クイズをひとつ。この絵の作者とテーマは?
おわかりになった方は、17世紀絵画のかなりのフリーク?と自認されてもよいのでは。 そう、やはりジョルジュ・ド・ラ・トゥールでした(下掲)。
「聖アレクシスの遺骸の発見」 Georges de La Tour, The discovery of the corps of the St. Alexis, Dublin National Gallery of Ireland
ラ・トゥールの原作に基づく模作と考えられている(真作説もある)。
大変美しい絵である。この世を去ったばかりのひとりの老人と少年の発見(そして別れ)の場面である。深い闇の中に浮かび上がった二人の姿には、凛として厳粛な空気が充ちている。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品は、書籍などの表紙に使われることが多い。今回は「色の歴史」シリーズで、すでに『青の歴史』*を刊行しているミシェル・パストゥローの2作目であり、『黒の歴史』である。
ラ・トゥールのこの作品が、「黒」の代表作品として、表紙に使われたことには驚いたが、改めて見ると、やはり素晴らしい作品だ。確かに、絶妙な「黒の世界」の代表作である。
「白」と同様に「黒」もイメージは別として、自然界にはそのままの色では存在しない。古来、濃い褐色と青色を混合して作られてきた。その後、炭素煤など良質なカーボン・ブラックが見いだされ,使われるようになった。
17世紀、顔料、絵の具などの画材は、ほとんど画家の工房で準備されてきた。製法は、しばしば工房ごとの秘密であった。原材料の顔料をそのままあるいは水や油を加えながら、大理石の板上などで、粒子が適度な段階になるまで練り上げる仕事である。大変時間も要し、力仕事のため、徒弟がいる工房では、親方の指示で若い徒弟が作業を受け持っていた。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの真作の模写とされているこの作品、改めて「黒」に着目してみると、その濃淡、色合いは絶妙だ。ラ・トゥールの研究書の表紙などにもしばしば使われている。
ミシェル・パストゥローは、「赤」の歴史を最初に書きたいと述べていたことを、どこかで読んだ記憶があったので、このたび「黒」の歴史が出版されたことについては、少し驚いた。しかし、「黒」の世界も、見てみると素晴らしい。闇を描くことを得意としたラ・トゥールだが、この「聖アレクシスの遺骸の発見」も絶妙に美しく、静謐な場面を見事に描き分けている。
Contents:
Introduction
In the begining was black
A fashonable color
The birth of the world in black and white
All the color of black
*
Michel Pastoureau. Bleu, Histoire d'une couleur. Paris: Le Seuil, 2000(邦訳 松村恵理・松村剛『青の歴史』筑摩書房、2005年)