L.S.ラウリー《試合を見に行く》1953年
サッカー・ワールドカップがメディアを”独占”している。ブログ・筆者も’隠れマニア’なのだが、関心のありかは必ずしもサッカーの試合ではない。かつて産業・労働問題調査のためイギリスに滞在中、マンチェスター周辺に何度も出かけたが、「ユナイテッド」、「シティ」の2大ティームのファンの気性や行動にも驚かされたことがあった。社会階層の差や考えも反映して微妙に違うのだ。ご贔屓の画家L.S.ラウリーも「シティ」の熱心なファンだったが、以前に紹介したように、試合(match)を見に行く観衆の光景を描いている。
今回のワールド・カップの特徴は世界の2大政治経済大国アメリカと中国が出場していないことだ。この2国が出ていたら、メディアの世界はどんなことになっているだろうか。トランプ大統領がなんとツイートするか、考えて見ても面白い。もちろん、「アメリカ・ファースト」だろうが。開催国ロシアのプーチン大統領は大分得をしたようだ。
ニューヨーカーの反応
興味深いのは、ナショナル・ティームは出ていないが、移民大国のアメリカ市民の反応だ。TVを見ることは多くないブログ筆者だが毎朝楽しみに見ている数少ない番組はマイケル・マカティアさんの@nycliveだ。この人の当意即妙のユーモアとエスプリにはいつも感心させられる。
6 月23日朝の時間にはニューヨーク市民に、どの国を応援しているのかを尋ねていた。メキシコ、コスタリカなど中米出身者は、ほとんど出身国を応援する。アフリカ系の人たちは、それぞれのルーツである出身国を応援する。南米コロンビアからの移民は、日本・コロンビア戦では、当然母国コロンビアを応援したが、負けてしまった後では日本も好きだという人もいた。「アメリカ合衆国」United States of America (文字通りなら「合州国」)という異なった出身国あるいはルーツの人々を混然一体として束ねた国(今でも「サラダ・ボウル」といえるだろうか)であるだけに、その反応が面白い。一時は、サッカーは国家間の「代理戦争」という評価もあったが、スポーツだけに、終わってしまえば後に残らないのが救いだ。
アフリカの背景
そうした状況を背景に、もし中年のアルジェリア人にこれまでのワールドカップで最も印象に残る試合は何かと尋ねると、1982年、アルジェリアが西ドイツ(当時)に勝利した試合だと答えるという。試合前のプレスのインタビューで、あるドイツ選手が「7番目のゴールは妻に、8番目は犬にささげたい」と答えて、アルジェリア人に限らず多くのアフリカ出身者が屈辱感を抱いたという。サッカー・スタディアムは、植民地主義、経済格差、愛国主義、ナショナリズム、純粋のスポーツ愛好心など、あらゆるものが混然一体となる場でもある。
目前に迫った日本・ザンビア戦について一言。かつて1950年代以前、アフリカは列強の植民地として、独立した国などほとんど存在しなかった。アフリカを宗主国別に色分けしたら、何色いるだろうかと思わせたほどカラフルだった。アフリカという統一されたイメージは想定し難かった。
セネガルについてもワールドカップ登場への背景は複雑だった。2002年の日韓大会5月31日、当時のフランスはディフェンディング・チャンピオンだった。ソウルで行われた開幕戦で、初出場のセネガルは前回優勝国の フランスと対戦。この試合でセネガルが1対0で勝利し、波乱の大会の幕開けとなった。
優勝候補筆頭と目されていたフランスは結局、事前の対韓国の親善試合で負傷した ジダンの抜けた穴を埋めることができず、 アンリ、トレゼゲ、シセと3か国のリーグ得点王を擁しながら グループリーグ で1得点もあげられずに敗退した。文字通り、’想定外’のことが起こるのだ。
「ライオン」のその後
セネガルの首都ダカールは歓喜に沸く人々で埋め尽くされた。中心の「独立広場」Place de l’Independence の集まりには大統領まで参加した。セネガルは1960年フランスから独立したのだった。
この2002年、フランスに勝利した時のセネガル・ティームの監督はブルーノ・メッツ Bruno Metsu, なんとフランス人監督だった。彼はその後、イスラム教に改宗し、名前もAbdou Karimとなった。2013年死去の折にはセネガル国民がその死を悼んだ。そして、今回の代表ティーム監督はセネガル人のアリオー・シセ Aliou Cisscé が率いるまでになった。見ようによっては容貌、風采もライオンのようだ。
「ライオン」(セネガル・ティームの愛称)は、どこまで強くなっているか。「サムライブルー」はどう闘うか。両国ともに視聴率はどこまで上がるだろうか。両国民、そして世界のサッカー・ファンが熱狂する一線になるだろう。今回のワールドカップ注目の一戦であることは疑いない。
追記(2018年6月25日):
「サムライ 万歳! 勝って兜の緒を締めよ 」