Georges de Latour. The Magdalene with Two Flames, The Metropolitan Museum of Arts, New York, details.
3月11日、ひとつの天変地異がこの国を変えてしまった。いや、今も変わりつつあるというのが正確だろう。変わりえなかったら、この国に未来はないのだ。皮肉なことに、過去20年余、政治家たちがいくら変えようとしても変わらなかった国が、一日で激変した。しかし、さらにどう変わるのかは誰も分からない。
変わることがはっきりしていることのひとつは、この国に新たな原発が生まれることはもはやないということだけだ。福島第一原発の「埋葬」だけでも、10年以上、数十年はかかるかもしれないといわれている。放射能による汚染水を「石棺」墳墓の掘り割りに引き込むわけにも行くまい。どうするのだろうか。専門家たちは口を閉ざしている。
世界で唯一の被ばく国であるこの国が、自ら作った原発のために被災・被ばくし、他の国まで巻き込んでいる実態には、言葉もない。
どの程度正確な比較か判然としないが、マグニチュード9は、広島に落とされた原爆の3万発に相当するという*。被災地の惨状は、それを否定させない。
戦前1923年の関東大震災、第二次大戦での原爆被ばく、敗戦、神戸・淡路大震災など、大天災・人災は、そのつどこの国の姿・あり方を大きく変えてきた。東日本大震災がいかなる変化を生み出すか、今の段階では誰も語れない。
福島第一原発の報道に関わった専門家・解説者といわれる人々の発言も、当初は楽観的な見通しを述べていたが、日ごとに説得力を失い、ただ危機が近づいていることを述べるだけだ。国民として最も聞きたいことは、語られることがない。TVなどの影響力あるメディアに登場する人々は、正しい情報を正確に伝える責任がある。
カール・マルクスが娘イエニーに残したモットー、「すべてを疑え」が思い浮かぶ。疑うことは、真理の発見につながる道だ。今、揺らいでいるのは、足下の地盤や蝋燭の焔に限らない。政府や専門家への信頼もまた大きく揺らいでいる。
* “The Fallout” The Economist March 19th, 2010