私の映画玉手箱(番外編)なんということは無い日常日記

なんということは無い日常の備忘録とあわせ、好きな映画、韓国ドラマ、そして
ソン・スンホンの事等を暢気に書いていく予定。

第37回東京国際映画祭

2024-10-28 21:52:20 | 映画鑑賞

今日28日から11月6日まで日比谷、有楽町、丸の内を中心に開かれる東京国際映画祭。

コンペティション部門は勿論、今後公開が予定されている作品から、映画祭でしか見るチャンスがないかもしれない作品、旧作から新作まで各種テーマに沿った作品など色々上映される。

残念ながら直接会場に足を運ぶ事は出来ないのだが、国際交流基金×東京国際映画祭 co-presentの交流ラウンジの様子が配信でも見られるとの事。ジョニー・トーの登壇もあるとの事なので、配信でチェックしたいと思っている。

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コンペティション部門15作品中、中国、台湾、香港等中国語圏の作品があり、日本の作品も3作品入っている。それらの作品に対する審査員長のトニー・レオンの総評が聞けるのが今一番の楽しみ。

 

オープニングセレモニー|Opening Ceremony 第37回東京国際映画祭|オープニングイベント


侍タイムスリッパー

2024-10-26 21:16:19 | 映画鑑賞

命を受けて京都で長州藩士に刀を向けた会津藩士。刀を合わせ、今まさにという瞬間に雷が落ち、気づいた時は140年後の京都の撮影所の中。

そんな風に自分の意志に関係なく、まったく別の世界に足を踏み入れる事になってしまった高坂新左衛門。街中のポスターで幕府が倒れた事を知るも、帰る術の無い彼は、なんと撮影所の中で斬られ役として生きていく道を選ぶのだ。

帰る術がない事を嘆くでもなく、現代の事をあれこれ追求することもなく、自分が出来る事は・・・と斬られ役の道を選び、選んだからにはその事に真摯に向き合う姿がなんとも清々しい。本物の剣士故、飲み込みも早い。どんどん見せる殺陣のスキルも上がる。140年の時間差も、周りの人への配慮を欠かさず、敬意と感謝の気持ちを忘れないという、その真面目さ故乗り越えるのだ。

140年の時間差を乗り越えて現代で真摯に生きる姿と、劇中劇で斬られ役に徹する姿との間に境目があまりないため、観ている側も思わず、どちらも本当の姿のように錯覚し、どちらの姿も熱く応援したくなってしまうのだ。

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子どもの頃、夕方、おやつを食べながら見た数々の時代劇の事を思い出す。


国境ナイトクルージング

2024-10-24 22:05:39 | 映画鑑賞

中国東北部、北朝鮮との国境の街延吉、フィギュアスケート選手時代の傷を抱えながらバスガイドをする若い女性。
延吉は延辺朝鮮族自治州の街。街で行われる結婚式は、新郎が中国人で新婦は朝鮮族。司会者は中国語と朝鮮語を操り、新婦の親族たちはチマチョゴリを着て祝宴を盛り上げる。街中の飲食店にはハングルの看板が掲げられ、若者たちが集うバーで歌われるのはK-POPだ。
国境の街らしく二つの文化が自然に交じり合う。

ガイドの女性ナナは、観光客たちと一緒に朝鮮族の民俗村に行けばカメラマンになり、観光客をツアー向けの料理店に送り届ける。
そんな彼女は、自分のツアーに一人で参加し、携帯を失くした男性を友人と一緒の食事に誘う。気楽にツアー客に声を掛けるその様子に楽しさは感じられない。自分の寂しさを紛らわすかのように声を掛けた彼女と同様、ツアーに参加した若い男性も彼女の友人と一緒に彼女の家に上がり込み飲み明かす。

診療を促すクリニックからの電話を何回も受ける男性の笑顔は力なく、休みなく2週間働いたという彼女にも心からの笑顔はなく、叔母の食堂で働くナナの友人にも底抜けの明るさは感じられない。何もせずにはいられないが、具体的に何かをしたいわけでもない。そんな3人がただ、流れる時間を何かに使いたいがために、長白山にある天池を見に行こうと寒い中車を走らせる。

