時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

上を向いて歩こう!

2009年07月14日 | 労働の新次元

白馬の大雪渓を登る人々(友人R.E氏のご好意による)。
雪渓上に蟻の列のようにみえるのが登山者です。  



  就職ガイダンスにかかわるNPOや奨学金基金のお手伝いをしていることなどもあって、転職・就職の相談を受けることが多くなった。大学院進学など新たな充電の機会を考える人もいる。現職とはまったく異なる職業分野への転換を目指す人もいる。ほとんどが、20歳台後半から30歳代、「キャリア形成の半ば」、いわゆる mid-careerの人たちだ。なかには40歳台に入って、転身を考える人もいる。学校を卒業、社会に出て、さまざまな壁や限界を認識した人たちが多い。壁を乗り越えたり、回避しようと考えての転進だ。こうした転換は、これまでの世代にもなかったことではない。かくいう私も同じ経験をした。転職をするなどと告げると、奇異な目で見られた時代だった。しかし、いまや転職経験が無い人の方が珍しいかもしれない。  

 仕事を求める人、とりわけ若い世代の人たちは、これからどこを目指すかということをよく考える必要がある。目先にとらわれず、少なくもこの先5年、10年先を見通す努力が必要になっている。神ならぬ身、われわれに未来が読めるわけではないが、人生設計として目標があるとないとでは日々の過ごし方が大きく異なる。目前のことだけに心を奪われ、振り回されていると、いつか再び同じ苦しみを背負うことになる。人間は追い詰められるほど、視野が狭窄化してしまう。  

大きく変わる産業イメージ 
 グローバル大不況というと、ともすればその暗く陰鬱な側面だけが目に映る。しかし、反対側では今まで見たことのない新たな側面が姿を見せている。産業構造の変化はかつてなくドラマティックだ。競争力を失った企業、産業が、朽ちた大木が折れるように消えて行く。デトロイトの風景は様相一変した。他方、ひこばえのように、新しい産業が生まれている。   

 かつて存在した仕事のある部分は、景気が上昇軌道に乗っても戻ってこない。たとえば、20世紀後半の産業界を支配していた自動車産業が消え去ることはない。しかし、少なくもこれまでの自動車産業の輪郭をイメージするかぎり、ひとつの時代が終わったことは確実だ。あの膨大な下請け企業群を傘下に擁するピラミッド型産業組織は大きく変わりつつある。一世紀近くを支配したガソリン・エンジンの時代も遠からず終わる。自動車産業を構成してきた部品・関連産業の様相は激変、必至だ。ミクロで近づきすぎるとかえって分からなくなるが、ある距離を置いてみるとその変容の速度に驚かされる。最初にデトロイトを訪れた頃は、その壮大な光景に驚かされたが、その後の荒廃の速度は想像以上だった。 

 他方で新しい産業がすでにその姿の一端を見せ始めている。医療、環境関連、教育などだ。この領域では不況にもかかわらず、新しい仕事が生まれている。大不況の渦中にあって、多くの先進国の雇用政策は、未だ暗中模索だ。その多くは目前の現象に強く束縛されている。失業者を以前の仕事に、少なくとも類似の仕事の機会に戻すという発想が根強い。しかし、長らく経済活動を牽引してきた自動車、電機、素材などの産業は、基盤が大きく揺れている。修復されるにしても、かなりの時間がかかる。  

資産の棚卸し 
 自分の持っている知識、技能はなにか。身につけた資産の棚卸しが必要なのだろう。これからの人生、どこを目指して生きて行くか。自分がやりたいことで人生を送れるならば、それは最も望ましいことだ。仕事に積極的に打ち込むことができる。働きがいは生きがいとなり、技能も身につく。しかし、その仕事はあなたのこれからの人生を支えるに十分なものだろうか。一生続けるだけのやりがいを感じられるか。これらの点を見定めることが必要だ。  

 そのためには、多くの人の意見を聞くこと、とくに人生の年輪が深い人、多くの労苦を経験した人の考えを聞くことは有効だ。単に聞くばかりでなく、疑問と思うことを納得するまで議論してみることだ。もちろん、最後は自分が決める。

自分の人生:よく考える 
 目標が定まれば、そのためになにをすべきか。時には、回り道をすることも必要だ。充電のための資金と時間を蓄積する、不足している知識と技能を習得するなど、やるべきことは多い。一人の人間に与えられる時間は有限だ。自分が本当にやりたいことを、少しでも早くスタートしておくことが後悔が少ないように思える。若いときほど、展開の可能性が広く大きい。歳を重ねるごとに、自分のできることの限界が見えてくる。これまでの自分自身の人生を振り返ってみても、かなりの紆余曲折を経験した。しかし、無駄な時間を過ごしたとは思っていない。苦労した時代の経験の方が今に生きている。他の人とは異なった経験を積んだということが、むしろ自分の強みだと思えるようになった。学校で学んだことよりも、他の機会に得たことの方が圧倒的に力になった。多くのキャリア形成にとって、学校の与えてくれるものは限られている。社会から学ぶことはきわめて大きい。 

 若い人たちと話をしていると、時々自分の過去をリセットしたいという感想も聞かされる。しかし、コンピューターの工場出荷時のように、白紙の次元へリセットできないのが人生だ。自分が身につけたものを再点検し、経験をプラスに生かすこと、それが次の段階への踏み台になる。過去は人間を次の段階へ押し上げる礎石となる。過去にとらわれず、上を向いて登ってほしいと思う。

「われわれは過去を振り返るのではなく、未来を見つめるべきだ」(バラック・オバマ)

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