私の映画玉手箱(番外編)なんということは無い日常日記

なんということは無い日常の備忘録とあわせ、好きな映画、韓国ドラマ、そして
ソン・スンホンの事等を暢気に書いていく予定。

違国日記

2024-06-16 19:19:33 | 映画鑑賞

両親を交通事故で亡くした女子中学生が身を寄せる事になったのは、小説家である亡くなった母の妹の元。

姉とは疎遠だったにも関わらず、少女に対する親戚たちの遠巻きの視線に耐えられず、思わず少女を自分の家に招き入れるのだ。

交流の無かった叔母と突然一緒に暮らす事になる少女の大人になる前の微妙な心の動き。嫌いだった姉の娘と勢いで一緒に暮らす事を選択した叔母の躊躇い。

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高校生になり、同級生たちとのちょっとしたすれ違いや少女らしい自尊心で傷ついたり傷つけてしまったりする事に悩む朝だが、叔母に対する態度はある意味とても自由でニュートラルだ。叔母との距離の取り方には物おじしない若者らしい様子も見える。

片や叔母である小説家の槙生は、無理に朝に合わせることなく、淡々と自分の立ち位置を彼女に示す。

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朝を演じる早瀬憩の生命力溢れる感じは非常に眩しいが、二人の日常生活を追いつつ、二人の感情の動きを静かに追い続ける2時間19分は私にはちょっと長く感じられた。

片づけられられない大人である槙生の部屋、カフェ、二人が歩く海沿い等、撮影場所は印象的な所ばかりだ。

 


シティーハンター

2024-06-08 21:03:41 | 映画鑑賞

原作漫画へのリスペクトが最大限感じられる実写化との事だが、私は残念な事に漫画もアニメも未見なのでその比較が出来ないのが残念。

ただ、漫画もアニメも未見でも、冴羽獠というキャラクターのイメージは私も中にもある。私自身は、二面性のあるキャラクターを映画の中で違和感を感じさせないことが成功の鍵だと思っていた。令和の新宿で、あの二面性のあるキャラクターを復活させる様子に少しでも面映ゆい所が感じられたら見ている方も落ち着かないが、そんな所が一つも感じられなかったところに鈴木亮平の役者魂を感じる。あのもっこりダンスを見せても余裕があり、クレバーさもどこか残しているのだから・・・

令和の新宿と昭和の新宿の混成感、夜の新宿が舞台でありながら猥雑さにウェットな感じが一つもなく、どこかからっとした感じなのはシティーハンターらしさの表れと理解して鑑賞。

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1980年代、新宿駅の伝言板を使った事はないが、映画の舞台にも近い西武新宿駅の伝言板にはお世話になった。落書きも多かったけれど、本気の待ち合わせ情報も結構あった。


関心領域

2024-06-02 18:50:11 | 映画鑑賞
アウシュビッツ収容所のルドルフ・ヘスとその家族が住むのはその収容所のすぐ隣。
庭師が整備した庭は絵にかいたように整い、プールには木製の滑り台も設置されている。
満ち足りたような家族の日常が描かれる。有る意味、単調とも思えるストーリー。
彼らは無関心なんだろうか。

煙突からは24時間煙がたなびいている。
花が咲き誇る庭の向こうからは、かすかではあっても途切れる事なく叫声が聞こえ、乾いた銃声も聞こえて来る。
列車は毎日のようにやって来る。
壁の向こうから聞こえて来る低く鈍い不協和音が四六時中途切れる事はない。

彼らは隣で行われている事に決して無関心では無い。会話の端々に何が行われているか分かっていると思われる言動が見られる。

知らんぷり領域
見て見ぬふり領域
私は関係無い領域

無関心ではないのだ。無関心ではないからこそ、その日々はいくら施錠しても心を蝕む。
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見ている間は「ホラー映画だ」と思ったのだが、本当に怖くなったのは見終わってからだった。不協和音が心の中で鳴りやまない。


