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荒唐無稽な必読書

2015年10月13日 | 読書
 【2015読了】97冊目 ★★
 『民王』(池井戸潤 文春文庫)


 夏に入る頃、テレ朝の連続ドラマが放映される前に書店では平積みされていた。ドラマを一応予約しておいたので、その前に読みたいと思いつつも、どうしたわけか10月までずれ込んでしまった。文庫のカバーや新聞番組欄で、主役が誰かは知っていたので、どうしてもそのイメージがついてしまう。これは困った。


 映像化後の読書はよくあるが、この小説は少し面倒だ。俗にいう「入れ替わり」モノ。しかも主人公はもちろん、他の人物にも数組それが発生する。どんな姿を描いて読み進めるか、戸惑ってしまった。もちろんストーリーは面白く工夫されていて、エンターテイメントとしては上質だ。ただ混乱したイメージが残った。


 この作品は単なる風刺小説ではない。しかしそういう要素も十分に楽しめる。政治権力の中枢にいる人間がどんなことを考えながら行動するか、まあステレオタイプ的な点も見られるが、人間模様の機微もあり、読んでいて退屈しない。また政治に絡んでくる銀行、農業、薬事や医療の問題、取り上げ方もタイムリーだ。


 解説は書評家の村上貴史。掲げたタイトルは「有権者必読の書」である。もちろん投票行動のための直接的な指針が得られるわけではないが、ただ目の前に繰り広げられる政治的なショーの見方とは結びつくだろう。「現実の政治家たちがなんだかんだ理由をつけて目を背けている正論」がはっきり示されているからだ。


 数多の政治家にも、きっと初心はあった。それが様々な過程を経て、厚く現実という塗料を塗りこめられて、ほんど見えなくなっている。それを打開できるとすれば、おそらく傍から見れば荒唐無稽な物語なのかもしれない。この本は、入れ替えという手法で、立場を換えてみる思考を強くアピールした小説でもある。