そんな姿を見ながら、なぜか自分も同じように目的もなくどこかに向かっているような気分になる。冗談を言い合い、ただ寒い中、車を走らせる姿を見ているだけなのだが、彼ら同様に自分もどこか少しだけ解放されたような気持ちになる。

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長白山(朝鮮名:白頭山)は朝鮮民族にとっての聖地。そこで彼らが美しい物語のように語った話は、朝鮮の始祖神、壇君の話。国境の街、お互いの文化が混ざり合う地ならではだ。

王子が人間界に降りて来た際、虎と熊が王子に人間になりたいと訴える。それを聞いた王子は、ヨモギとニンニクを彼らに与え、それだけで洞窟の中で100日過ごす事が出来たら人間にすると約束する。虎は逃げ出すものの熊は耐え抜き美しい女性になり自分を人間にしてくれた王子と結婚をして壇君が生まれる。

彼らが遭遇する熊にもそんな意味が込められていたのだろうか。

 


破墓/パミョ

2024-10-20 19:46:44 | 映画鑑賞

巫堂(ムーダン)のファリムとボンギルは、跡継ぎが次々と謎の病気にかかるという海外在住の家族から桁違いの報酬でお祓いの依頼を受ける。

韓国にある彼ら一族の墓に原因があると踏んだ巫堂(ムーダン)のファリムとボンギルは、墓地の場所を見極める風水師と改葬を取り仕切る葬儀師に声をかけ、家族の意向を受けお祓い改葬を一緒に行うのだが、掘り出した棺には禍々しい秘密があり・・・というオカルトチックな展開。

お祓いを取り仕切る巫堂(ムーダン)のファリムとボンギルを演じるキム・ゴウンとイ・ドヒョンの「私たち若いけれども実力はあります」という貫禄さえも感じさせる熱量。お祓いにも若さとプロフェッショナルさが感じられ、風水師を演じるチェ・ミンシクと葬儀師を演じるユ・ヘジンとチームを組むも年配の彼らと同等にやりあう。

掘り返し棺を運び出し、お祓いを済ませてその後祟りのような事がなければ彼らの仕事は終了だ。原因究明が彼らの仕事ではないのだが、不思議な出来事は続き、彼らは再び墓に隠された秘密に向き合わねばならなくなる。

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ここからは、恨(ハン)という感情を忘れることなく、それを自分たちのアイデンティティと捉える韓国らしい展開。恨(ハン)は相手があってこその感情なので、ここで見ている者が一致団結する相手が必要となる。そこで白羽の矢が立つのは・・・という事なのだが、ここからの展開の詰めが甘い。ストーリーとしてはここからの展開が見せ場なのかもしれないが、私には墓を掘り出すというのが一番の見せ場に思えたので、映画的な熱量は随分トーンダウンしていたなと感じてしまう。おどろおどろしい場面が続くも怖さはそれほど感じず。

改葬アベンジャーズの4人の熱演で面白く見るも、後半の熱量が薄れた安易な設定に思わず苦笑い・・・

 

 


2度目のはなればなれ

2024-10-14 19:01:44 | 映画鑑賞

2014年の夏、イギリスの海辺の街ブライトンで妻と二人で施設で暮らす退役軍人のバーニーは、施設に妻を残し、一人、上陸作戦70年記念式典が行われるフランスのノルマンディーに向かう。どんなに長い時間が経とうとも、彼の心には整理のつかない事があったのだ。

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フェリーの中で出会う、空軍として大戦に参加した退役軍人とアフガニスタンに従軍したという若者。誰の上にも戦争の傷は大きく心に影を残す。若者も同じように戦争の傷を自分でコントロールする事が出来ず苦しんでいる。

どんなに幸せに暮らそうとも、どんなに未来があろうとも、戦争の影は容赦なく人生に暗い影を落とす。その気持ちに整理をつける為にどれだけの勇気とどれだけの悲しみが必要なのか。

