Charles Edouard Delort (1841-1895)
The Cardinal's Leisure
Before 1885, Oil on canvas, 78.7x 61cm
Detroit, Detroit Institute of Arts
Courtesy of Detroit Institute of Arts:
http://www.dia.org/the_collection/overview/full.asp?objectID=42360&image=1
興味尽きない人物
ラ・トゥールの人生もそうだが、リシリューのそれも大変興味深い。画家と宰相・枢機卿というまったく異なる立場の人物である。しかし、つながっている。そこへ立ち入ると、どこまでもわき道へ入っていきそうだ。なにとはなしに、今に残る作品に描かれたリシリュー像を見ていると、死後350年以上も経過しているのに、この時代のさまざまな光景が目の前に彷彿として現れてくる。こうした人物はそれほど多くない。世界史に残る偉大な人物であったことは間違いない。メモ代わりのブログ、もう少しだけ、記しておこう。
リシリューはその盛期には、宰相・枢機卿としてフランス国王に次ぐ地位にあり、王に仕えることをもって自らの最大の栄光としていた。「王を間に挟んでフランスを支配する」ともいわれた実力者だった。自画像が絵画、彫刻ともに大変多いことを考えると、多分、かなり自己顕示欲の強い人間だったのだろう。
シャンパーニュに描かせた、当時は王しか描かれることがなかったといわれる全身像の自画像は、大変お好みだったのではないかと思われる。愛好家にも人気のあるイメージらしく、モントリオール展には、後年1905年に別の画家が制作した作品も展示された。
枢機卿の楽しみ
リシリューのイメージは、さまざまにとらえられてきた。権謀術数にたけた辣腕政治家という面、フランス王への絶大な忠誠心の持ち主、芸術家や美術制作のパトロン、自らも当代屈指の文人であるとの自負の側面などである。そして、時代が経過するとともに、カリスマ的な存在という面から人間個人としてのこの人物の精神的、情緒的な面への関心も高まってきた。
リシリューの死後、創り出されたイメージもかなり面白い。19世紀後半に描かれた作品には、リシリューが仕事の合間にか、王宮近辺を描いたような図の上で、数匹の猫が遊んでいるのを楽しんでいる情景を描いたものがある。この当代稀に見る多忙な人物にとって、私的な時間とはきわめて限られたものであったに違いない。そして、おそらくこの時代の屈指の文人ともみられていたのだろう。宮殿の階段をなにか書物を読みながら降りてくるリシリューに、行き交う宮廷人たちが帽子をとり、会釈をしている構図の作品もある。
映画になったリシリュー
そして、小説の世界ではあのデュマの『三銃士』 Les Trois Mousquetaires (1844年)は、あまりにも良く知られている。映画化するにもきわめて格好な人物であった。20世紀初めから、これまでに50本を越える作品が制作されているという。『枢機卿の陰謀』、『シシリュー』など、この人物が主役になっている作品もある。忘れてしまったが、私もどこかで見たような記憶がある。ハリウッド作品が多い中で、最も史実に近い考証の上に作られたのは、チャールトン・ヘストンがリシリューに扮した『三銃士』(監督リチャード・レスター、1973年)とのこと。
小説や映画の世界でも、リシリューは多くの場合、いつも画面に現れているわけではないが、どこか大きな存在感があり、卓越した知性を持った実力者と描かれている。これは、実際のリシリューが望んだ姿なのかもしれない。
大きな転換の年
1642年は大きな時代の変わり目であった。リシリューは1642年5月23日、遺言書をナルボンヌで口述した。病名は不明だが、人生の終末が近いことを悟っていたのだろう。そしてこの年、7月3日には、ケルンであのマリー・ド・メデシス(アンリIV世の2番目の妃、ルイXIII世の母后)が死去した。
9月には、プッサンが失意のうちにパリを去り、ローマへ戻った。この画家はフランス生まれだったにもかかわらず、ローマに魅せられ、パリへ来るのは気が進まなかったのだ。そして12月4日にリシリューが死去した。
生前リシリューがルイXIII世に勧めていたマザランが地位を継承する。しかし、そのルイXIII世も翌年1643年5月14日、この世を去ってしまう。後を継いだルイXIV世はまだ5歳であった。
1643年末、アンリ・ド・ラ・フェルテ=センヌテールHenri de La Ferté-Senneterreが、マザランによって、ロレーヌ総督に任命された。美術愛好家であるラ・フェルテにとって、ラ・トゥールの作品は上納金よりも欲しいものになっていた。
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ラ・フェルテとラ・トゥール:
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Reference
Judith Prokasky. 'From Painted Campus to Silver Screen: Richelieu in Film', Ed. by H.T.Goldfarb. Richelieu: Art and Power,