男はいつものように起きた
女はいつもより長く寝ていた
これは源氏物語で紫の上が光源氏との初めての夜を暗示している
事細かく書かなくても想像力で何が起こったのか想像することは
ストレートに描写されるより余韻が残る
話は変わって、昨日、NHKの「趣味どきっ! 葵の上」の録画を見ていたら
ツンツンして冷たい感じの葵の上が、六条御息所の生霊に苦しめられ
夕霧を産んで少し弱っていたところの表情は、光源氏にとって
いつもとは違う美しい女性と感じさせるものだった
それまで冷たくしていたことを後悔する気持ちを表現した文章が
原文にあると解説にあった
一方、葵の上は見守ってくれていた光源氏が部屋から出ていく時に
初めて素直な気持ちで見送ったと原文にはあるそうだ
だが、その直後、葵の上は亡くなってしまう
この対比の効果的なこと、(なんとなく不幸が予想されたが)
源氏物語にはこうした印象に残る描写は他にもあって
覚えているのは光源氏の正妻の紫の上の子育ての部分
紫の上は自身の子供はいない
その代わり明石の君の赤ちゃんを育てることになったが
(ちょっと残酷な状況だと思う)
紫の上は乳の出ないおっぱいを赤ちゃんに含ませている
このエピソードは紫の上の悲劇的なイメージを連想させる
(少なくとも自分には)
また面倒な古文の文法をしっかり理解していると
藤壺と光源氏の不道徳な行為は、懐妊につながるその夜だけでなく
以前にもあったと想像できる表現だそうだ
あの時代の人たちは、それが直ぐに理解できただろうから
いま現代文約を読む我々よりはもっと楽しめたに違いない
人は2回目より1回目の方が記憶に残るはずと想像して
源氏物語には欠けている帖があるとして小説を書き上げたのは
丸谷才一の「輝く日の宮」だった
詳細な丁寧な描写、何かを想像させてやまない描写
文章とか音楽にはそういう2つがあるようだ
自分を顧みると好みは圧倒的に後者の方だ
その例が歌舞伎よりも能が好きと感じる点と
音楽でも歌(歌詞)のあるものより、
楽器だけで奏される音楽が好みなのもその現れかもしれない
瀬戸内寂聴さんは、とにかく源氏物語を読んだほうが良いと言っていた
きっかけは漫画でもいい 現代語訳でも良い
でも一番いいのは原文と言っていたが、あれだけ含みの多いものだとしたら
そうかも知れないとも思う
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