猿の惑星/キングダム

2024-05-25 21:05:53 | 映画鑑賞

有名なラストシーンの1968年版を子どもの頃にテレビの洋画劇場で観ただけだったので、『猿の惑星シリーズ』の第10作目で、リブートシリーズの第4作というこの作品を非常に新鮮な気持ちで鑑賞。

宣伝文句に使われていた「完全新作」という言葉も、この歴史があってこその言葉だと思うのだが、私のような、いわゆる猿の惑星初心者にもこの映画は非常に優しかった。

300年前のシーザーの葬儀から始まる事で時代の立ち位置も分かり、村の行事の為にチンパンジーのノアが鳥の卵を手に入れる様子を描く事でエイプ達の世界の事と言葉を失った人間の関係性がすっきり分かるようになっている。そこに居ないシーザーの姿が見え隠れする続編と思われるストーリーなのに、それを敢えて「完全新作」と謳う逆説的なアプローチ。でもそれが新しい猿の惑星への挑戦でもあるんだろう。

エイプ達はそれぞれ集団を作り自分たちの生活を守るものの、権力を手にしたい者はそのバランスを崩して自分たちの地位を高めようとするのだ。何度も繰り返されたであろうその権力争いと他者との共生の難しさが、驚く程リアルな動きを見せる、ゴリラ、チンパンジー、オラウータンの個性的なエイプ面々の姿で描かれるのだ。

私の猿の惑星のイメージは、1968年版の顔だけ猿であとは人間と同じというものだったのでそのリアルな動きと彼らが動き回る森の中の様子に驚きしかなかった。次に続く物語の序章にしては、ややゆっくりなストーリー展開だったが、VFXの素晴らしさとエイプ達のキャラクターの描き分けにとにかく感服する。

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20世紀フォックスが20世紀スタジオになった事を改めて実感。

 

 


ゴジラxコング 新たなる帝国

2024-05-17 22:46:39 | 映画鑑賞

ゴジラの地上世界とコングが生きる地底。接近しては危ない二つの強大な力が、謎の地底帝国からのSOSでリンクする事になるのだ。

こんな風に書くとなんだかシリアスで重厚な雰囲気に包まれた壮絶な戦いを想像してしまうが、壮大なバトルはアクロバティックな雰囲気でも、映画全体はどこかポップで明るい雰囲気。

コングが生きる地下帝国の更に奥深くを牛耳るのは邪悪なスカーキングは一見ゴジラと見間違うような凍結怪獣を飼いならし恐怖政治を行っており、その恐怖に怯える地下帝国からのSOSに答えるべく出動するコング。しかしコングだけではスカーキングと凍結怪獣に立ち向かうにはやや不利ということでゴジラの登場が待たれるのだが、ゴジラとコングの仲を取り持つために一役買うのは、なんとあのモスラ。

コング、ゴジラとスカーキング、凍結怪獣の四つ巴の戦い。壮大な怪獣映画でなんだか笑顔になってしまう。

特にコングとスカーキングそしてそれを見守るスカーキングの手下たちエイプ達の戦いは、どうみても大きな猿の惑星だ。更に四つ巴の戦いは地底だけでとどまらずに地上に場所を変えて、世界中の街と遺跡を壊しまくるのだ。

とにかく全員勢ぞろいの派手でポップな娯楽映画。

 


無名

2024-05-13 21:46:13 | 映画鑑賞

1940年代の上海を舞台に、トニー・レオンとワン・イーボー演じる諜報員たちの駆け引きが描かれる無名。

ゴールデンウィーク中にも一度鑑賞したのだが、トニー・レオンファンとしてはもう一度スパイノワールを堪能すべく、先週末にもう一度映画館に足を運ぶ。

時代的には、当時の政権、日本軍、そして人民解放軍の三つ巴でスパイ合戦が行われていたのだろうが、映画は中国人でありながら、日本寄りで活動を行う諜報員たちの駆け引きが描かれる。ただ、日本寄りで活動を行うと言っても、諸手を挙げての活動ではない。戦況がどうなるか分からない中で、逃げおおせるように沢山の保険をかけての活動だ。それぞれの活動の温度差も、本音も分からない中で言葉の駆け引き、裏行動の駆け引きが行われる。

