4月24日の『クローズアップ現代』のトピックスは、「コールセンターの光と影」*であった。コールセンターが大都市から地方に展開し、産業の少ない地域の雇用創出に役立っている。しかし、新たに生まれる仕事の内容を考えると、もろてを上げて歓迎というわけにはいかないという内容であった。実は、こうした問題設定自体が時代遅れと思われるほど、コールセンターはIT時代到来以前から、われわれの日常生活に深く浸透してきた。製造業などと違って、業務の内容が見えにくいために注目を惹くことが少なかった。
広がるコールセンターの可能性
コールセンターは、地理的に離れた供給者と消費者の間の意思伝達を電話を含むIT技術を駆使し、ヴァーチャルな「対面」方式で実施するシステムである。そのビジネス領域は銀行業務、コンピューターのヘルプライン、サポート、受発注、セールスなど、あらゆる分野へ拡大している。
雇用機会が地元にない地方では、賃金率は低いが一度に多数の雇用を創出することが可能なgため、歓迎する地域が多い。地方の都市を訪れると、以前は賑わっていた商店街などがシャッターを下ろし、閑古鳥がないている光景がいたるところに見られる。地方都市の衰退は明らかだが、その再生は容易ではない。
さしたる大企業なども存在しない地方では、一度に50-100人分の雇用を生み出すことは至難なことである。そのため、自治体が事務所などのインフラまで助成、提供してまでコールセンターを誘致していること もある。少しでも労働コストの安い地域を求めて、札幌のような大都市でも40社以上が進出している。
情報通信関連企業立地促進補助金(コールセンター補助金)などの名目で、県などの誘致側が新規雇用者への人件費補助、さらに回線使用料、事務所賃借料などを補助する場合が多い。雇用されるのは、主として30-40代の主婦が多いが、雇用機会がない地域では高校などの新卒者も働いている。
現代の「女工哀史」?
しかし、TVが映し出したように労働者の定着率は良くない。時間賃金率がきわめて低い上に、仕事の内容が精神衛生上あまり良くない。消費者のクレームなどが、オペレーターにとって大変厳しいプレッシャーとなる。確かに、手厳しいクレームなどに直面するオペレーターは、直接雇用でもないのになぜこんなことをいわれねばならないのかという思いがするだろう。しかし、電話の反対側でクレームをつける消費者は、そんな事情はまったく分からない。心身ともに疲弊してしまう現代版「女工哀史」といわれる状況が生まれている。
実はグローバルな視野で見ると、アメリカやイギリスなどの企業は英語圏としての優位を生かして、自社のコールセンターをインド、フィリピン、アイルランド、南アフリカなど国外に置くまでにいたっている。アメリカの消費者が購入した製品について問い合わせたところ、少し変な応対だったので問いただすと、マニラ郊外のコールセンターであったというようなことが実際に展開している。
アウトソーシングの新たな形
インターネットの発達は、従来考えられなかったような新しい仕事、労働の次元を創り出した。インターネット上で、仕事の機会が瞬時に外国へ移動してしまう新たな形態での「アウトソーシング」である。いわば、「ヴァーチャルな移民」ともいうべき新しい形態である。
インターネット上での仕事の移動には、移民と国民国家との間に生じるさまざまな軋轢をある程度回避する効果も期待される。人の地理的移動を伴わないだけに、移民による文化的衝突のリスクを軽減するという利点もある。しかし、すべての仕事がインターネット上で移動するわけではない。製造業、農業、建設、レストランなど、大部分の仕事は、本来的に立地と不可分な関係にある。
産業革命以来の激変
それにもかかわらず、コールセンターに象徴される人の目に見えない「仕事の機会の移動」は、今後注視してゆかねばならない重要な意味を持っている。英語と異なり、日本語圏は小さいためコールセンターが海外へ置かれる例は少ないが、ソフトウエア開発の場が中国やインドへネット上で移転するオフショアリングは明らかに進んでいる。「仕事の世界」は、あまり注目されていないが、産業革命以来経験したことのない変容をしているといえるだろう。
本ブログ内関連記事
http://blog.goo.ne.jp/old-dreamer/e/c32d8d1db444d48542d7153bfd0b5a0f
References
*
「コールセンターの光と影」『クローズアップ現代』2004年4月24日
コンピューターテレフォニー編集部編『コールセンター白書2005』リックテレコム、2005年