時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

遠からず来る時を前に(1):ひとつの整理

2020年04月21日 | 特別記事

ケンブリッジの春                                                       YK


このブログともホームページともつかない筆者のメモ(心覚え)では、17世紀から現代まで、世の中の様式に制約されることなく脳細胞の片隅に残る様々なことを書き連ねてきた。

原型が作られたのは、ウエッブ上にホームページなるものが増加し始めた今世紀初めの頃であり、ほとんど20年くらい前まで遡ることになる。トピックスはブログ筆者の関心のままに記してきたので、本サイトを訪れてくださる方々にとっては、記事相互間の脈絡も掴みがたく、何を意図しているのだろうかと思われた方も多いことだろう。事実そうした感想をいただいたこともある。

当初から歳とともに衰えてゆく脳細胞記憶能力の外部補完装置のようになればと考えてはいた。思い浮かんだことをその都度、短い記事にしておけば必要な時になんとかなると、索引用語(キーワード)のような役割を期待してきた。そのため、文体も硬くなりがちで、読者の読みやすさは二次的になっていた。

扱われているトピックスは、17世紀の美術から現代の経済社会の出来事までカヴァーしているので、いかなる糸でつながっているのだろうかと思う方が多いのは当然なのだが、筆者が意図したように、ある程度メモが記事の形で累積してみると、少しずつながら共感してくださる方も増えてきた。記事の累積効果と言えるだろうか。

17世紀への想い:危機に生きた画家
最初は17世紀「危機の時代」に生きた画家ジョルジュ・ド・ラトゥールのブログ筆者なりの理解を書き記すことに始まった。単なる作品の印象ではなく、画家の生きた時代へ作品を置き戻してみたいという想いがあった。スタートラインとなった17世紀ヨーロッパは「危機の世紀」といわれたが、その範囲は当初ヨーロッパにとどまると見られていた。ヨーロッパに限っても、小規模のものを含めて、戦争のなかった年はわずか4年しかなかったといわれる。小氷期の到来により気候が寒冷化し 農作物の不作が続いて経済が停滞し、魔女狩りをはじめとする社会不安が増大した。 さらにペストの流行で人口が減少に転じた。 これにより今までの封建的なシステムは崩れ、資本制が広がるようになる。そして、世界は天災、飢饉、疫病、宗教上の争い、魔女狩りなどの政治や社会不安などで溢れていた。

「神聖ローマ帝国の死亡診断書」とも言われる ウェストファリア条約 が結ばれて以降、 「ウェストファリア体制」と呼ばれる 勢力均衡体制が支配する社会となり、安全弁のごとくに各国の相互内政不干渉が保証される。こうして成立した近代主権国家は、20世紀に至るまでの国際社会の基盤を作り上げた。さらに、その後に研究が進み、17世紀は今日では初めて「グローバル危機」を経験した戦争、飢饉、疫病などに覆い尽くされていた世紀とみられるようになった。

「危機の世紀:17世紀」から世界大恐慌まで
この頃のメディアは、文字通り新型コロナウイルスの問題で埋め尽くされている感がある。最近のIMFの成長予測では、この衝撃で世界経済が大きく縮小し、「1930年代の大恐慌以来、最悪の不況を経験する可能性が高い」と強い危機感を示している。現在の見通しでは世界経済は500兆億円超を失うとの見通しである。IMFは2020年の世界経済は前年比で(ー)3.0%と、2009 年のリーマンショック時の(ー)0.1%を上回る減少が予測されている。文字通り「グローバル・クライシス」である。

長らくお読みくださっている方は、ブログ筆者が1930年代の大恐慌期にかなり比重を置いてきたことにお気づくかもしれない。

筆者自らが生きてきた時間の大部分を占める20世紀は「大恐慌」、2度の世界大戦を含む危機の時代であった。最近、「大恐慌」というと、「リーマンショック」(the Great Recessionと呼ばれることもある)のことですかという若い世代に出会っていささか愕然としたが、1930年代の大恐慌 the Great Depression (the Great Crash) をある緊張感を持って思い浮かべることのできる世代も少なくなった。幸いというか、筆者はこの大恐慌からの脱却に多くの形で実際に携わった人々の経験を直接に聞くことができた。

アメリカに国民皆健康保険制度がいまだに存在しないことに、アメリカ人のかなり多くの人は焦燥感を抱いているだろう。民主党大統領候補のバーニー・サンダースが大統領選から撤退することで、悲願でもあり、スローガンのひとつ、アメリカ版「国民皆保険」(メディケア・フォー・オール)制度が誕生する可能性はかなり薄れてしまった。バイデン候補を支持することで、どれだけその志はかなえられるだろうか。コロナウイルスは共和対民主ばかりでなく、民主党の中でもアメリカの政治思想の断絶をさらに深めることになっている。

このたびの新型コロナウイルスの世界的蔓延で、21世紀は前の世紀に続き、後世に「危機の世紀」として記憶されることは決定的となった。すでに、9.11(2001年)、リーマンショック(2008年)、3.11(2011年)と、予期せざる危機を経験してきた人類は、新たな世紀の初頭から並々ならぬ衝撃に対してきた。このたびの危機をいかなる形で乗り切るかで、その後の世界の姿は大きく異なるだろう。

続く

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