和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

都ホテルと、知的世界。

2019-06-17 | 本棚並べ
身近に本棚から、京都が見つけられるとうれしい。

桑原武夫著「昔の人 今の状況」(岩波書店・1983年)

そこに、こんな箇所。

「ノーベル賞の経済学者、F・A・ハイエク博士が1978年の秋、
今西錦司と三回の対談をもつために来日したとき、世話役を
ひきうけていた西堀栄三郎と私は、ある晩、博士の宿舎であった
都ホテルに京都の学者たちを招いて、歓迎のレセプションを開いた。

吉川幸次郎が来てくれたのはよかったが、
何がきっかけであったか、西堀と口論をはじめてしまった。

国際的な中国文学の権威で、日本人として有史以来最も多く
の漢籍を読破した人と噂される吉川が、
世の中に本ほど尊いものはない、読書こそ人生最高の喜びだ、
と言ったのを聞きとがめて、
日本山岳会会長であると同時に、品質管理学の第一人者として
日本の貿易振興に最も貢献した西堀がからんだのである。

何をなし、何をつくるかが肝心なので、
本などなくてすめばそれにこしたことはない、
などと言いだしたのだから、もめるのが当然だ。

どちらもお酒が入っているのだから、ひっこみがつかない。
信念のぶっつけ合いからは何も生まれないことを知っている私は、
なかに割り込んでなんとか収めたが、記憶に残る一場面であった。

この二人を両極として、
その間に京都大学の知的世界がひろがっているのだなと思った。
上山春平、梅原猛、多田道太郎、川喜田二郎、梅棹忠夫などの
思想家がそこから輩出した。思想とは、ここでは
自分の専門領域を超えて広い世界について
独自の考えを示しうる人のことである。・・・」
(p68~69)


西堀栄三郎といえば、
桑原武夫著「人間素描」(筑摩叢書)に
「いま彼は南極の烈風と氷雪の中にいる。」
という言葉がある1957年6月に雑誌に掲載された
「西堀南極越冬隊長」という文がありました。


はい。両極の一端が、南極だったりします(笑)。


コメント
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