駆け引きそのものも判り辛いのに、映画を更に判り辛くしているのは、時系列がバラバラに描かれている事だ。監督の意図は分からないが、私は、諜報部員たち本人も相手の出方が分からない中で、駆け引きを行っている事をより効果的に見せる為にこのような手法を取っているのだと理解。そもそも諜報活動が分かりやすい訳がない。言葉には裏があり、銃弾の音の裏にも駆け引きがあるのだ。

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1回目に観た時は、年長のフーは微笑みを浮かべながら交渉し、年下のイエは表情を変える事なく活動に従事する、そのスタイルの違いがキャリアによるものなのか、諜報活動を行う上でのテクニックなのかも分からなかった。

2回目に観た際には諜報員としてのキャリアに差があってもそれが表立った時点で自分の生死に関わるのだろうと思い、二人の違いはあくまでも二人が自分に一番有利な方法を取っているからだろうと理解することにした。殆どの場面で上海語を話すワン・イーボーが年長者と一緒の場面でも表情を崩すシーンが殆どないのも、常に緊張感のあるなかで行動せねばならないキャラクターだからだと理解。

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ワン・イーボーは上背を生かしたアクションや、立ち姿を綺麗に捉えているショットも多かった。劇場内の物販の販売状況等から、観客の多くはワン・イーボーファンだったのではないかと思われる。ファンの人は彼の立ち姿の美しさに満足したのではないかと思う。

 

 

 


無名

2024-05-07 21:05:24 | 映画鑑賞

日本の真珠湾攻撃を前に、当時の政権、日本軍、そして人民解放軍の三つ巴でスパイ合戦が行われている、1941年の上海。
フー(演:トニー・レオン)とイエ(演:ワン・イーボー)は政権の元で諜報活動を行うものの、三つ巴の利害関係は複雑怪奇だ。
今日の敵は明日の味方かもしれず、敵は敵のままかもしれず、情報を仕入れようとして直接働きかけるのではなく、玉突きのようにして情報を仕入れているかもしれず。

戦況と自分たちのパワーゲームの状況を見ながら諜報活動は行われる。
スパイ映画の要素とノワール要素が複雑に絡み合っているのだ。辛うじて登場人物の立ち位置を確認することは出来るものの、スクリーン上で、スパイがそして登場人物達が語る言葉の真偽を確かめる事はほぼ不可能で、スパイたち同様、観客も自分の勘を信じて、諜報活動の成り行きを見守るしかない。

年長のフーは微笑みを浮かべながら交渉し、年下のイエは表情を変える事なく活動に従事する。そのスタイルの違いもキャリアによるものなのか、諜報活動を行う上でのテクニックなのかも分からない。

真珠湾攻撃後の上海、当時の日本軍の戦況、そして秘密裏に活動する人民解放軍。
中国での9.1億元の興行収入の秘密はどこにあるのか・・・という事を考えながら、監督がどこまでもこの二人を格好良く撮ろうとしていることをを確認しつつ、諜報活動での駆け引きを堪能する。

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私はトニー・レオンファンの為、後日もう一度鑑賞予定。その際にはもう少しフランクな感想を書く予定。


青春18×2 君へと続く道

2024-05-06 20:02:35 | 映画鑑賞

18年前の夏の台湾。大学入学前の夏、台南のカラオケ店でバイトをするジミーの前に突然現れた日本人バックパッカーのアミ。

「財布を無くしたので、旅行資金を稼ぎたいからバイトをさせて欲しい」と突然バイト先にやって来た彼女の存在は大学入学前の彼にとっては不思議でもあり眩しくもあり。中国語も分からない彼女の教育係になった事で彼女との仲はどんどん近づいていき、バイト先にもあっという間になじんでいた彼女だが、あまりにも唐突に日本へと戻ってしまう。

