今年は日本・フィリピン国交回復50年とのこと。来年から日本はフィリピンから看護師・介護福祉士を受け入れることで合意している。厚生労働省関係の看護師需給予測は、多少なりとも実態を知る者から見ると、予測の条件設定、作業内容についても大きな問題があり、今後需給ギャップが縮小の方向に進んで行くとはとても思えない。数字上、看護師の供給は増えているかもしれないが、実際の需要はそれ以上に増えている。
看護師、介護士の人手不足は強まるばかり。看護師の潜在有資格者が多数いるから、その復帰を目指すと職業団体はいうが、説得力はない。現在の労働状況で需給が改善されるまでに、職場を離れた看護師が仕事に復帰してくるとは予想しがたい。病院の労働条件は厳しく、離職率も高い。離職中の医療・看護技術の発展も早い。看護師、そして介護士の労働条件は年々厳しくなっており、むしろ、実態はさらに悪化の方向へと進む可能性が高い。看護師の労働条件の改善はいうまでもなく、夜勤体制、労働時間、給与水準など早急な見直しが必要である。旧態依然たる「白衣の天使」的イメージに期待することでは、問題はなにも解決しない。この職業分野が真に魅力的なものとならないかぎり、需要に見合って供給が増えることはない。需給が逼迫すれば、給与などの労働条件が改善されるとの考えはきわめて長期についてのみ当てはまり、実態の改善にはつながらない。
そうした中で、フィリピン看護師・介護士 caregivers の受け入れが決まった。しかし、その背景は外交上、日比両国の面子を維持することが前面に出た政治的決着であり、看護師・介護士労働の実態を踏まえて、その中で外国人看護師・介護士をいかに位置づけるかという観点での検討はまったく行われていない。そのため、受け入れの条件を厳しくし、日本語、国家資格試験など、バーを高めるということに重点が置かれている。しかし、受け入れると決めたからには、そのあり方について、より広い視野からの位置づけ・対応が必要である。
数は少ないが、日本で働いているフィリピン、ヴェトナムなどの看護師、介護士の献身的なサービスは、高く評価されている。今後の日本の医療・看護・介護の領域を、日本人だけで充足して行くことは、いまやほとんど不可能、非現実的となっている。そればかりではない。日本は今後あらゆる分野で外国人労働者の力を借り、お互いに協力して行かねば存立していくことができない。日常の生活の中で、外国人と助け合い、共存して行く経験を広く着実に蓄積して行く必要がある。すべて日本人だけで充足できるという認識は改めねばならない。
* 「日本で働くフィリピン人介護士」NHKニュース2006年11月21日