月日の経つのは早い。2005年11月にフランス全土にわたって展開した「郊外暴動」を覚えておられるだろうか。フランスはシラク大統領の政権下であったが、この事態に「国家非常事態宣言」を発して漸く鎮圧した。当時のサルコジ内相の強気の対応が功を奏したといえようか。その後、表面的には平穏さを保っている移民問題だが、問題の根源が解消したわけではない。
こうした中で、先月パリに新しい博物館として、国立移民博物館(la Cité nationale de l'immigration)が開館した*。ほとんどメディアには報道されていない。それにはこの博物館を構想したシラク大統領や企画者たちの考えと、移民政策に厳しい方向を設定しているサルコジ大統領の考えが異なっていることが影響しているといわれる。フランス型多文化共生を目指したシラク大統領や支援者たちとは異なり、サルコジ大統領はフランスという国民国家の主権を強化し、「国民」の再定義を模索している。10月に上院、下院で成立した新移民法は、この路線上でこれまで人道上の観点から寛容であった「家族の再結合」についても、海外から呼び寄せる家族のDNA鑑定を義務付けるなど、制限色を濃く打ち出している。
新移民博物館は開館したばかりで、まだ訪れる機会がないが、労働分野のウオッチャーとしては、ぜひ見てみたい。移民を対象とした博物館は世界にいくつかあるが、今後充実がはかられるならば(そうならないような兆候もすでにあるが)、ニューヨークのエリス島移民博物館と並び注目すべき存在になるだろう。
とりあえず、ウエッブ上に公開されたサイトを見てみたが、このHPに公開されている「フランスの移民の歴史(1820-2006)」をヴィジュアル化したLe Film は、映像イメージとしては大変良くできていて興味深い。このブログで取り上げたばかりのジャック・カロのジプシーの旅芸人の銅版画も冒頭に出てくる。フランスが多民族文化国家として形成されてきたことを示す歴史的な資料の断片が多数含まれている。もっとも、最近になるほど迫力が失せてくる。
製作者が最も悩んだのは、恐らくこのビデオの最後に出てくるはずの「郊外暴動」の位置づけだったのではないか。ビデオの時代区分の最後は2006年となっているが、フランス全土が燃えた「郊外暴動」の衝撃的映像は含まれていない。自他共に認める移民(受け入れ)国となったフランスにとってこの出来事は、「多文化主義」の終わりであったのか、新たな時代の始まりなのか。
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Cité nationale de l’histoire de l’immigration
Palais de la Porte Dorée
293, avenue Daumesnil 75012 Paris
場所は旧アフリカ・オセアニア美術館の跡地。サイトには地図もある。