Book cover, The Iron Lady by John Campbell. London: Penguin book, 2009 *1
メリル・ストリープ。やはりすごい女優だ。映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を見る。すでに多くの感想、映画評が出回っているので、重ねて書くことはしない。
この映画、主人公であるマーガレット・サッチャー、そしてそれを演じるメリル・ストリープという二人の女性の強靱さに、感動した。現実のマーガレット・サッチャーは引退後、老いと病を背負いながらも、日没への日々を過ごしている。マーガレット・サッチャーを知らない世代が増えている中で、彼女がイギリスの首相であった時代のイメージは、まだ強く管理人の網膜には残っている。
他方、メリル・ストリープもごひいきの大女優だ。「クレイマー・クレイマー」、「ソフィーの選択」「マディソン郡の橋」など以来、しばらく主演の映画を見る機会がなかったが、期待を裏切らなかった。スクリーン上に見るまでは、はたしてサッチャーになりきれるかという疑問もあったが、実際に見てみると、ほとんど違和感を感じさせない。イギリス英語の発声練習までして、この作品に臨んでいる。もっともメリル・ストリープは「ソフィーの選択」の時には、主役ソフィーのポーランド訛りの英語まで体得したようだから、自らの役に徹底しているのだ。変えることのできない容貌の違いについても、メーキャップの工夫で,違和感はなかった(メーキャップ賞受賞)。アカデミー賞主演女優賞授賞は、最初から決まっていたのだ。
映画の中で、サッチャー首相が、衰退の色濃いイギリスの実態を批判するだけの野党や自党の議員たちの反対派(wets)を叱咤激励する場面があった。その時の言葉:”Take pride in being British.” (イギリス人であることに誇りを持て)が強く残った。
かつて「21世紀は日本の世紀」などと傲慢な言辞が聞かれた時代もあった。しかし、いまやこの国は満身創痍の状態といってよい。もはや部分的手直しでしのげる段階ではとうにない。屋台骨が揺らいでいる。国民ひとりひとりがどこまで自分の足で立って行けるか。サッチャーと考えるところは必ずしも同じではないが、この言葉の意味するところに、共感する部分は多い。
鳴り物入りで打ち上げられた国家戦略構想も、東北大震災の復興プランも、骨格はどうなっているのか、国民の琴線に響いてこない。日本はどこへ行こうとしているのか。
サッチャー首相は言う。「人々はあまりに感情に流され、考えることをしない」(People spend too much time feeling not thinking.*2)
このたびの東北大震災は国民の心胆を寒からしめたが、国民ひとりひとりが、安易な風潮に流されることなく、自ら深く考えることをしないかぎり、自滅するばかりだ。考えることは違っても、この時代を大きく変えたマーガレット・サッチャーの言葉を深く受け止めたい。
*1 マーガレット・サッチャーの伝記はすでに数多く出版されているが、本書は考証がしっかりしており、お勧めの一冊。映画と併せて読まれると、理解は格段に深まる。
*2 これらの言葉は、アメリカなどの言論界へも影響を与えている。たとえば、次の論説を参照されたい。
December 29, 2011