18歳の青年にとってはショックな出来事だ。そしてその出来事は、18年後、36歳になった時に彼女からの一枚のはがきを手に日本に旅立つ位に大きな出来事だったのだ。

18歳と36歳を完璧に演じ分けるシュー・グァンハンの存在感がこの映画の全て。

台湾での少し年上のお姉さんであるアミへの淡い思いと、突然自分の目の前から姿を消した彼女に36歳になって日本で再び近づこうとする大人の男性。

18年後の彼の様子からどんな事があったかは大方予想がつく。それでも18年前の思いを大事にするジミーの姿からは、思い出を胸に前に進もうとする真摯な思いが伝わってくる。

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台北よりも南国風でノンビリした雰囲気のある台南の雰囲気も素敵だったが、飯山線を途中下車し、雪原の中に入っていくシーンが印象的だった。40年前、飯山線の戸狩(当時はまだ温泉が出ていなかった)のスキー場の民宿で泊まり込みでバイトをしていた。バイト先に向かう為、長野から乗り込んだ飯山線でトンネルを通り抜ける度に雪景色が広がっていく様はまさに映画のシーンと一緒だった。映画のおかげで私も40年前に旅する事が出来た。バイトの思い出とともに自分の若い時の事も思い出しながら雪景色を楽しむ。

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マリウポリの20日間

2024-05-04 20:46:38 | 映画鑑賞

2022年2月のマリウポリ、AP通信のウクライナ人記者は現地に入り、通信状況が悪い中でもカメラを回して映像を海外に送り続ける。他の海外メディが状況が悪化し脱出するなかでも取材を続けるも、ロシア軍の侵攻が進む中、取材をし続ける事は難しく、軍の特殊部隊の掩護を受けて取材した映像を持って市内から脱出。そんな非常事態の中で、ウクライナ東部のマリウポリにロシアが侵攻してからの20日間を追った映像。

ニュースで観た映像が、砲弾、銃声の音、逃げ惑う人の声と恐怖に震える息遣いと共に目の前に現れる。

自衛のために侵攻するというプーチンの言葉、病院で傷を負った妊婦の映像に対する「フェイクニュース」と反応するロシア政府の幹部の対応、民間人を狙わないという言葉とは裏腹に砲撃を受け崩壊する住宅。

ニュースでは分からない、侵攻の状況がそこにはある。勿論ニュースの映像も衝撃であることに変わりはないのだが、映画は砲弾の音一つの後ろにそれに怯え逃げ惑う人が何人も存在する事、ひと時も休まる事がない恐怖との対峙、いつ終わるとも知れない侵攻への怒り等、何十倍もの情報量で迫って来る。

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自分の好みで映画を観ているだけなので、(ここに映画の感想を書いているのは自分のリアルな生活とは全くかけ離れている)実生活の中では、観た映画を人に勧める事はないのだが、この映画だけは、「見て欲しい」と声を上げたい。

 


異人たち

2024-04-27 20:07:34 | 映画鑑賞

12歳の時に両親を交通事故で亡くし、40歳の今、脚本家となりロンドンのマンションで一人暮らすアダム。そんな彼が幼い頃両親と暮らしていた家に行くと、そこでは両親が大人になった自分を迎え入れてくれるのだ。

両親と遠い昔の答え合わせのような時間を過ごし、ひと時の幸せを感じるアダム。しかしそんな幸せにも変化が訪れる。

誰もが心の奥底に抱える孤独。人は誰もが誰かの異人になるが、同じように誰かの孤独を少しだけ癒せる存在にもなるのだ。そうやって繰り返される深い悲しみを乗り越えるしかない。

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アダムの住むロンドンのマンションから見える朝焼けの中の、夕暮れの中の街並みが美しい。空の色も驚く程澄んで神々しい色合いを見せる。


ジェニファーのしたこと

2024-04-18 21:06:43 | 映画鑑賞

カナダの閑静な住宅街で起きた事件。ベトナム移民の家に男達が押し入ったのだ。警察に連絡をしたのはその家の一人娘であるジェニファー。証拠として撮影された映像と、当時を回想する刑事たちの映像から事件の真相が語られるドキュメンタリー映画。