いつでも二人で過ごしていても戦場であった事を妻には打ち明ける事が出来なかったバーニー。ツアーに入る事が出来なかった彼が、小さなビニール袋にパスポートと財布を入れ、一人フェリーに乗り、ノルマンディーに向かうのには、それだけの思いがあったのだ。

人の優しさを感じながらも、幸せで上書きする事の出来ない戦争の傷の惨さを思う。

映画『2度目のはなればなれ』予告編|10月11日(金)劇場公開


シビル・ウォー アメリカ最後の日

2024-10-13 18:33:23 | 映画鑑賞

連邦政府から何州もが離脱したアメリカ。大統領のいるワシントンDCにはテキサスとカルフォルニアの同盟による西部勢力が迫る。

未来ではあるかもしれないが、限りなく現在に近い未来だ。何故何州もが離脱したかははっきりとは分からない。少なくとも私は分からなかった。2期しか出来ないはずの大統領が3期目に突入し、更にはFBIも解散させたと簡単に語られるが、各州がそれだけで連邦政府を離脱するとも思えない。

ただ、各所で政府軍と西部勢力が衝突する内戦が散発し、内戦に乗じたような略奪が行われ、誰が味方か敵かも分からないような銃撃戦が各地で起こる。一度起こってしまった内戦は簡単には止まらない。

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今、世界各地で行われている事を考えると、この映画を観ながら「アメリカでこのような内戦が起こる事わけがない。荒唐無稽だよね。あり得ないよね。映画の中の出来事だよね」などとは思えない。

むしろ、私があり得ないと思ってしまったのは、内戦の最前線にどこまでも食いついていく戦場カメラマンと記者たちの姿だ。当初「14か月もの間取材を受けていない大統領の単独インタビューを狙う」という目的は受け入れる事が出来た。ただ、その後、内戦の最前線、西部勢力がワシントンDCの心臓部にまで迫る勢いの中、銃弾、手榴弾が飛び交う中でもカメラを向けその様子を記録しようとするカメラマンとその様子を見守る記者、そして彼らを邪魔者扱いせずに自分たちの仲間のように受け入れ、全てを記録させようとする同盟軍の対応に驚いた。カメラマンや記者達の矜持も分かるが、あのように生々しい写真の数々を見せられた人々はそれをどのように消化すればいいのだろう。

「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」という台詞にも驚いたが、どこまでも情報と記録を追いかけるその姿にも驚く。


武道実務官

2024-10-06 19:14:59 | 映画鑑賞

父親のチキン店の配達を手伝いながら、柔道、テコンドー、剣道と各種武術を学び、それ以外の時間は友人たちとeスポーツで過ごす青年ジョンド。

街中で偶然、保護観察中の元犯罪者ともみ合っている武道実務官を助けた事で、武道の腕を買われて人手不足の武道実務官にスカウトされることになるのだ。

彼の仕事はあくまでも保護観察官と一緒に元犯罪者が再犯を犯す事を阻止する役。基本的には電子足輪をつけた彼らの動きをネット上で監視していくことが中心なのだが、抑止力役として働く中で制約は多い上に、自分たちの安全を確保する事にも苦心する必要がある。

負ける事が嫌いだからと武術を学び、友人たちとビデオゲームの対戦に励んでいたジョンドにとって、保護観察官と共に保護観察中の元犯罪者が再犯を阻止する仕事は全く未知の世界だったはずなのだが、その仕事に思わぬ適性を見せる彼。

「楽しい事だけをしたい」と言っていた素直な青年は、自分をスカウトしてくれた保護観察官をeスポーツ仲間に早々に紹介して焼肉で兄弟の契りを結び、保護観察官の言葉一つ一つを真面目に聞き、素早くそして積極的に仕事になじんでいくのだ。

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「楽しい事だけをしたい」と言った青年は偶然に武道実務官になり、犯罪の渦の中に巻き込まれそうになりながらも、曲がる事なく自分の長所を生かして仕事に邁進し、困難にぶち当たると、eスポーツ仲間と手を組み「法を犯さずに犯行を阻止する」ということに正面から立ち向かう。eスポーツ仲間との行動は、まったくもって少年探偵団ならぬ青年探偵団といった様相で、驚く程直球勝負の映画だ。2時間越えの映画が多い中、1時間49分という見やすい映画だ。寄り道はせず勧善懲悪に徹する潔さがある。

