緊急事態宣言が全国に拡大された。あまりに遅すぎたとの感は否めない。さらに、一律一人当たり10万円給付の案が急に浮上してきた。与党公明党からの提案となれば、安倍首相、自民党もすげなく断れない。予算はおよそ12兆6000億円ほどになるとのこと。きわめて異例のことだが、新型コロナウイルスの発生と拡大の実態を見れば、1世紀に一度あるか否か、大恐慌以降最悪の国家的危機であることは間違いない。対策も従来の延長線から逸脱して、大きな決断が必要となる。
ブログ筆者としては、こうした危機の時でなければ実験的政策は導入できないと記してきた。歴史を見ても、大恐慌などの時にはそれまで考えられなかった斬新な政策が実行に移された。世界恐慌時、ケインズ理論の政策的体現ともいわれたニューディール政策は1932年、F.D.ローズヴェルト大統領によって テネシー川流域開発公社の設立、更に 農業調整法や 全国産業復興法 の制定の形で導入された。後年、様々な評価がなされたが、当時は大きな不確実さを前提としての飛躍的決断だった。
今回の日本での給付案は、ブログ筆者が示唆したことのあるユニヴァーサル・ベーシックインカム(UBI)*の社会実験になるかもしれない。いうまでもなく、このUBIが構想され、前提となっての給付ではない。動機も給付もそれとは全く無関係である。急激に起こった所得機会の減少、滅失などへの緊急対応である。しかし、実施するからには十分にその効果を見つめ、将来の事態への参考とすべきだろう。この給付に人々がいかに反応するか、いかなる形で使われるか、実施してみないと不明な点は多い。しかし所得制限などを考えだすと、議論はとめどなくなり、この危機ではタイミングを逸してしまう。実施するからには、こうした給付が見出した問題を十二分に読み取って今後の検討課題としたい。
日本ではUBIについては、国民的議論がこれまで詰めた形でなされたことはほとんどない。政治家の理解度も様々であり、大多数は平時に実現の可能性はないと思ってきたのではないか。国民の多くはUBIがなんであるかも知らないだろう。
今回は目的も全く異なり、当面、一回限りの給付になるだろうが、国民としてその意味をよく考える得難い機会となる。公平性の問題などについては、後日に租税公課の変更などの道がないわけではない。今は早急、果断に実行することが最重要とされる。危機は通念を離れ、飛躍できるチャンスでもある。
*無条件で国民に一定の金額を給付するベーシックインカムは、概念を明確化するため、UBI(Universal Basic Income)と表現されることがある。例えば被災者への給付など、限定かつ特定条件に当てはまる人だけに給付することもベーシックインカムと表現される場合もあり、それではこれまでの社会保障の枠内の施策と本質的に変わらない。