吉田都芸術監督の肝入りで制作された「マクベス」(世界初公開)と、アシュトン版「夏の夜の夢」のダブルビル。
上演は、絶対にこの順番でなければならない。
というのは、「マクベス」が血みどろの悲劇(ラスト近くではマクベスの生首が登場)であるのに対し、「夏の夜の夢」は、有名な結婚行進曲が示すとおり、ハッピーエンドの喜劇だからである(それにしても、かつて、「となりのトトロ」と「火垂るの墓」の2本立てを、この順番で観た人には深く同情する。)。
さて、「マクベス」の主役は、どうみてもマクベス夫人(米沢唯さん)である。
振付のウィル・タケット氏によれば、彼女は、血を浴びて戦場から帰って来る夫・マクベスに性的な魅力を感じ、あえて身分が自分より下の彼を結婚相手に選んだのだという。
そのマクベス夫人が、夫を唆してダンカン王を殺害させるなど、この悲劇のストーリー展開を支配しているのである。
これに対し、アシュトン版「夏の夜の夢」の主役は、おそらくトリックスター=妖精:パック(山田悠貴さん)であり、他のキャラクターを”食って”しまっている。
人間たちの中に迷い込んだ「動物」のような跳躍の連続を見ていると、「妖精と言うのはこのことか」と思ってしまう。
30年以上前に初演された傑作の新訳公演。
「小川絵梨子芸術監督が、その就任とともに打ち出した支柱の一つ、「演劇システムの実験と開拓」として、すべての出演者をオーディションで決定する「フルオーディション企画」。」
ということだが、これは大成功と言って良い(ほぼ満席である)。
第一部を観た段階の感想では、役者さんたちが「全員主役」という意気込みで演じているのがよく分かる。
つまり、全員がフルに自己主張しているのである。
実際、ストーリーは特定の「主役」=「中心」の存在なくして、いわばポリフォニー的に展開していく。
平凡な感想だが、優れた脚本を上手い役者が演じれば、芝居は成功するという見本のようだ。
ということで、第二部も楽しみである。