タイトルからも、刑事たちが当時の状況をジェニファーに尋ねる様子からも、彼女のした事は薄っすらと分かる。

混乱する彼女をなだめながらも、事件当時の様子を刑事たちが確認する様子は、証拠として撮影されている為、彼女の様子が全て正面から捉えられている。映像は不鮮明であっても彼女の一挙手一投足が全部そのまま収められている。

移民であることで後ろ指を指されないようにと、彼女に十分な教育を与えようとする両親と、その期待に応えようと努力するものの、十分な成果が出せずに悩む娘。家族の様子、期待に応えられない彼女が選んだ道が少しずつ浮かび上がってくる。

同じ移民出身である女性刑事のコメントがなんとも切ない。


貴公子

2024-04-16 20:58:05 | 映画鑑賞

具合の悪い母の治療費を稼ぐために賭博格闘技で金を稼ぐ青年マルコ。
フィリピン人の母と韓国人の父の間に生まれ、コピノとして差別を受けてきたであろう彼にとっては、生きていく為の選択肢は少ないのだ。

そんな彼の元に突然やって来た父の使いという韓国人弁護士の男性。金の工面の為に母をフィリピンに残して渡韓する事になるマルコだが、その前に突然現れるのは白いスーツを着こなし、常に満面の笑みを浮かべる若い男性。飛行機の中での挑発は単なる予兆でしかなく、マルコが弁護士の男性とともに父の元に向かうのを何故か笑顔を浮かべながら拳銃で阻止。

襲われる意味がわかっていれば覚悟も出来る。恐ろしいのは笑顔で意味もなく襲われる事だ。
父の元に送り届けるのがミッションという弁護士、そして常に満面の笑みを浮かべマルコを付け狙う男(貴公子?)から彼を守る女弁護士。


弁護士の彼らは誰かに雇われ、何かの目的をもってマルコに近づいてきている事は分かる。ただ、カーチェイス中も、銃弾が飛び交う中でも満面の笑みを浮かべて、マルコに近づき、マルコを挑発する白いスーツの貴公子の目的は何も分からない。金が目的なのか、復讐が目的なのか、理由を明かさず、満面の笑みを浮かべたままマルコの後をついてくるその貴公子。

貴公子の笑顔に翻弄され意図が分からずに追い詰められるマルコと、韓国でマルコが来るのを待ちわびるキム・ガンウ演じる財団の理事、さらに弁護士でありながらとんでもない瞬発力を見せる女性と、これらの登場人物だけでも十二分に殺伐として陰湿なノワール映画だ。そこに一点の曇りもない軽めの笑顔で映画の雰囲気を完全に掌握するキム・ソンホ演じる貴公子。

韓国映画らしい重量級の痛さが感じられる場面はキム・ガンウ演じる財団の理事にまかせ、キム・ソンホ演じる貴公子は部外者然とした軽さと満面の笑みでその場の空気を支配する。
一点の曇りも躊躇もなく拳銃を討ち続ける姿はどこか突き抜けた様子あり。


パスト ライブズ /再会

2024-04-13 21:01:55 | 映画鑑賞

女性と男性の違いを改めて感じずにはいられないストーリーだ。

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幼い頃一緒に韓国で過ごすも、少女の両親の海外移住の為に12歳で別れる事になる少女と少年。12年後、ネットで繋がりオンライン上で再会するも現実に会う事はかなわず、実際に再び出会う事になるのは更に12年後、女性が結婚して生活するニューヨークの街だ。

12年後のオンライン上での再会。24歳の女性は若くて未来も輝いているように思える年齢だが、選択の年齢でもある。恋に生きるのかキャリアに生きるのか。両方を手に入れる事も出来るかもしれないが、彼女たちの場合はそこに距離が立ちはだかる。先に進みたい女性と違い、兵役を済ませ現実社会に戻って来たばかりの男性には、24歳はまだ大人になるための猶予期間なのだ。彼女に会いたくて熱意が実り再会するも、その再会の喜びに満足してしまい男性はその先の一歩を先延ばしにしてしまう。しかし、両親についてカナダに渡り、更にキャリアを積むべくニューヨークに移り住んだ彼女にとっては人生はどこかに向けて進んでいくものなのだ。二人の歯車はかみ合わず、再び出会うのは男性がやっと重い腰を上げる事になった12年後の36歳だ。

