時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

歴史を凝縮してみる:コロナ禍のひとつの見方

2020年09月26日 | 回想のアメリカ



電話交換手の世界:監督者はローラースケートを履いて交換t手の間を動き回っていた。繊維工場では女子工員もスケートで機械の間を走り回って働いていた。今どれだけの人がそのイメージを描けるだろうか。


2020年という年を後世の人々はどう位置づけるだろうか。中国武漢に始まった新型コロナウイルスの感染は、数ヶ月で北極、南極を除く大陸のほとんどに拡大した。当初は限定された地域での感染に過ぎないなどと、ことさら楽観視していた政治家たちも目に見えないウイルスには勝てない。2020年9月現在、世界の感染者数は3,200万人に達した。死者も100万人を越えている。

ウイルスは人間の健康を脅かしたばかりか、政治、経済、科学、文化などあらゆる面でさまざまな歪みやきしみ、そして破壊を生み出している。その変化の大きさと深さを考えると、もはや単に健康面に関わる狭い問題にとどまらない人間活動のあらゆる面に関わる新しい形をとった深刻な「危機」「恐慌」という変化であることはほとんど間違いない。コロナ禍の発生・拡大前からブログでも記していた世界史上の過去の激動期の変化と比較しても、今回の変化の特異なことは明らかだろう。コロナ禍の場合、問題化してから未だ10ヶ月に満たないきわめて短く圧縮した時間に実にさまざまな「破壊」と「創造」が同時的に起きている。平穏な時には抵抗や障壁も多く実現しがたい「イノヴェーション」(innovation: 革新) の21世紀的展開とみることができる。

歴史を圧縮して見ると
ここに紹介する番組のように1世紀近くの長い時代を短時間に圧縮して見ると、このたびの特異な点を実感できる。ひとつの例が、コロナ禍のため家にいることが多くなり、TVなどを見る時間が増えたことだ。その結果、偶然に20世紀のアメリカを題材とした歴史回顧の番組を見る機会があった。

「カラーで見るアメリカ:”メイドインUSA” の誕生」”America in Color:Season 3”  BSTV101, 9月25日、2020年 (「世界のドキュメンタリー」2019年の再放送)
以下では、筆者が番組を視聴している時に記憶に残るトピックスしか取り上げていないが、より詳細は上記番組リザーヴにアクセスしていただきたい。アメリカ社会の産業・労働史についてある程度の知識が必要かもしれない。


20世紀の変化を30分ほどの短い時間に提示しているだけに、見ていて忙しい番組だったが、印象に残ったイメージを中心にいくつかを断片的に記してみよう:

「メイドイン・アメリカ」の時代
今ではメイドイン・アメリカといえるものになにがあるか、列挙するのは難しいが、20世紀前半には、繊維、鉄鋼、非鉄金属、自動車、家電など多くの産業分野で、アメリカ製品が世界市場を席巻していた。General Motors, U.S. Steel, ALCOA(Aluminum Company of America)、General Electricなど、General , U.S. , Americaなど、アメリカ企業の優位を暗示するような社名も目立った。こうした巨大企業の発展の対極には、AFL、CIOなどの大労働組合の誕生と発展があった。大企業に対する大労働組合という構図である。とりわけ、1920年代の”アメリカン・ドリーム”の時代がとらえられていた。

このブログでも記した1911年3月25日、ニューヨーク・マンハッタンで起きたトライアングル・ファイア Triangle Shirtwaist Fire 事件も伝えていた。10階建てビルの上部3階を占めていたこの衣服工場で閉じ込められ、女性ブラウス(shirt-waists)などの縫製仕事で働いていた女子労働者が、18分間で146人(男性23人以外は女子123人で大半は移民労働者、最年少者は14歳)が死亡するという痛ましい火災事故だった。製品の盗難を防止するとの名目で経営者によって工場のドア、階段は鍵がかけられていた。唯ひとつ開けられていた狭い階段は、たちまち壊れ去った。当時の消防車の梯子はビルの高さに対応できなかった。アメリカ社会・労働史上に残る歴史的大事件だった。

アメリカではこうした労働災害などの後に、画期的労働立法などの成立を見たことが多い。本ブログでも記した女性で初めて労働長官に任じられた
フランセス・パーキンス女史の姿も映像に写っていた。1930年代、F.D.ローズヴェルト大統領のニューディール政策の一貫としての社会保障局設置などもこの時だった。


フランセス・パーキンス女史


1940年代には世界初の電子コンピューター(1945年完成)の登場など、現代の社会の先駆けとなった製品が生まれている。ブログ筆者が初めて仕事で使った手回し式の計算機(タイガー計算機)は、鋼鉄製でおそらく数キロはあり、足にでも落としたら、確実に大怪我をする代物だった。大学で使ったコンピューターは、カードパンチ式だった。その後の変化のすさまじさに改めて瞠目する。



タイガー計算機(手回し機械式)

1940年代末には化粧品や衣類の一部では、訪問販売が新しいビジネスとして始まっていた。1940年にはデュポン社がナイロン・ストッキングを売り出した。フライドチキンなどファースト・フッドもアメリカで始まっていた。一大消費市場が生まれていた。

トライアングル・ファイア事件後40年、服飾産業は42万人が働く一大産業になり、労働組合が大きな力を発揮していた。
インターナショナル・レディース・ガーメントワーカーズ・ユニオン(国際婦人服労働組合)は、かつて米国で最大の労働組合の1つであり、主に女性の組合員からなる最初の労働組合の1つであり、1920年代〜1930年代の労働史の中心的存在だった。1969年には45万人の組合員を擁したが、活動を終了した1995年には25万人まで減少していた。労働組合は、時代の主要舞台から去っていた。

1970年代には大きな訴訟の原因となった建築材などでのアスベスト使用の記録、チョコレートで知られたペンシルヴァニア州ハーシー社のカンパニータウン(会社城下町)など、日本人にもなじみのある光景もあった。

映像から学ぶ
残念ながら、日本ではこのアメリカのドキュメンタリーに対応するような番組は、筆者の知る限り見たことはないが、こうした映像番組を見ると、現在コロナ禍の中で展開している変化がいかに大きいかを改めて実感する。歴史の時間軸がぐっと圧縮されているようだ。そのことを認識することで、目前で起きている大きな変化への心構えも違ってくる。そして、この記事のブログへの入力をしながら、世界でコロナ禍と戦う人たちのドキュメンタリーを見た。そこでは人々は世界各地で、眼前のコロナウイルスと闘いながら、貧困、格差などコロナウイルスの後ろに立ちはだかる人類社会の病理と対決していることが伝わってきた。

We shall overcome!


世界同時ドキュメント「私たちの闘い」BS1 2020年9月26日



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