移民問題グローバル・ウオッチ
トルコのEU加盟が遠のいた今、ブルガリアとルーマニアへのEUの対応が注目されていた。今月から加盟が決定した両国は、EUにとってトルコほど大きな政治、宗教上の問題はない。ルーマニアにおけるハンガリー系住民、ブルガリアのトルコ系住民の問題はあるが、1割以下で大きな問題とはならない。両国にとって加盟のメリットは大きい。ただ、2004年加盟の国々と比較して、経済水準が格段に低いことが問題とされている。ブルガリアの一人当たりGDPはUS$3,480、ルーマニアは$4,490と、先に加盟した8か国の$9,240、EU全平均の$29,930と比較して大幅に低い。
低い賃金水準と劣悪な社会環境を背景に、EUに加盟後は海外出稼ぎが大きな流れとなることが予想されている。すでに200万人のルーマニア人と80万人のブルガリア人は、自国の外に居住している。こうした点を見越して、EU側はこの2か国からの出稼ぎ移民に冷たい対応をとった。旧加盟国で完全に自由な移動を認めるのは、スウェーデン、フィンランドの北欧2カ国だけである。残り13カ国は規制措置を設定した。「新参者はすぐには仲間に入れないよ」 The new kids on the block (The Economist) という冷めた空気が支配している。
EUは加盟拡大に伴う暫定措置として既存の加盟国に新規加盟国からの労働者の受け入れ規制を認めている。イギリス、アイルランドは開放政策を転換し、ルーマニア、ブルガリアからの受け入れ制限を実施する。ドイツ、オーストリアは04年加盟の中・東欧と同じく受け入れを規制する。そして、フランス、イタリア、デンマーク、ベルギーなどは人材が不足していうる建設やレストランに限り受け入れることになった。
EUは建設工事や観光業、レストランなどサービス分野の労働の域内移動自由化を決めたばかりだが、現実には足並みが揃わない。
これまでもブログ上でウオッチしてきたが、EUといっても加盟国間の政治・経済上の差違は大きく、移民労働者の送り出し国も受け入れ国も包含している。さらに、EU域外からも参入をめざす人たちが押し寄せてくる。とりわけ、正規の入国手続きを踏まない不法移民は最大の問題となっている。
EUは域内の人の自由移動を認めており、一部の国が不法移民や低賃金国からの労働者を大量に受け入れれば、その後EU全体に影響が及ぶ。たとえば、スペインは2005年、不法移民に滞在許可を与える合法化措置を実施し、他の加盟国の反発の的となった。EUはスペイン経由の移民流入に危機感を強めており、昨年には事前協議の枠組みを整え、加盟国間の政策調整を強めることで一応の合意をした。ドイツは2007年からEU議長国を務めるが「域外国境の効率的防御」を予告している。これについても、EUはより「人道的な移民政策」をとるべきだとの批判もあるが、アフリカからの不法移民を受け入れる「開放政策」にも踏み切れない。
アメリカ・メキシコ国境でも見られるように、ここでも国境は冷たい存在であり、押し寄せる移民の波に立ちはだかっている。
Reference
”The new kids on the block,” The Economissssst January 6th 2007.