17世紀の甲冑
Jarville, musée de l'Histoire du fer
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ジャック・カロ 『決闘』 1621
Jacues Callot, Le Duel, 1621
この妙なブログを読んでくださる読者から、時々脈絡がつかめなくてついて行けないとコメントされることがある。無理もないと思う。別に筋書きを定めて、記しているわけではなく、気が向くままにメモ代わりに記しているからだ。しかし、管理人の頭の中ではかなりいろいろなことが星雲のようにうごめいている。それがある程度の大きさになると、メモしておかないと次の瞬間には記憶領域外へ消えてしまう。そのため、読者の側からは想像しえないトピックスも書かれている。しかし、あと何回生まれ変わって人生を送っても、とても探索できないだろうと思うようなテーマがいくつかあり、肉体は衰えても脳細胞だけはまだかなり生きているような気がすることもある。
次第に専門としてきた領域から離れて、これまで考えているだけであった17世紀ヨーロッパに関心を抱いてから、興味深いテーマが次々と生まれてきた。元来、深く人間とかかわる問題を扱ってきたから、必ずしもマイナスばかりではない。思いがけないフィードバックも生まれる。
ルイ13-14世の時代に少しばかり踏み込んでいる今、宰相リシュリューの戦略や世界観についてちょっと調べたいことがあった。梅雨入り前の気晴らしも兼ねて、アレクサンドル・デュマの「3銃士」を読み返そうかと思ったが、手元にあるのは、以前に読んだ岩波文庫(上下)版(生島遼一訳)だ。少しビジュアルなイメージを掘り起こしたい。どうせ読み直すならば、別のヴァージョンでと思い、先日の仕事場整理の途中で見つけた、ペンギン・クラシックスの新訳 The Three Musketeers, Translated by Richard Pevear amd Larissa Volokhonsky, 2006を読み始める。手頃な一冊本に加えて、すでに筋書きは頭に入っているので、たちまち引き込まれ、集中し読んでしまった。表紙に、Now a major motion picture とあるので、最近映画化されたのだと気づく。
DVDがないかと思い、探してみたが、すぐに入手できるのは、「ソフィーマルソーの3銃士」La fille de D'Artgnan (1994)だった。(最新の3D映画『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』は娯楽として観ているかぎりでは面白いが、一寸イメージが合わない)ところが、ソフィーマルソー主演の映画、デュマの『3銃士』が対象としたルイ13世、宰相リシュリューの時代から少し下がって、宰相マザランの時代を舞台としていた。元来、フィクションなのだからどうでもいいのだが、拍子抜けをした。もっとも、デュマも『3銃士』の大人気に、続編『20年後』も書いているのだから、これもありうることだった。しかし、映画の筋立てはデュマの続編とはまったく違っていた。(クロムウエルとの関係やフロンドの乱、ボルジア家の毒薬なども出てきて、史実とはタイミングを合わせてはいるのだが。)
あっと思ったのは、主役のダルタニヤンが、なんとダルタニヤンの娘エロイーズという設定だ。(うっかりしてフランス語のタイトルを見ていなかった。)父親のダルタニヤンも近衛銃士を引退、歳をとったが、現役で登場してくる。そしてあのアラミス、ポルトス、アトスの3銃士も、健在だ。あらすじは省略するが、奴隷とコーヒーの密貿易が興味深かった。この史実の内容確認を少し引きずっている。さらに、女剣士エロイーズを中心とする剣戟シーンの立ち回りがなかなか巧みで見せ場があり、感心。現代のフェンシング競技とは迫力がまったく違う。カロの銅版画などに描かれている当時の大規模な戦闘シーン(もちろんフィクションだが)がヴィジュアル化されていないか見てみたかったのだが、残念出てこなかった。3銃士は本来、マスケット銃士なのだが、これもほとんど登場してこない。すでにリシリューの時代に剣士の時代は終わりを告げていた。この時代、戦闘の仕方が大きく変化しつつあったのだ。いづれ改めて記事に登場することがあるかもしれない。