毎年桜の開花と並んで楽しみにしていることがある。猫の額ほどの庭に咲く チューリップのことだ。あるきっかけから、同じ場所に球根を植え始めてから10余年になる。例年、10月頃に球根を植え、水をやるくらいで後は特になにもしない。しかし、自然の摂理は絶妙で、4月後半から5月初めにかけて美しく開花し、目を楽しませてくれる。時には前年取り残した球根が開花することもある。開花している時期、明るく輝いた空間が生まれる。
あの小さな球根がどこで、季節の移り変わりを感知しているのだろうか。花のセンサーの仕組みは実に不思議だ。球根を植える時、翌年の春にはどんな色と形の花が地上に姿を現すか、その小さな楽しみがこれまで続いてきた。
このところ、憂慮していることがある。球根を植えた時期とほとんと関係なく、開花の時期が少しずつ早まっていることだ。暖冬といわれた昨年は、明らかに花にも影響を与え、4月1日にはほとんど開花していた。今年も同様で、4月第1週には開花し、すでに満開の時期を過ぎている。球根を植え始めた最初の頃は、5月の連休前くらいが最も美しく、目を楽しませてくれていた。このことは、昨年「早過ぎるフローラのお出まし」と題して少し記した。
この頃は、日本でもチューリップの美しさが楽しめる場所が少しずつ増えたようだ。この花は一本,一本を楽しむというよりは、ある程度まとまって開花しているのが美しい。オランダのような平坦な地が多い国には、大変似合っている。見渡す限り、広い地面をさまざまな色彩のカーペットで覆ったような光景が展開する。しかも、この花は原色であっても違和感がない。淡色のチューリップも優美だが、広い地面を埋め尽くすには濃い色の花のほうが迫力がある。
チューリップというと、思い出すのは、やはりオランダであり、開花の時期の美しさは類がない。今でこそ世界に輸出され、珍しい花ではないが、当時は大変貴重な植物だった。珍しい形状の花は、きわめて高価でもあった。オランダのような砂地に適し、見た目以上に強靱な花だ。イギリスでも植えてみたが、球根を植えるだけで、後はなにも世話をしなくとも、春には見事に咲いてくれた。もちろん、これまでの間に、おびただしい改良が加えられてきた。桜と違って、毎年球根を植えないと鑑賞できないことも、巧みな改良の結果らしい。
チューリップの球根は、オランダなどから世界各国へ輸出されているので、どこかで地球温暖化と開花の時期について、記録、検証がなされているのではないかと思っている。