時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ドイツの法人税減税:日本はどうするのか

2006年07月06日 | グローバル化の断面

  
  法人税を増減させることは、企業そして労働者にとっていかなる影響があるのだろうか。この問題を考えるひとつの材料が提示された。

  ドイツの大連立与党は、7月3日、企業の競争力回復を目指して、法人課税軽減と医療保険改革の実施で合意した。その内容は、企業の実質税負担率を2008年から10%近く引き下げ、29%台とする。これまでドイツの法人税率(国税)は25%、これに地方税を加えた実効税率は38.65%でEU内で先進国の中でも最高水準だった。ちなみにこれまでは日本が最高、アメリカ、ドイツの順であった。

  今回の改革案では法人税率を現在の半分の12.5%に下げ、全体の実効税率も29%台とする。それでも中・東欧などの近隣諸国と差は残るが、税負担軽減でドイツ企業の競争力を回復し、生産拠点の海外流出を防ごうとのねらいである。企業の雇用コストを重くする医療保険料の引き上げは2007年の1回かぎりとする。

引き上げられる付加価値税
  ドイツ議会は去る6月16日、2007年からの付加価値税の引き上げを決定している。企業の投資環境を改善するとともに、消費者などに財源負担を求める方向である。

    こうした政策については当然反対も根強い。懐の豊かな企業を救って、懐の乏しい庶民の財布に手を伸ばすという理由である。政治家は選挙権がない企業に税金をかける方が、選挙民に税負担を求めるよりは対応しやすいと考える。

判然としない労働者への影響
  法人税の効果については、さまざまな理論や研究があるが、これまでは労働者への影響はあまり注目を集めてこなかった。表面的には労働者には関係ないようにみえる法人課税も、実は労働者にも影響があるとの見方がある。すなわち、高い法人税は他の資本課税と同様に、企業の貯蓄や投資へのインセンティブを減らす。投資の減少は資本蓄積の低下につながり、資本装備率を引き下げ、賃金を下げるという論理である。

  法人税率と投資の間にマイナスの関係があるとの研究もある。グローバル化が進んだ世界では、投資は高税率の国から低税率の国へと流動する。高税率の国では投資が減少し、実質賃金も低下する。低税率の国では労働者にとってプラスになる。外資の流入は経済を開放した小国では、開放度の低い大国の場合より、迅速に生産性を引き上げることができるという想定である。

  法人税率は世界的に低下の方向にある。20年前は40%以上の国も多かった。しかし、その後、法人課税率の低いアイルランド、ポーランド、スロバキアなどでは、外資流入が増加して潤い、発展している。法人税が下がるほど、労働者への利益配分も多くなるとの推定もある。

  この関係はまだ十分には解明されてはいない。今回のドイツの法人税引き下げが、労働者の立場の若干の改善につながる可能性はある。法人税の負担が軽減されることで、投資や雇用の機会が中・東欧などへ流出することがある程度抑止されるだろう。もしそうなれば、労働者にとっても恩恵となるだろう。

  ところで、ドイツが法人税率を引き下げると、主要先進国で取り残されるのはアメリカと日本だが、どうするつもりだろうか。

Reference
'A toll on the common man' The Economist June 29th 2006.

コメント
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