毎朝、毎日、判で押したように近所の見回りをし、ルール違反があれば注意している初老の男性。父親と同じオットーという名前を持つその男性を近隣の住民たちはやや疎ましく思っているのだが、新しく引っ越して来た総勢4人の移民家族だけは違った。
縦列駐車もままならない人の好さそうな父親と、二人のかわいらしい女の子の母親であり3人目の子の出産を間近に控えた母親。
妻を亡くし、合併した職場での仕事に早々に見切りをつけたオットーは、全てに区切りを付けようとするのだが、4人家族の出現は彼の判で押したような日常に大きな変化を巻き起こす。断ってもグイグイ懐に飛び込み、断っても笑顔で再び彼に近づこうとする若い母親のマリソル。
天井から吊り下げるロープを準備するも、彼女が御礼に持ってきた湯気が立つ美味しいサルサを口にすれば、計画は変更となってしまう。
別の手段を考えても、美味しいクッキーを御礼に貰えば、またスケジュールは延期になってしまう。
文句を言いながらも、若い母親であるマリソルのペースに飲み込まれるオットー。
ご近所さんとしてのやり取りで、オットーの性格と4人家族の明るさは手に取るように分かる。
妻が寝ていたであろうベットの空いた場所に手を伸ばして目覚める場面等、口に出せない彼の心の隙間が伝わってくる。近隣の住民たちに対する口調の鋭さとは裏腹に、声にならない彼の悲しみの深さ。
明るいマリソルはそのオットーの気持ちを感じ、オットーも拙い英語で明るい口調のマリソルが教養にあふれた女性であることを知り、お道化た明るさで移民生活の辛さを乗り越えようとしている彼女の心の内を見るのだ。
見える物が全てではなく、見える物の裏にある心のひだを感じる映画だ。