母と暮らす女子高生の百合は、学校にも今の生活にもはっきりしない不安と不満を感じ、自分でもその不安をコントロール出来ずにいる。そんな初夏のある日、家を飛び出した彼女は、突然昭和20年の6月にタイムスリップ。
状況が分からずに混乱している彼女を助けたのは、特攻隊員として出撃する日を待つ彰。彼女の不安そうな様子を見ると、詳細は尋ねずに彼女を自分たちが世話になっている食堂に案内し、食堂の女主人に彼女を託すのだ。
タイムスリップの理由は深く語られない。彰も彼女の出自は詳しく追及しようとはせず、「出撃しても勝つ可能性はない」という現代の若者らしいその物言いを批判もせずに「妹に似ている」と言い、百合が一面に咲く丘を彼女に見せて「君は素直だ」と頭を撫ぜる。不安の中出撃を待っているその仲間の特攻隊員達も、突然現れた食堂の看板娘として彼女の存在をあっという間に受け入れるのだ。(水上恒司演じる彰同様、松坂慶子演じる食堂の女主人も百合を温かく受け入れる。彼女の存在がタイムスリップというファンタジーを血の通ったストーリーにしてくれている)
特攻隊の隊員同士も会ってすぐに一生の友人だと言い合う。出撃まで残された時間が少ない彼らにとって逡巡したり、若者らしい駆け引きしたりという時間などないのだ。心の奥底の葛藤は薄っすら見えるものの、それについては必要以上に後追いはせず、青春時代の1ページは、驚く程綺麗に描かれえるのだ。
特攻隊メンバーのムードメーカー役を演じる伊藤健太郎も、笑顔を絶やす事がないのだが、その笑顔の下に隠した苦しさも静かに伝わってくる。綺麗に描かれた青春の1ページにどんな辛い思いがあったのかは、観ている側が考えなければならないんだろう・・・
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金曜の午後に鑑賞。劇場内は学校帰りと思われる制服姿の女子高生が8割程度。彼女たちは劇場内が明るくなってもすぐに席を立とうとはせずに「誰が一番泣いていた」などと映画の余韻に浸っている風だった。私は原作がSNSで話題だったことも帰宅後に知ったので、劇場内の様子にちょっと驚く。