時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

必要なのは個人の確立: 見えないものに翻弄される世界(7)

2020年04月03日 | 特別記事


新型コロナウイルスの感染力は想像以上に凄まじい。2019年末に中国において発生したこのウイルス COVID-19はわずか3ヶ月くらいの間に、地球上の大部分に拡大、蔓延した。その感染のメカニズムはインターネット上のウイルスのそれに似通っているところがあるが、それよりも短期間で世界を席巻しパンデミックとなった。なによりも恐ろしいのはウイルスが持つ致死力だ。人類の歴史において、こうしたウイルス、細菌は何度か出現して多くの人命を奪ってきた。

過去150年くらいの間で、人類は医学、薬学など諸科学の進歩でなんとかウイルスや病原菌に対抗する術を獲得してきたが、感染症は絶滅することなく、新たな姿で突如として現れ、人類を脅かしてきた。過去に起きた感染症の歴史を見ると、しばしば人口の大幅な減少を招き、文明の基盤を脅かした。すでにアメリカではまもなく行われる国勢調査への影響が話題となっている。トランプ大統領は最大24万人の感染者が出るとしている

現在進行しているCOVID-19との戦いが如何なる結末を迎えるか、その帰趨の輪郭はいまだ見えていない。東京オリンピック、パラリンピックは来年、2021年に延期されたが、果たして人々が安心して競技をし、それを楽しむことができるような環境が取り戻せるか、本当のところ誰にもわからない。今後、アフリカ、南アメリカなどにウイルスが拡散、浸透して行けば、今後一年余りで開催ができるほどに終息にこぎつけられるのか、大きな不安の暗雲が漂っている。関係者の関心はすでにアフリカ、南アメリカなどの開発途上国のウイルス感染に移っている(例えば、’The next calamity:Covidー19 in the emerging world’ The Economist March 28th-Aoril 3rd 2020)。

ピンチをチャンスに
日本は政府の政策発動が遅いため、地域レベルなどでの対応が必要だ。こうした中で、福島県の中高一貫校がオンライン教育を本格的に導入することがTVで伝えられていた。それを見ていると、来るべき新しい教育の姿の一齣が見えてきた。未だ試行錯誤の試みだが、成果は上がり始めているようだ。例えば、学校のクラスではなかなか発言できない子供たちが、IT上の授業では他人を意識せずに発言する機会が生まれているようだ。

教育にとって、距離は壁ではないという近未来の新たな可能性も見えてきた。IT上の授業は現在の場所に束縛された教育のあり方を考え直す良い機会だ。大学を例にあげれば、校舎やキャンパスの立派なことは、教育にとって本質的に意味がない。オンラインの教育システムが整備、確立されれば、キャンパスは教育の内容をチェックし検討する場であり、必要に応じて時々集まる場所でさえあれば良いはずだ。こんなことを考えながら、ふと目にしたTV番組が「自学ノート」を学齢期から書いている子供の番組を見た。子供の持つ好奇心や探索心を正しく認め、誘導できる大人がいれば、画一的な教育ではなし得ない知的潜在力の開発が期待できる。

COVID-19が発生し、猛威をふるい始めて以来、きわめて多くの虚実入り混じった情報が世界を飛び交っている。それらの中から真実と思われる情報をフルイにかけて選び出すには、受け取る側に多大な努力が必要とされる。そこで柱となりうるものは、理性的判断としか言いようがない。何を選び、何を捨てるか。

社会にも休息を
最近、コロナウイルスへの防備措置として、急速に注目を集めている言葉に、本ブログにも記した「社会的距離」social  distancing という対応がある。一般には、社会生活において他者との物理的距離を2m程度 保ち、人混みを避けるという意味で使われているようだ。あまり分かりやすい用語ではない。

ブログ筆者はこの言葉を使うなら、さらに進めて、社会との関連で個人の独立の程度を深めるという意味で理解したい。混迷の只中にある現在、求められているのは、偽りの情報を判別、排除し、他人や権威への安易な依存から脱却し、個人の独立を深めることではないか。都市の外出規制などで、これまで実現しなかった大気汚染の減少など思いがけない効果も生まれている。スモッグで汚れきったパリ、ロンドン、北京など大都市に久しく忘れられていた青空が戻っている。これまで休むことなく走り続けてきた社会に休息を与え、適切に定義された望ましい社会と個人の関係を考える良い機会ではないか。

コメント
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