時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ニューノーマルの入口に立って

2022年01月05日 | 午後のティールーム


ウイルヘルム・ハマスホイ 《Interior. Young woman seen from Behind》

扉の向こうにはなにが

「ニューノーマル」が生まれるまで
2019年末、中国武漢に発したと思われる新型コロナウイルスCV-19は、世界的規模に感染・拡大し、次々と変異株を生み出した。2021年にはオミクロン株という聞きなれない名前の変異株が世界を席巻し、新年になっても収束の見通しは見えてこない。アメリカでの感染者数は新年早々1月には200万人を越え、日本でも全国で2600人を越えた。第6波の到来は不可避な状況を呈している。旧年末には、日本はなんとかオミクロン株の感染拡大を抑え込んだのではないかとの見方が高まったのだが、期待は脆くも裏切られた。

多くの混迷と混乱が世界を覆っている。新型コロナウイルスの感染範囲は世界的範囲に及び、限られた地域の病気 endemic ではなくなった。人々はコロナとの絶え間ない戦いに翻弄され、疲れ切って、安定ともいうべき状態を希求するようになっている。

新型コロナウイルスの感染拡大に先立って、今世紀初めの頃から「ニューノーマル」New Normal (新常態)*という新たな概念が提示されるようになった。この新しい概念の意味する内容に少し立ち入ってみたい。材料として、前回提示した The Economist の短い論説をひとつの素材としてみよう。

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N.B.
元来、このNew Normal 「新常態」「新規範」という新語は、2007年から 2008年にかけての リーマンショックとして現れた世界金融危機後の産業社会の本質について述べられた概念といわれる。しかし、その後2020年年初からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミック(世界的な大流行)にいたっているとのWHOテドロス事務局長の認識などもあって、このニューノーマルなる概念は金融界を超えてさらに広い意味で使われるようになった。しかし、その概念は十分確定したものではない。
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時代を変えた9.11:世界は予測不可能に
このブログでも再三記したように、2001年9月11日の同時多発テロの勃発は、その後の世界を大きく変えた。人々の記憶は移ろいやすいが、この出来事の後、しばらく空の旅は不安とリスクに満ちたものとなった。ロックされたコックピットのドア、武装した航空保安官、液体ボトル、刃物、ラップトップなどの機内持ち込み禁止などの規制を思い起こしてほしい。この同時多発テロ以後、何が起きるかわからないという意識が人々の間に忍び込んだ。予測できないことが頻発する時代になったという感覚は、この頃を境に強まった。それを裏付けるように、9.11の後、リーマンショックが起き、金融界のみならず、産業界全般に不安定感が浸透した。

新型コロナウイルスによるパンデミックはこの延長線上に起きた。2020年年初から既に2年間、世界の人々はマスクの着用を強制され、旅行の制限、禁止、ロックダウン、ワクチン接種証明など、変異株の出現ごとに多くの規制に縛られた社会に生きることを強いられている。これらは、疾病と共に生きるために支払う価格と言えるかもしれない。

さらに、地球規模の気象変動への危機感、アメリカ・中国という2大スーパーパワーの関係悪化などもあって、地球自体が著しく狭小化したことを人々は認識することになった。

パンデミックが変えた世界
コロナ禍は2022年に入っても、収束し消え去る気配はない。ポストコロナの時代に持ち越されるとみられる変化の数々が挙げられている。その内のいくつかは、AIなど新技術の変化、ロボット化、巨大IT企業の影響力拡大など、コロナ禍の発生以前から進行していた変化も含まれている。オンラインに代表される働き方の変化、学校教育や医療システムにもたらされる変化、デジタルノマドなど、社会のほとんどの領域にわたり数多い。

こうした諸変化が一体となって、人々の考え方も変え、以前とは明らかに異なった時代になったと思わせる新たな状態を生み出し、世界に根づきつつある。New Normal「新常態」ともいうべき時代を画する規範の域にまで及びつつある。後世の歴史家が現段階をいかに位置づけるかは別として、明らかに新時代を画する諸変化が次第に根付き、新たな地盤変化をもたらし、人々の考えや生活スタイルに影響する規範ともいうべき変化が起きている。注目すべきは、パンデミックがアクセルの役を果たし、コロナ禍以前から進行していた変化を大きく押し進めたことである。リモートワークでの仕事や教育は、パンデミックの後押しで急速に進んだ。デジタル革命がその背後で進行している。仕事の2極化も大きな注目点だ。多くの先進国で中間層の崩壊が進む。その先にはいかなる光景が広がるのだろうか。

ニューノーマル時代の特徴
コロナ禍後、世界はより安定した時代へ戻れるだろうか。世界は2020年以前の時代へ戻れるだろうか。戻れると考える人々は恐らく極めて少ないだろう。ノスタルジックに過ぎる望みともいえる。新型コロナ感染がもたらした諸変化はあまりに大きく、2020年前に一部が復元したとしても、中核的部分は不可逆的なものとして根を下ろすだろう。時代は大きな境界を越えたといえる。

閾値を過ぎると、どんな小さな一押しでも古い均衡から外れ、新たな次元の均衡へと進むことができる。半分開きかけた扉を軽く押すような感じ(nudge)である。しかし、その扉が再び閉ざされることはない。現在、世界が立っているパンデミックの時代はいわばドアの入り口であり、そこを通り抜けると戻ることがない。

コロナ禍後、ニューノーマルの時代に指摘できることは、時代の不透明性が強まるということだろう。今日世界が直面している状態では、かなりの事象が「予測不可能であること」を予測できる時代が到来していることが特徴として認められる。予測技術の進歩によって、かなり正確に近未来の変化を予測できる可能性も高まっている。その反面で、新型コロナウイルスのように、予測できない事象で世界が揺り動かされるという時代が生まれている。


Reference
’The new normal’ The Economist, December 18 -31st December 2021
James K. Galbraith, The End of Normal, New York: Simon & Schuster, 2014

追記(2022/01/09)
本ブログ中の関連記事は多いが、差し当たり下記を参照いただきたい。

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