日本防衛省の黒江防衛政策局長、外務省の北米局長、米国防総省のシェア国防次官補、ラッセル国務次官補は2014年10月8日(水)、日本東京都内で、日米同盟に関する、「防衛協力小委員会(SDC)」を開き、「日米防衛協力のための指針」いわゆるガイドラインの見直しに関する中間報告を合意、すでに防衛省ウェブサイトで全文発表されました。
【「集団的自衛権行使容認の政府の憲法解釈の再整理の閣議決定で「自衛隊の活動の拡大」】
この中で、7月1日の自公の集団的自衛権行使容認の憲法解釈の再整理の閣議決定について、「切れ目のない安全保障法制の整備のための2014年7月1日の日本政府の閣議決定は、日本国憲法に従った自衛隊の活動の拡大を視野に入れている。指針の見直しは、この閣議決定の内容を適切に反映し、同盟を強化し、抑止力を強化する」
としており、日米外交・防衛当局「2プラス2」が、閣議決定が日米同盟の強化が目的だったことを、如実に示しました。
中間報告では、再改定ガイドラインの文章、そのもののたたき台は示されたわけではありません。ただ、方向性はハッキリ見えてきました。
まず、「周辺事態」という言葉が削除されるかどうか、ということについて言及はありませんでしたが、いずれにせよ、「周辺事態」という文言は出てきませんし、文脈から言って、当然最終のとりまとめでは削除されるとみられます。
きょうの中間報告文は
「指針の見直しは、日米両国の戦略的な目標及び利益と完全に一致し、アジア太平洋及びこれを越えた地域の利益となる」
「日本に対する武力攻撃を伴わないときでも、日本の平和と安全を確保するために迅速で力強い対応が必要となる場合もある」
「日米両政府は、日米同盟のグローバルな性質を反映するため、協力の範囲を拡大する。」
「 新たに発生する国際的な脅威は、日本の平和と安全に対し深刻かつ即時の影響をもたらし得る」
「日米両政府は、より平和で安定した国際的な安全保障環境を醸成するため、様々な分野において二国間協力を強化する」
との文言がちりばめられ、自衛隊の活動範囲の地域の拡大は確実。
1997年ガイドラインは「極東有事」というキーワードを削除し、「地理的概念ではなく性質による周辺事態」にかわり、実際に、日本自衛隊は、イラク戦争中のイラク共和国領内(非戦闘地域)や周辺海域で活動するようになりました。これが再改定ガイドラインで、地球の裏側も含めたグローバル(地球全体)が対象地域になるのは確実です。
【日程感示さず、法制化・予算化義務付けがなく、日米両政府の世論ソフトランディング模索か】
中間報告には、最終的なガイドラインとりまとめを12月末とするといったスケジュール感は一切示されていません。
「指針及びその下で行われる取組は、いずれの政府にも立法上、予算上又は行政上の措置をとることを義務付けるものではなく、また、指針は、いずれの政府にも法的権利又は義務を生じさせるものではない」
と明記。1997年日米ガイドラインが1999年日本周辺事態法になったように、予算化、法制化の義務はないと強調がありました。とらえようによっては、第188通常国会の2015年5月が予想されていた、安全保障法制の再整備法案の提出が、さらにずれ込むこともありうる、ともとらえれる文章です。厳しい立場に置かれている公明党への配慮ともとらえられます。アメリカ・オバマ政権の中間選挙に向けた政権基盤の脆弱性もあるかもしれません。来月4日のアメリカ中間選挙でオバマ与党の政権基盤が回復することになると、また見通しも変わってきます。
【武器弾薬の提供の拡大は明言無し】
現行ガイドラインで、後方地域支援としての補給活動は武器・弾薬を「除く」と明記があることについては、これは「周辺事態」を削除する方向性なので、きょうの中間報告分には特段の記述はありませんでした。ただ、「後方支援」と「防衛装備の協力」は強調されています。当たり前のこととはいえ、「武器弾薬を除く」が削除されると、際限なく提供し続けなければならないので、最終とりまとめに向け、引き続き注視します。
【宇宙空間とサイバー空間防衛は詳しく書き込みへ、これは歓迎したい】
中間報告の最後には「見直し後の指針は、宇宙及びサイバー空間における協力を記述する」と書き込まれました。これはぜひどんどんやってほしいところです。ただ、「テロ」、「海賊」という言葉は直接入っていません。1997年ガイドラインからの改定ですので、宇宙、サイバーだけでなく、テロ(未然の防止含む)、海賊、そして、島嶼。この5点に関しては、しっかりと日本を守るための記述を期待したいところです。
(関連エントリー2014年9月2日(火)付◎海江田内閣での日米ガイドラインやり直し「マニフェストに入れるのは難しい」集団的自衛権【追記有】)
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中間報告の全文は以下のとおりです。
[防衛省ウェブサイトから全文引用はじめ]
1
日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告
Ⅰ.序文
