時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

日本:信じがたいほど小さくなる国?

2014年07月06日 | 特別トピックス


人口構造の推移(拡大クリック)
厚生労働省・人口問題研究所

  


  英誌 The Economist の最近記事の見出しだが、一瞬私の目をとらえた。「信じがたいほど小さくなる国」 "The incredible shrinnking country"というタイトルだ。日本の急激な人口減少がもたらす国力の驚くほどの減衰を論じている。この雑誌、しばしばアイロニカルな論調で、鋭く世界を分析することで知られる。もっとも時々これはやり過ぎと思う風刺に出会うこともあるが*2、総じて目配りが確かで、的を射て外すことが少ない。

 日本の人口が危機的な減少過程に入っていることは、この小さなブログに限らず、いたるところで取り上げられてきた。管理人は政府が人口減少の持つ重要さを正当に評価することが遅れ、もっと早期に有効な政策を導入してこなかったことが今日の危機をもたらしたと思っている。遅まきながら提示されている政策には、女性の社会進出支援、育児・介護支援や家事支援、高齢者の雇用延長といった政策が含まれている。そのひとつひとつは、評価しても、全体として迫力に欠け、今後の日本が活力を取り戻し、人口も一億人の水準を維持するという政策上の実効性という点ではかなり疑問を感じてきた。

母親を待つ不安な子供たち
 いつも通る道に公的な託児所がある。朝は働きに出るお母さんたちがせわしげに子供を預け、それぞれの職場へ出かけていく。父親らしき男性も時々見かけるが数は少ない。前面がガラス張りで道路に面している。20人くらいの子供たちを3-4人の女性が面倒を見ているようだ。

 子供たちは朝は活発で、母親としばし離れるのをあまり気にしていないようだ。友達と遊べるのが楽しみなのだろう。しかし、時々、夕暮れに通ると、しばしば可哀想な光景に出会う。母親たちが次々と迎えに来てそれぞれ嬉々として
帰って行く。しかし、2,3人の子供が取り残され、立ち上がって、両手と顔をべったりとガラス戸に押しつけて、母親が来るのを待っている。皆とても不安げでほとんど泣き出しそうな顔をしている。

 きっと母親だって、仕事が遅くなったり、夕食の買い物をしたりで、子供たちが待っているのを知っているに違いない。恐らく全国いたるところで、こういう光景が見られるのだろう。働きながら子供を産み育てるということの重みは、計り知れない。

 こうした重圧を覚悟の上で、出産、育児を続けるには、家庭のことばかりではない。産まれてくる子供が健康に育ち、教育の機会を得て、ひとりの立派な社会人になるまでの見通しが多少なりともついていないと、踏み切れないだろう。女性が仕事と結婚のいずれを選ぶかという選択に苦しむのも、その両立を図ることがかなり困難な社会環境にあるためだ。

 人口は「ひのえうま」のような迷信でもなければ、短期には増減ができない。しかし、将来に明るさが感じられる長期的展望の下で、相互に連携のとれた有効な政策を導入することができれば、増加を期待することができる。最も重要なことは、子供を産んで育てたいという夫婦を支える家庭・社会の環境基盤を、どれだけ確保できるかにある。子供を育てたい、生まれてくる子供には平和で健康的な希望や未来があるはずだという人間的な要望が社会的に担保されないかぎり、安心して子供を産み育てるという環境は形成されない。

きわめて困難な1億人水準維持
 英誌が指摘する政府の人口予測では現在約1億2700万人の人口は、これから50年後には7割くらいに減少するとみられている。さらに、仮にそのままの状況が続くならば、2110年には4300万人の日本人しかいないという予測値もある。政府が試算している2060年において人口1億人の水準を維持するには、現在の出生率1.43を2030年までに、2.07にまで引き上げる必要がある。政府は出産・子育てを支援する予算を倍増するとしているが、これまでの人口推移を見るかぎり、きわめて困難と言わざるを得ない。

 人口減少がもたらす負担は想像を超えて大きい。高齢者の比率は増加し、数が少なくなる若い人たちが支える負担は増えるばかりだ。働き手は少なくなり、社会基盤の維持も難しくなる。高齢化した母親の介護のために60歳代で早期退職した知人の男性もいる。時々話しを聞くが、夕刻、年老いた母親のために、食事の材料を買い求め、調理をして、おそらくさしたる会話もなく、食事をしている風景を想像することはつらい。 

 次の時代を見る必要はない管理人だが、この国の来し方、行く末を多少は考えてしまう。個人的には、これからの時代、大国であることを競う必要はないと思う。小さな国になっても、国民が誇りを持ち、輝きを失わない国であってほしい。ワールド・カップのドラマを見ながら、さまざまなことを思った。大国であっても出場できずにいる国、小国であっても誇りを持ってプレーし、観る人を感動させる国もある。

 実際に半世紀あるいは一世紀後にどれだけの人口になるかは、誰にも正確には分からない。日本の人口は減少しても、世界全体としては(伸び率は減少しても)人口増加が進み、世界経済自体が破綻状態となるとの予測もある(可能性は高い)。その中で、日本の人口が大幅に減少することだけは、ほぼ間違いない。日本がこれからの時代をどう生きるかは、単に出産・育児支援、就労支援、高齢者活用などの個別の政策を超えた次元で考えねばならない。最重要の課題に対してどう対応するか。その試案はまだ出されていない。




 "The incredible shirinking country" The Economist May 31stk, 2014

*2 ”How to deal with a shrinking population” The Economist July 28th 2007 (減少する人口にどう対処するか」)なる特別記事で、表紙に泣きそうな顔の日本人の赤ちゃんが掲載されていた。その説明には「限定生産」 Limited Edition と記されていた。

How to deal with a shrinking population

 


7月9日追記:

7月3日S.K.先生の訃報を知る。先生のテニス仲間が管理人の恩師であったこともあり、17世紀ヨーロッパについて折に触れて、興味深いことを多数ご教示いただいた。世に知られたドイツ文学の大家であったが、同僚として接していただき、大変楽しい人生の一時を過ごした。謹んでご冥福をお祈り申し上げる。

 

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