自由でない女神?
僅差で当選したが支持率は低下する一方のトランプ大統領。今や史上最低の支持率ともいわれるまでになった。
選挙戦以来、公約の筆頭に掲げていた移民受け入れ制限策も、これまでのところほとんど成果をあげることができないでいる。
ところが8月2日、突然アメリカ合衆国への合法移民受け入れを10年間で半減すると発表した。とりわけ現在のアメリカ市民及び合法居住者が、母国に残っている家族を呼び寄せる枠を厳しく制限することをその手段とした。移民の家族の繋がりを断ち切る政策は、人道的立場から国際的にも厳しく抑制されてきた。
大統領就任後、トランプ大統領は直ちにイスラム教徒が多い国からのアメリカ入国者を制限し、難民の流入を最小限にし、不法入国者の逮捕、拘束、最終的にはメキシコとの国境に堅固な壁を構築するとの方針を貫こうとした。しかし、いずれも民主党、一部の共和党議員、国民世論などの反対の前に、壁に突き当たってきた。このたびの発表は、第一の公約としていた移民政策が頓挫していたのが、気になっていたのだろう。
今回は、下院に対して合法移民の受け入れ制限を求める傍、国民的統一、経済成長、労働者間の公平、アメリカの価値など、大統領選中に論争の的となったテーマをトランプ方式で議論に組み込んでいる。
他方、トランプ大統領への反対者は、記者会見などで、自由の女神の台座に刻み込まれた建国の精神、疲れはて、貧しく、寄る辺なく新大陸へ身を寄せた人々へ の保護者としてのアメリカの基本的理想を損なうと反対している。他方、トランプ側はこの詩は、「自由の女神」が設置されてから後年付け加えられた部分だと却下している。要するに女神と台座は関係ない別物だという強弁だ。
トランプ大統領側はアメリカはこれまで長年にわたり極めて多くの低賃金移民労働者を受け入れ、アメリカの労働者の基盤を切り崩してきたと反発。新たなに導入する入国制限によってこのシステムを再構築し、これまで主張してきた「アメリカ・ファースト」の基軸となるべき人々のあるべき立場を取り戻すのだという。具体的には、低賃金で働く移民を減らすことで、米国民の雇用などを増やすことを目指している。
南部アーカンソー州のトム・コットン、ジョージア州のデイヴィッド・パーデュー上院議員が中心となって上程した法案は、誰が入国を許され、法的な居住権を付与されるかを、従来のアメリカに居住する者との繋がりではなく、入国応募者のスキル、教育水準、英語能力、年齢などを基準にポイント形式で決定するとしている。ポイントが高い移民が優先的に受け入れられる。カナダ、イギリス、オーストラリアなどがすでに導入している方式だ。この方向は、2007年に亡くなったジョージ・W・ブッシュ大統領が指示したより包括的な法案の考えにも近いと言える。
アメリカ国民の親族への永住権付与も未成年や配偶者に絞り、年間100万人に発行しているグリーンカードを10年間で半減させる。すでに議論が巻き起こっており、法案上程者は我々は「労働者のアメリカ」'working-class America' を目指すのではなく、それを変化させたいと述べている。しかし、サウス・カロライナの共和党議員のように、それでは農業などはやっていけないとの反対も強い。ホテル、レストラン、ゴルフ・コース、農場などの労働者が半減すれば、破綻すると述べている。
毎年、100万人近くの合法的な居住権を付与してきたが、初年度は41%、その後10年に半減する計画だ。
いずれにせよ、アメリカの人口、労働力の方向を定める政策だけに、自由の女神もしばらく身の置き所がない。