Netflix で鑑賞

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韓国ドラマでも、保護観察中に電子足輪で行動を監視されている場面が時々出てくる。

先日の韓国語レッスンのテキストのタイトルは『性犯罪者の身上情報公開 第二のNIMBY 憂慮』だった。

性犯罪者が出所した際に、その近隣に住む人々に性犯罪者の身上情報を公開することは再犯防止の為に行われているとの事。子どものいる家庭などでは安全面の為にそのような情報を必要とされるも、そうすることで犯罪者を二度処罰することになるのでは?性犯罪者が近隣に住んでいる事が分かると自分の住んでいる地域の資産価値が下がるのではないか?という事が取り上げられた結構重い内容だったが、その中でも電子足輪について触れられていた。

 


本日公休

2024-10-04 19:06:55 | 映画鑑賞

台中の理髪店を一人で切り盛りする女性店主。独立している子ども達の私生活の問題に胸を痛めるものの、腕の確かさと沢山の常連さんに支えられ、40年間店を守って来た。

暫く顔を見せない常連さんには、来店を促す電話をさりげなく入れ、頭の形を見れば似合う髪型が分かるという技術力に裏打ちされた言葉の確かさ、道具を丁寧に扱う様子。常連さんと交わす言葉の一つ一つに彼女と常連さんの人生を感じ、さりげない立ち居振る舞いに、キチンと自らの足で歩いて来た女性の人生を感じる。

優しい元娘婿に車を整備してもらい、自らボルボを運転して長年の常連さんの元を訪ねる様子は、短くとも味わい深いロードムービーだ。ただ、自分の人生の終わりに向かって歩む姿にも寂しさはない。自分の技術で生きてきて、これからも出来る限りそうやって生きていくであろうしなやかな強さを感じるのみ。

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心優しい元娘婿を演じるフー・モンボー、彼と離婚した次女と一緒の美容室に勤務するスタイリストを演じるリン・ボーホン、女性店主が車を運転する途中に出会う青年を演じるチェン・ポーリン。

フー・モンボーの演技が印象的なのは勿論、特別出演のリン・ボーホン、チェン・ポーリンも特別出演とは思えないいい役だ。

理髪店の店主を演じるルー・シャォフェンは長いブランクを経ての現場復帰との事だが、そんな感じは一つも感じさせない。

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理髪店のサインポールは万国共通との事。

お互いに気ごころしれた常連さんと店主が交わす何気ない会話も万国共通だろう。何気ない毎日、皆が髪型に込める思いにそれぞれの人生を感じる。

洪佩瑜 @_hungpeiyu 《同款》Official Music Video(電影【本日公休】主題曲)


サウンド・オブ・フリーダム

2024-09-29 19:15:27 | 映画鑑賞

アメリカの国土安全保障省の捜査官ティムは、組織的に誘拐された少年少女の追跡捜査を担当していたが、アメリカ国内で出来る事は加害者を逮捕することだけだ。加害者を逮捕しても、組織は金になる誘拐を南米で行い、再び子ども達をアメリカに送り込むといういたちごっこが行われるのみ。自身の仕事の不毛さを感じ、ティムは実際に幼児誘拐行われているコロンビアに単身潜入することを選択。最終的には仕事を辞め、地元警察と手を組み、更には協力者と手を組み、誘拐された子ども達を助ける道を探そうとする。

子ども達を売買する事で想像も出来ないような大きな金額が動く。子ども達を精神的にも肉体的にも痛めつけられる事で、金金銭的に潤う者と自分の欲望を満たす者が何人もいるという現実。

本編終了後、実在の人物ティム・バラードを演じたジム・カヴィーゼルの映像が流れる。「ストーリーテラーこそ力を持つ」と、この映画では、そのストーリーテラーは売買された姉弟であると二人の置かれた境遇に触れ、映像を一時停止することが出来ない映画館でこそこの映画を観て欲しいと熱く語っている。