2013年10月3日に東京で開催された「2+2」日米安全保障協議委員会(S
CC)会合において、日米両国の閣僚は、複雑な地域環境と変化する世界における、
より力強い同盟のための戦略的な構想を明らかにした。閣僚は、日本の安全に対す
る同盟の揺るぎない決意を再確認し、アジア太平洋地域における平和と安全の維持
のために日米両国が果たす不可欠な役割を再確認した。閣僚はまた、同盟がアジア
太平洋及びこれを越えた地域に対して前向きに貢献し続ける国際的な協力の基盤で
あることを認めた。より広範なパートナーシップのためのこの戦略的な構想は、能
力の強化とより大きな責任の共有を必要としており、閣僚は、1997年の日米防
衛協力のための指針の見直しを求めた。
指針の見直しは、日米両国の戦略的な目標及び利益と完全に一致し、アジア太平
洋及びこれを越えた地域の利益となる。米国にとって、指針の見直しは、米国政府
全体としてのアジア太平洋地域へのリバランスと整合する。日本にとって、指針の
見直しは、その領域と国民を守るための取組及び国際協調主義に基づく「積極的平
和主義」に対応する。切れ目のない安全保障法制の整備のための2014年7月1
日の日本政府の閣議決定は、日本国憲法に従った自衛隊の活動の拡大を視野に入れ
ている。指針の見直しは、この閣議決定の内容を適切に反映し、同盟を強化し、抑
止力を強化する。見直し後の指針はまた、日米両国が、国際の平和と安全に対し、
より広く寄与することを可能とする。
(1)見直しプロセスの内容
2013年10月3日のSCC会合において、日米両国の閣僚は、防衛協力小委
員会(SDC)に対し、日本を取り巻く変化する安全保障環境に対処するため、1
997年の指針の変更に関する勧告を作成するよう指示した。議論は、自衛隊及び
米軍各々の適切な役割及び任務を検討するための運用レベルの協議から、防衛協力
に焦点を当てた政策レベルの対話にまで及んでいる。
(2)中間報告の概観
SDCは、見直しについての国内外の理解を促進するため、SCCの指示の下で実
施されてきた作業を要約し、この中間報告を発出する。今後の更なる作業の結果、修
正や追加があり得る。
この中間報告は、見直し後の指針についての枠組み及び目的を明確にかつ透明性を
もって示すためのものである。準備作業の過程で、日米両政府は、次の事項の重要性
について共通認識に達した。
・ 切れ目のない、実効的な、政府全体にわたる同盟内の調整
・ 日本の安全が損なわれることを防ぐための措置をとること
・ より平和で安定した国際的な安全保障環境を醸成するための日米協力の強化
・ 同盟の文脈での宇宙及びサイバー空間における協力
・ 適時かつ実効的な相互支援
この中間報告は、いずれの政府にも法的権利又は義務を生じさせるものではない。
Ⅱ.指針及び日米防衛協力の目的
SDCは、新たに発生している、及び将来の安全保障上の課題によって、よりバラ
ンスのとれた、より実効的な同盟が必要となっていることを認識し、平時から緊急事
態までのいかなる状況においても日本の平和と安全を確保するとともに、アジア太平
洋及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう、相互の能力及び
相互運用性の強化に基づく日米両国の適切な役割及び任務について議論を行ってき
た。
将来の日米防衛協力は次の事項を強調する。
・ 切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応
・ 日米同盟のグローバルな性質
・ 地域の他のパートナーとの協力
・ 日米両政府の国家安全保障政策間の相乗効果
・ 政府一体となっての同盟としての取組
将来を見据え、見直し後の指針は、日米両国の役割及び任務並びに協力及び調整の
在り方についての一般的な大枠及び政策的な方向性を更新する。指針はまた、平和と
安全を促進し、あり得べき紛争を抑止する。これにより、指針は日米安全保障体制に
ついての国内外の理解を促進する。
Ⅲ.基本的な前提及び考え方
見直し後の指針及びその下で行われる取組は、次の基本的な前提及び考え方に従う。
日米安全保障条約及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米同盟関
係の基本的な枠組みは変更されない。
日米両国の全ての行為は、紛争の平和的解決及び主権平等を含む国際法の基本
原則並びに国際連合憲章を始めとする関連する国際約束に合致するものであ
る。
日米両国の全ての行為は、各々の憲法及びその時々において適用のある国内法
令並びに国家安全保障政策の基本的な方針に従って行われる。日本の行為は、
専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる。3
指針及びその下で行われる取組は、いずれの政府にも立法上、予算上又は行政
上の措置をとることを義務付けるものではなく、また、指針は、いずれの政府
にも法的権利又は義務を生じさせるものではない。しかしながら、日米協力の
