時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ミネルヴァとの再会;ベルリン国立美術館展から

2012年08月17日 | 絵のある部屋

 

Rembrandt van Rijn
Minerva, c.1631
Oil on canvas
60.5 x 50cm
Staatliche Museen zu Berlin

拡大はクリックしてください

 

 猛暑の1日、ベルリン国立美術館展(国立西洋美術館)へ出かけた。この頃、しばしば活用している暑さしのぎの方法である。美術館はこうした日を過ごすには格好な場所だ。館内は適度に温度調整がなされている上に、作品を鑑賞している間に、かなりの距離を歩くことになるので、運動不足の解消にもなる。暑さに疲れていた頭脳も、活性化するという効果も期待できる。

 さて、肝心の展示内容だが、感想はやや拍子抜けであった。展示の思想が明確な企画展と違って、こうした総合展示は総花的で、えてして焦点の定まらない迫力の欠けたものになりがちである。今回もその点を痛感した。ベルリンの美術館群は半世紀近くにわたり、かなりよく見ており、その圧倒的充実度も実感してきただけに、少し残念な気がした。とりわけ、2015年完成に向けて中核となる壮大な美術館島計画も、いまだ進行の途上だ。しかし、そうした美術館計画の全体像も、この展示方法ではほとんど見えてこない。近未来のベルリンの美術館がどんな姿になるか、少なくも、一般の観客には伝わらないだろう。

またもフェルメールですか 
 そうした中で、集客対策とはいえ、フェルメールの『真珠の首飾りの少女』が最大のアトラクションのひとつになっていて、いささか食傷気味だ。見ていると、観客も「ああ、たしかに真珠の首飾りだね!」と、その点を確認さえすればご満足のようで、他の展示は通り一遍で素通りされる方が多い。そして多くの方が次の目標の『真珠の耳飾りの少女』を見るために、近くの「マウリッツハイス国立美術館展」(東京都美術館)へお出かけというご様子だ。フェルメールはごひいきの画家ではあるが、最近のメディアが作り出した過剰なブームにはつきあえない。


ベルリンの国立美術館では、この作品は確か同じフェルメールの『紳士とワインを飲む女』と隣り合わせで展示されていた。

 それでも、来て良かったと思う作品に出会えれば、幸いである。子細に見れば、大変感銘を受ける作品も多い。ベルリンの美術館群は、ペルガモン美術館をはじめとして、壮大な建築物、彫像、フリーズなどが重要な見物なのだが、これらは現地に行くしかない。

美しい胸像、レリーフ
 今回の展示には彫像、レリーフなどの作品で興味深い作品がかなりあった。ちなみにかつて筆者のごひいきの場所はペルガモンとすでに2005年に閉館となったエジプト美術館であった。エジプト美術といえば、(とても海外へ貸し出せる作品ではないが)ネフェルティティ像をめぐって、ドイツとエジプトの間で、紛争もあるが、そうした問題をしばし忘れて、永遠の美女(BC1350年頃)にご対面できる。


 今回の展示品の中で、ひとつの胸像が目にとまった。グレゴリオ・ディ・ロレンツォ・ディ・ヤコポ・ディ・ミーノ『女性の肖像』である(下掲)。15世紀頃のイタリアの肖像は、あの特徴のある人物の横顔を描いた作品が多いが、この作品は立体の肖像である。

 比較的小型の上半身の肖像で、最初のデッサンさえできれば、後は工房で作業し、依頼主の所に送ることができたと思われる。同時代の絵画の世界における銅販画の出現に似ているところがある。輸送、再生、頒布などが容易に行える。

 この女性の肖像は、過去に見た記憶があるのだが、依頼主と思われる女性の、穏やかな、それでいて顔の輪郭がはっきりと再現された大変美しい作品だ。正面ばかりでなく、横顔も大変美しい。実際にも美人の誉れの高かった人であったのだろう。当時の上流階級の女性だったら、だれもが胸像制作を頼みたくなるのではないか。



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Gregorio di Lorenzo Di Jacopo Di Mino(Florence?,c.1436-Folil? 1504)

Portrait of a Lady
c.1470, Stucco
50.5x47x25cm
Staatliche Museen zu Belin

 絵画では、やはりレンブラント・ファン・レインの「ミネルヴァ」Minerva(上掲)が管理人のお好みだ。ミネルヴァはローマ神話で学芸の庇護者とされているが、作品には一見して不思議な印象を与える若い女性が描かれている。彼女は豪華な毛皮や宝石などで縁取りされた、暗赤色の重厚なコートをまとい、椅子に腰掛けている。背後にはミネルヴァのアトリビュートとされるメドゥーサの頭部が彫り込まれた盾が掛けられているようだが、照明の関係もあって。はっきり確認できない。この作品、一時はレンブラントの僚友ヤン・リーフェンスの作品に帰属されていたようだ。この作品は署名、年記もないが、レンブラントには、この作品から発展させたと考えられている1635年の同主題作品『書斎の中のミネルヴァ』(下掲)がある。

 後者は、あのサスキアがモデルといわれるが、今回展示の作品のモデルは誰なのだろう。様々な点で興味を惹かれる作品だ。

 ちなみに、下掲の作品は、個人によるオークションの落札価格が4500万ドルといわれ、話題を呼んだが、今回出展のミネルヴァもそれに劣らない名品といえる。



Rembrandt van Rijn
Minerva in her study by Rembrandt
1635, canvas, 137 x 116cm.

 

コメント
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