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映画は制作後、公開まで5年かかったとの事。

実話を基にした映画のチラシには『アメリカの公開時には賛否両論が巻き起こる中、異例のヒットを記録』と書かれ、映画の公式サイトで紹介されている海外レビューとして『文化論争プロパガンダとして片づけるに値しない作品。』『この映画を取り巻くすべての雑音をシャットアウトせよ。』『いずれの政治的立場にも利用されるべきではない重要なテーマに触れている。』という文章が掲載されている。

少し検索するとニューズウィーク日本版の『小児性愛者や人身売買業者が登場する『サウンド・オブ・フリーダム』は派手なQアノン映画か? まともな批評に値する作品ではない理由』というタイトルの記事がヒット。

ぴあ映画のサイトには『児童人身売買の惨状を描く衝撃作『サウンド・オブ・フリーダム』 監督が制作の裏側を赤裸々に語る』という記事、『『サウンド・オブ・フリーダム』──アメリカで深刻な社会問題となっている児童人身売買の実態』というタイトルの池上彰氏らしいニュートラルな記事が掲載されている。

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87席の劇場で見たのだが、ほぼ満席。

 

 


スオミの話をしよう

2024-09-22 18:56:34 | 映画鑑賞

詩人の妻であるスオミが行方不明になり、詩人の家に集まる事になるスオミの元夫たち。

スオミがそれぞれの夫の前で見せていた顔は全く違っている事が分かってくるものの、4人の元夫と現在の夫の「自分の妻だったスオミはこんな女性だった報告会」は収束せず。

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5人の夫のキャラクター設定が混乱する事はないが、予想外の爆発はなく、全員なんだかわかりやすい勘違いをしているなと思う。スオミに会う事なく捜査を手伝う瀬戸康史演じる刑事が一番元気でエネルギッシュだった。他の5人は、何だか訳の分からないスオミにそれぞれ英気を吸い取られてしまったのでは・・・・と思ったりする。

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三谷幸喜作品故、『これが舞台だったら、最後までスオミが姿を現す事なく、結局スオミって一体何者?』と思って観客が劇場を後にしたかもしれない。と想像したりするが、映画では長澤まさみが八面六臂の活躍で5パターンのスオミを見る事が出来る。夫たちの各種勘違いにクスっと笑いは出るが、しかし大爆笑とまでは行かないのだ。(大爆笑でなくてもいいのかもしれないが、私はもう少し笑いたかった)

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結局最後の『ヘルシンキ ヘルシンキ ヘルシンキ ヘルシンキ ヘルシンキー』に全部持っていかれた感あり。

 

〈大ヒット〉ヘルシンキ編 映画『スオミの話をしよう』15秒映像


ソウルの春

2024-09-15 20:01:01 | 映画鑑賞

1979年の韓国。朴正煕大統領の暗殺後の民主化ムードの中、生前の朴正煕大統領の元での中堅メンバー達が中心となって結成されたハナ会と、この機会に新しい体制を目指す勢力との対立が目立つようになる。

1979年12月12日の夜「機は熟した」とハナ会を率いて行動を起こす後の大統領である全斗煥と、彼とハナ会の行動を止めようとする軍人の、たった一晩の戦いを描いた映画。

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10月26日の大統領暗殺後、2か月も経たないうちにクーデターを仕掛ける全斗煥の後ろ盾になったのは、軍内部の秘密結社でもあるハナ会。電話を全て傍受し首都ソウルを守ろうとする軍の動きを把握し、各師団に所属するハナ会メンバーの存在を最大限に利用する。権力を手に入れようと欲望むき出しの集団の前に正攻法で挑もうとする軍人のイ・テシンは結局力尽きるのだ。

歴史的な記録や資料を基に創作も交えて描かれる9時間の攻防。結末が分かっていても、圧倒的な緊張感と分刻みの駆け引きで142分を一瞬たりともダレることなく見せる。

政治的な欲望を隠す事もせず「負ければ反乱、勝てば革命」と気を吐き、驚く程ビジュアルも似せて後の全斗煥を演じるファン・ジョンミンと、軍人として行うべき事は国防のみと、ブレることなくソウルを守り切ろうとする軍人のイ・テシンを演じるチョン・ウソン。

