アメリカ連邦移民法の改正失敗は、さまざまな問題を露呈し始めた。すでにいくつかの変化については、ブログの話題としてきた。ひとつひとつは小さな動きではあるが、今後のアメリカを含め、先進諸国の移民労働者政策の潮流変化の兆しと考えられるので、継続してウオッチを続ける。
最近のメディアが伝えるアーカンソー州の実態を見てみたい*。今週、同州の食肉加工業など大企業のいくつか、州政府のお歴々、ローカルの組合American Civil Liberties Union などが「アーカンソー・フレンドシップ連合」Arkansas Friendship Coalition なる組織を結成することになった。目的は連邦移民法の欠陥を埋めるために、州がなにをすべきかを協議することにあるという。
こういう動きが生まれたのは、同州に隣接するオクラホマ、ミズーリーなどの諸州が反移民の色彩が濃い新州法を制定したからである。たとえば、オクラホマの「租税者と市民保護法」Taxpayer and Citizen Protection Act は、本年11月1日から施行されている。この法律はこの種の立法としては、アメリカでは最も厳しいものになる。とりわけ使用者に対する責任を強化し、実質的に入国に必要な書類を保持しない労働者は仕事につけなくすることを狙っている。不法移民は教育、医療などの給付を得ることも難しくなる。
アーカンソー州でも、反移民のグループは同様な立法を考えるようになっている。同州の北西部には多数のヒスパニック系の住民がいるが、4つの地域の警察が移民法を今までより厳しく、「効率的」に適用することで合意した。 同州民主党のマイク・ビイブ知事は、州兵が不法移民にもっと厳しく対応するよう求めている。
こうした動きは、批判も強い。アーカンソー州では、移民労働者のほとんどはヒスパニック系だが、州経済に直接・間接、年間29億ドル近くの貢献をしていることを無視しているという指摘もある。アーカンソーは、アメリカで2000ー2005年にヒスパニック系人口が最も増加した州である。州の人口予測について国勢調査局は2010年には3百万近くになり、そのうち6%が移民となると予測している。
アーカンソー州への移民の中で20-45歳層は60%であり、全国平均の54%を上回っている。この相対的な若さは、同州でベビーブーマーが退職した後を代替する動きが進行していることを示しているともいわれている。ウインスロップ・ロックフェラー基金の推測では、彼ら移民労働者がいないと、アーカンソー州の製造業の年間収入は14億ドル近く減少するとされる。まさに「不法ではあるが、いなくては困る」存在になっている。
移民(外国人)労働者は、国境を越えて流入してくるという「フロー」の側面にばかり目をとられることなく、すでに国内に滞在している「ストック」の側面にも注目をする必要がある。
こうした批判を前にして、アーカンソー・フレンドシップ連合は、不法移民に歓迎のためのマットを敷くのが目的ではないという。近隣諸州の対応変化に、自分たちも対応せざるをえないからだとする。地続きの州の難しさではある。手をこまねいていれば、「厄介者」の不法移民は開いている門を目指してくるからだ。しかし、彼らなしには動かない部分も増えてきた。「内なる敵」といかに折り合うか、課題は厳しい。
アメリカの移民法が新大統領の下で再検討され、立法化されるまでには、早くとも2009年まで待たねばならない。不法移民への風当たりは地域レヴェルではかなり強まっており、反移民的、保護主義が連鎖反応的に拡大する兆しが見える。大統領選に向けて、移民問題が国政レヴェルで政治問題化するのは時間の問題だろう。
同じ問題はこの極東の島国でも不可避的に進行している。末世的な政治の混迷もあるが、日本は外国人労働者問題を正面から取り上げることを意識的に回避してきた。女性と高齢者を「総動員」して労働力不足に対応するという。しかし、労働環境の劣化と「生活の質」の低下は覆いがたい。頼みの綱の「ワーク・ライフ・バランス」も根付くまでにはかなりの時間が必要だ。すでに200万人を越える外国人登録がある。「内なる敵」を味方にする視点が必要なことはいうまでもない。なににつけても「破綻」しないと目が覚めないこの国の姿、いつまで続くのだろう。
* "Illegal, but useful." The Economist November 3rd 2007.