしていた

素人は(子ども以外に)何も残さないで時間を終えることが多いだろう
時々、そのことに焦りを覚えて何か形のあるものを残そうと考える
振り返る時間が多くなってきて、やり残したような後悔が襲ってくる

時々、不意に(空想的な)アイデアが浮かぶ
メルヘンと名付けた「春の夢」「目が見えたモグラ」
「セミと風鈴」「イルカのエリア」などは一気に出来たものと
少し時間をかけたものだが、とりあえず最後まで行った

ところが途中まで行って、なかなか最後まで行き着かないものがある
スタートすればなんとかなる、、と思っていたが、思う通りにならず
ずっとストップしたままだ
話の骨格とか起承転結を予め考えておけば良いのだろうが
ベートーヴェンのように全体の構想を考えたものを仕上げるのには
力不足で、結局は途中までのものが多くなってしまう

完成は出来ないかもしれないが、ずっと気になっているものが一つある
それは一族の悲しい思い出で、一週間しか生きていられなかった女の子の
生まれる前からの意識みたいなものを空想したものだ

そこで、完成は出来ないかもしれないが、備忘録として残すことにする

〇〇ちゃんの思い出のために
 
お母さんの声が聞こえる。もう一つの声はおそらくお父さんの声。急に大きな笑い声になったからきっと楽しいことを話しているに違いない。お母さんが話しかけてきた。「調子はどう?お母さんはとてもいい気分。お父さんも早く逢いたいって、言ってますよ。」体が暖かくなってきたからお母さんはきっとお腹をさすっている。
お母さんは話しかけてくれているけど、声が届いているって思っていないのかもしれない。ちゃんと届いているのに。
 
お母さんとは違うけど、よく似た声が聞こえる。「あなたが生まれるときは、~~だったのだよ。」どうやらお母さんに話しかけているらしい。お母さんはいつもの様にお腹を擦りながら聞いている。
「私もそうしよう」今度は別の温かい手をお腹越しに感じる。
「動いてる。ホント不思議。」別の男の人の声が聞こえる。「体を大事にしなきゃダメだよ」ぼつぼつとしか話さないけどお母さんのこととても気にしているのが分かる。この声も私をホッとさせる、何故なんだろう?
そういえばお父さんも近くにいるのだけど今日は大人しくしているみたい。
 
今日は少し胸が苦しい。お母さんやお父さんの声も聞き取りにくい。自分が苦しい時お母さんも苦しいみたい。いつもなら歩く音も料理の音も聞こえるのにお母さんの呼吸だけが聞こえる。
 
パタン、車のドアが閉まる音。それから少しの間心地よい振動を感じていたら目的の場所に着いたらしい。たくさんの人の声、足音、車輪と床と擦れる音、様々な種類の音が聞こえる。一体どこなのだろう?少し不安になる。
「残念ですが、状態はあまり良くないようです。」抑揚のない声が聞こえる。私のことを話しているに違いない。手とは違う何か冷たいものがお母さんのお腹の上を移動していた。今日も朝から苦しかったけど、そのことと関連しているのだろうか。以前は時々だったのが最近は毎日のように苦しく感じる時がある。お母さんのがっかりしたような声が聞こえる。でもそれはほんの短い間。お母さんは自分に言い聞かせるように、お父さんに告げた。「一番良いことをしましょう。今も、生まれてからも」
 
お母さんの心臓の音は機嫌が良い時と元気が無い時と違うのが私には分かる。今日はご機嫌な方だ。お母さんの好きな美味しいものを食べているみたい。「この子のために栄養つけなくっちゃ」私は味を感じることはできないけど、しばらくすると体に力が湧いてくるような気がする。お母さん、頑張って食べて。私のためにも。
 
また冷たいものをお母さんのお腹を通して感じる。「予定は〇〇ですが、早めに準備はなさったほうがよいでしょう。それから赤ちゃんのことですが、状況は変わっていません。残念ですが生まれてから直ぐに、と言っても一週間以内くらいですが、手術しなければなりません。それで治るかと言えば、確証は持てません。ずっとお世話が必要なのかもしれません。」
「そうですか」お母さんとお父さんのがっかりした声が聞こえる。私も最近頻繁に苦しくなる。
 
「大おばあちゃんから電話。予定日は何時?って。あわてんぼうの人だからもうお祝いが届いてる。まだあのこと話してないけど、言い難くなっちゃった。」
お父さんと話している。「いつか言わなきゃ。」
 
お母さんとお父さんは最近毎日話しかけてくる。「調子はどう?お母さんは今日何々をしました。お父さんはあなたのために可愛い、でもちょっと大きすぎるピンクのパジャマを買ってきましたよ。」「早く会いたいな。どんな顔をしているのでしょうね。お父さん似?それとも私に似ているのかな。」「赤ちゃん、あなたがどんな風に生まれても私たちはずっと守ってあげるからね。だから安心して生まれてきてちょうだい」
すごく嬉しいはずなのに涙が出てくる。最近自分でも自分の体のことがわかってきたような気がする。苦しくなる回数がずっと増えてきている。そしてこの症状は残念だけどとても手に負えないもののような予感がする。先日、冷たいものがお腹を擦った後、男の人の声が聴こえた。「今はまだお母さんのお腹の中で頑張れていますが、生まれてしまうと一気に自分で呼吸をしなきゃなりませんので負荷がかかってしまいます。赤ちゃんにはとても過酷な状況です。精一杯のことはしますが、前にも言ったかと思いますが、一生気をつけなければならないかもしれません」
 
最近お母さんも沈み込んでいる日が多い。毎日のようにお父さんと話をしている。ふたりとも無理やり元気を出そうとしているけど、無理しているのが私には分かる。きっと私のせい。
 
急に生まれるシーン挿入
時々私は考える。お母さんやお父さんの住んでいる世界はどんなだろうと。それは楽しいところ、悲しいところ。そこは本当に生きていく価値が有るところなのかだろうか。お母さんやお父さんは私に会いたがっている。二人の声は無条件に私の気持ちを穏やかなものにしてくれる。だから私も早く二人に会いたい。お母さん手が私に直接触れたり、お父さんの眼差しがやさしく注がれるその時、私はどんな気持ちがするのだろう。自分で息をして、外の光を感じる時、今とは違った気持ちになれるのだろうか。
 
時間は過ぎていく。もう少しでお母さんに会える日が近づいている。でも最近は苦しい時間が多くなってきた。じっとしているのがつらくて、つい動いてしまう。
 
あれは合図なのだろうか。外の世界に出て良いという。でもそれは私とかお母さんの意志とは関係のないところで進められているみたい。急に廻りが賑やかく動き始めた。私は何かに押されたり、引っ張られているような気がする。私はきっと外の世界に出られるのだ。幸い今は苦しくない。これならお母さんにもお父さんにも元気なまま会えるのかもしれない。廻りの動きが激しくなってきた。お母さんはいつもと違う場所にいる。
 
冷たい空気を感じる。いままでの温かいところとは違う。少し冷たいけど大きく包まれて広々とした感じ。お母さんの心臓の音が聞こえない。その代わりお多くの人の声が聞こえる。

ここまでは勢いで進んだ
だがここからが難しい、、
ずっと気になっているが、お終いまで行かないともモヤモヤするが
最後までいけるのだろうか
(どうであれ最後まで行くべきか、、)
 

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