この二人を筆頭に軍人を演じる俳優達の力技の演技の数々。そのリアルさに息を飲む。

そしてこの9時間の出来事が、民主化要求を求めた市民たちを虐殺した翌年5月の光州事件に繋がっていくのかと思うと、軍人が政治的権力を持つ事に固執する事の怖さを感じずにはいられなかった。ただ、この後そんな風に権力を握った彼らもいずれは負け犬のように表舞台から降りる事になるのだ。権力に固執する恐ろしさをエンタメとして昇華して見せる映画の熱さの裏にある現実をも感じる。

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韓国版のポスターは、ファン・ジョンミンが全斗煥の見た目に寄せている事が更によくわかるようになっている。

これだけの登場人物で描かれる12月12日の夜の出来事。


ランサム 非公式作戦

2024-09-08 19:21:08 | 映画鑑賞

キリスト教勢力とPLOを主力としたアラブ人との対決に揺れるレバノンで、行方不明になった韓国人外交官。その後、1年程音信不通だった彼からの連絡と思われる電話を受けた若い外交官。

仲間を救う事は勿論、自分の将来の出世の為に身代金の一部を手にして一人現地に向かう彼。しかし、内戦で混乱するレバノンでは、拉致の解放交渉は、大きな金が動くという事で食指を動かす輩が沢山いるのだ。間に入る交渉人だけでなく、臨時収入になるからと介入してくる現地の役人、そして純粋に金を奪うためだけに襲ってくる武装勢力。

金が交渉の全てであるはずなのに、韓国国内で安全企画部を出し抜いて外交部だけで事を運ぼうとした事から、本国からの金が入金されず支援なしの状況で救出に向かう事になる外交官。そんな頼れるものはなんでも掴みたい外交官の前に現れたのは、不法入国したレバノンでタクシー運転手をしている韓国人男性。韓国政府からの見返りをちらつかせて、彼と一緒に救出に向かう外交官だが、国からの公式の支援がない中で救出がスムーズにいくわけがない。

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外交官を演じるハ・ジョンウとタクシー運転手を演じるチュ・ジフン。利害関係が完全に一致しているとは思えない二人が、内戦に揺れる海外で、支援がない中で金を持って人質交渉を行うのだ。タクシー運転手は外交官の金を持ち逃げする事を計画するも、仲間割れはすなわち死に直結する。

ありえない状況の中、協力していくしかない道中が数々のアクションで描かれる。お互いを信じあわなければならないその二人の気持ちの変化を、二人がきっちり見せてくれる

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ソウルオリンピックの開催を前にした韓国の状況が描かれる実話をもとにしたフィクション。実際の事件については今も開示されていない情報があるとの事で、その情報が開示されるまでまだ20年近く待つ必要があるとの事。

 


クロス・ミッション 

2024-09-02 22:02:01 | 映画鑑賞

刑事として働く妻の八面六臂の活動を陰で支える夫。妻の同僚たちからは、愛情をこめて「弟の嫁さん」と呼ばれる彼だが、その姿は仮の姿。元特種要員だった過去を妻にさえも秘密にして日々過ごしていたのだ。

しかし、過去と完全に縁が切れないのが元特殊要員の辛い所だ。以前の仲間からのSOSに応じた事で話は一気に動き出す。

怪しい動きが目立つ夫の浮気を疑う妻と、その勘違いを後押しする職場の刑事たちのちょっと間違った勘。また夫が巻き込まれる事件に刑事の妻も巻き込まれ、妻と夫は共同戦線を張り、びっくりするような巨悪に立ち向かっていくのだ。

Mr.&Mrs. スミス、奥様は、取り扱い注意等、夫婦で素性を隠す映画は様々あるが、この映画はその中でもソフトな面に特化した映画。夫妻の間に割って入るような役柄のチョン・ヘジンの見せる別の顔が、映画の後半をグイグイ引っ張る。