ための実効的な態勢の構築が指針及びその下で行われる取組の目標であるこ
とから、日米両政府が、各々の判断に従い、このような努力の結果を各々の具
体的な政策や措置に適切な形で反映することが期待される。
Ⅳ.強化された同盟内の調整
日米両政府は、日本の平和と安全に影響を及ぼす状況、地域の及びグローバルな安
定を脅かす状況、又は同盟の対応を必要とする可能性があるその他の状況に対処する
ため、全ての関係機関の関与を得る、切れ目のない、実効的な政府全体にわたる同盟
内の調整を確保する。このため、日米両政府は、同盟内の調整の枠組みを改善し、適
時の情報共有並びに政策面及び運用面の調整を可能とする。
日米両政府は、各々の政府の全ての関係機関の関与を確保する、強化された計画検
討のメカニズムを通じ、日本の平和と安全に関連する共同の計画検討を強化する。
Ⅴ.日本の平和及び安全の切れ目のない確保
現在の安全保障環境の下で、持続する、及び新たに発生する国際的な脅威は、日本
の平和と安全に対し深刻かつ即時の影響をもたらし得る。また、日本に対する武力攻
撃を伴わないときでも、日本の平和と安全を確保するために迅速で力強い対応が必要
となる場合もある。このような複雑な安全保障環境に鑑み、日米両政府は、平時から
緊急事態までのいかなる段階においても、切れ目のない形で、日本の安全が損なわれ
ることを防ぐための措置をとる。見直し後の指針に記述されるそれらの措置は、次の
ものを含み得るが、これに限定されない。
・ 情報収集、警戒監視及び偵察
・ 訓練・演習
・ 施設・区域の使用
・ 後方支援
・ アセット(装備品等)の防護
・ 防空及びミサイル防衛
・ 施設・区域の防護
・ 捜索・救難
・ 経済制裁の実効性を確保するための活動
・ 非戦闘員を退避させるための活動
・ 避難民への対応のための措置
・ 海洋安全保障4
日本に対する武力攻撃の場合、日本は、当該攻撃を主体的に排除する。米国は、適
切な場合の打撃作戦を含め、協力を行う。
見直し後の指針は、日本に対する武力攻撃を伴う状況及び、日本と密接な関係にあ
る国に対する武力攻撃が発生し、日本国憲法の下、2014年7月1日の日本政府の
閣議決定の内容に従って日本の武力の行使が許容される場合における日米両政府間
の協力について詳述する。
東日本大震災への対応から得られた教訓に鑑み、見直し後の指針は、日本における
大規模災害の場合についての日米両政府間の協力について記述する。
Ⅵ.地域の及びグローバルな平和と安全のための協力
地域の及びグローバルな変化する安全保障環境の影響を認識し、日米両政府は、日
米同盟のグローバルな性質を反映するため、協力の範囲を拡大する。日米両政府は、
より平和で安定した国際的な安全保障環境を醸成するため、様々な分野において二国
間協力を強化する。二国間協力をより実効的なものとするため、日米両政府は、地域
の同盟国やパートナーとの三か国間及び多国間の安全保障及び防衛協力を推進する。
見直し後の指針は、国際法と国際的に受け入れられた規範に基づいて安全保障及び防
衛協力を推進するための日米両政府の協力の在り方を示す。当該協力の対象分野は、
次のものを含み得るが、これに限定されない。
・ 平和維持活動
・ 国際的な人道支援・災害救援
・ 海洋安全保障
・ 能力構築
・ 情報収集、警戒監視及び偵察
・ 後方支援
・ 非戦闘員を退避させるための活動
Ⅶ.新たな戦略的領域における日米共同の対応
近年、宇宙及びサイバー空間の利用及びこれらへの自由なアクセスを妨げ得るリス
クが拡散し、より深刻になっている。日米両政府は、これらの新たに発生している安
全保障上の課題に切れ目なく、実効的かつ適時に対処することによって、宇宙及びサ
イバー空間の安定及び安全を強化する決意を共有する。特に、自衛隊及び米軍は、そ
れらの任務を達成するために依存している重要インフラのサイバーセキュリティを
改善することを含め、宇宙及びサイバー空間の安全かつ安定的な利用を確保するため
の政府一体となっての取組に寄与しつつ、関連する宇宙アセット並びに各々のネット
ワーク及びシステムの抗たん性を確保するよう取り組む。5
見直し後の指針は、宇宙及びサイバー空間における協力を記述する。宇宙に関する
協力は、宇宙の安全かつ安定的な利用を妨げかねない行動や事象及び宇宙における抗
たん性を構築するための協力方法に関する情報共有を含む。サイバー空間に関する協
力は、平時から緊急事態までのサイバー脅威及び脆弱性についての情報共有並びに任
務保証のためのサイバーセキュリティの強化を含む。
Ⅷ.日米共同の取組
日米両政府は、様々な分野における緊密な協議を実施し、双方が関心を有する国際
情勢についての情報共有を強化し、意見交換を継続する。日米両政府はまた、次のも
のを含み得るが、これに限定されない分野の安全保障及び防衛協力を強化し、発展さ
せ続ける。
・ 防衛装備・技術協力
・ 情報保全
・ 教育・研究交流
Ⅸ.見直しのための手順
見直し後の指針は、将来の指針の見直し及び更新のための手順を記述する。
(了)