いくらでも深刻に出来る内容だが、明るくカラッとした雰囲気に仕上がっているので、夏の暑い時期、ノンビリ見るのにピッタリの映画だ。

 

ネットフリックスで鑑賞。

 


ガス燈

2024-08-31 20:35:05 | 映画鑑賞

叔母を殺人事件で亡くした女性が、留学中のイタリアで出会った作曲家の男性と結婚。叔母と暮らしたロンドンに戻って新婚生活を送るものの、ちょっとしたもの忘れや所有物の紛失を夫から指摘される。「君は疲れているんだ」「君がちゃんとしないから僕が守ってあげる」繰り返されるそんな言葉の数々に、次第に少しずつ何が正しいのか、判断に悩むようになる女性。

妻を庇うようにも思える行動の数々は薄っすらと高圧的で、彼女の存在を受け入れるようにも思えながらも、彼女の行動と判断を最終的には全て否定しているのだ。

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加害者が誤った情報の数々で被害者を操り、判断力を奪う行動をガスライティングと呼ぶのはこの映画が由来。

ソフトなモラハラで真綿で首を締めるかのように少しずつ女性の判断力を奪っていく様子が怖い。ただ、これをやられている被害者も当初はそれが心理的コントロールとは気づかず、様子が変だと思った時には、周りも被害者がおかしいのだと思うような状況になってしまっているのだ。

映画では、加害者の魂胆に気づいた刑事の活躍があるが、実社会でこれが行われた場合、特に職場でこれが行われた場合は、隠れたパワハラになるんだろうが、被害者が加害者に飲み込まれてしまっているケースが多くて、周囲の者が気づく事はまれだろう。たとえ気づいた者がいたとしても、その人が積極的に被害者に関わろうとしなければ、周囲も加害者の作った雰囲気に飲み込まれてしまっており、修復は難しい状況のはずだ。ガスライティングという言葉に引っ張られながら、シャルル・ボワイエ演じる作曲家の行動の一つ一つに恐ろしさを感じながら映画を観る。

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近所のスーパーで、食料品の横に並んでいる格安名作DVDの棚の中にこの映画を見つけて購入。

 


ラストマイル

2024-08-24 20:08:52 | 映画鑑賞

巨大ショッピングサイトの物流センターから発送された荷物が爆発する事件が起こる。爆発物は梱包された荷物の中に、いつどこでどうやって紛れ込んだのか。ブラックフライデーというショッピング業界における稼ぎ時を狙った事件。目的も分からず、爆発物がどれだけあるのかも分からない。ただ、配送を止めて原因究明を行う選択肢はないのだ。品物を発送しなければ売り上げは立たず、荷物を配達しなければ運送会社も配達を請け負っている委託業者も売り上げを立てる事が出来ないのだ。ショッピングサイトの物流の流れには、川上から川下まで多くの企業と多くの人が複雑に絡み合う。

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映画は物流倉庫を舞台にし、それに「アンナチュラル」と「MIU404]のエッセンスを注入した「犯人は一体だれなのか?」というエンタメ映画なのだが、私は物流業界の流れとパワーバランスがとにかく気になってしまって仕方なかった。

効率と言う名の元の過酷な「やりがい搾取」と、疲弊した人を「能力不足」と切り捨てるパワーバランスの冷たさ。

トラック事業者はドライバーの確保が出来ず輸送が出来ない可能性、荷主は配送業者から輸送を断られる可能性、消費者は当日や翌日のスムーズな配達サービスが受けられない可能性・・・

トラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制などが適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足する事が問題となっている物流の2024年問題の事が気になってしまい、火野正平と宇野祥平が演じる委託の配送業者や、大手ショッピングサイトから配送業務を請け負っている羊急便の局長阿部サダヲにもっとスポットが当たって欲しいと思いながら鑑賞。

勿論、巨大ショッピングサイトの物流センターという大きな怪物の存在も忘れたわけではない。マネージャー役を演じる岡田将生の佇まいからその効率主義のあれこれを色々考える。