諍いがあって別れたわけではない二人の関係故、そのもどかしさは見る者に様々な感情を連想させる。今更会っても何も変わらないはずなのに、男性は何故女性に会うのか、会ってどうするのか、ただの懐かしさなのか。そしてその再会に更なる感情を付け加えるのは、女性が自分の夫に語る韓国語のイニョン(因縁)という言葉。前世という言葉と一緒に使われる事の多い因縁が24年ぶりの再会にどんな意味をもたらすのか。

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私は24年ぶりの再会に心揺れる二人の感情に思いをはせていたのだが、私の後ろの席で観ていた20代前半と思われる大学生らしい二人の男性は違ったようだった。

言葉も分からずに二人の24年ぶりの再会の様子を隣で観ていた女性の男性に感情移入したようで、「アーサー(女性の夫の名前)が可哀そうで涙が出そうになった。俺だったら絶対メンヘラになる・・・」と二人で熱く語りあっていた。

映画館で映画を観る醍醐味は、こんな風に自分とは全く違う視点からの感想が自然に耳に入って来る事だ。

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二人が再会するニューヨークの景色はどこまでも綺麗だ。映画を観ながら、中国本土から香港そしてニューヨークと長い年月をかけた男女の関係を追ったピーター・チャンのラブソングを思い出していたのだが、やはりそんな風に思う人はいるようで、監督にその事を確認しているインタビュー記事を目にする。

 


オッペンハイマー

2024-03-31 18:57:25 | 映画鑑賞

原爆を開発するマンハッタン計画の化学者達のリーダーとなり、1945年7月のトリニティ実験を成功させ、原爆の父と呼ばれたオッペンハイマーの生涯を追う映画。

昨日のブログで『物理に詳しくない事と併せて、監督のクリストファー・ノーランの得意とする時間軸が入り組む展開にやや心配があり…』と、やや気弱な事を書き、YouTube等でいわゆる予習をした事を書いたが、時間軸が入り組む展開についての心配は、そんなにする必要はないと思う。

モノクロが過去、カラーが現在という固定概念を捨ててしまえば、入れ替わる時間軸についてそんなに拒否感を持つ事もないだろう。モノクロは他者目線、カラーが彼の視点。映画は原爆が開発される過程を描いてはいるが、映画そのものは原爆を開発したオッペンハイマーの視点から描かれたものであるからだ。

実験は苦手であるが理論に優れた才能を示し、更に芸術にも造詣が深い化学者であったオッペンハイマーが、どのようにマンハッタン計画への招聘を受け入れ、秘密主義の計画に不満を示す化学者達をまとめ上げたか。その後、出来上がった原子爆弾が自分の手元を離れて、世の中に与える影響の大きさに苦悩する様。そんな一人の優秀な化学者オッペンハイマーの歩んだ道がモノクロとカラー画面が何度も入れ替わりながら描かれる。

広島、長崎の惨状が描かれなかったのも、その時点で物事はもう彼のコントロール下になかったからだ。映画はあくまでも彼の視点から描かれているからだ。

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私の場合は、オッペンハイマーが活躍した時代は量子力学が飛躍的に発展した事(アインシュタインさえも過去の人だ)、エドワード・テラーが重水素を使って核融合反応を利用すればさらに強力な核兵器(水爆)が作れる事に固執したのか・・・等を見る前にちょっとだけでも予習した事が映画を楽しむ上で役に立った。

このちょっとした予習がなければ、ウランの核分裂反応を用いて核爆弾を作っている中で、(そうやって作り出した核爆弾を用いて)更に強大な核融合反応を作り出し、何倍も強力な水素爆弾を作り出すという事の意味を理解することが出来なかっただろう。

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米上院議員のマッカーシーが主導した赤狩りに端を発するいわゆる「オッペンハイマー事件」

私は、映画好きなので、「映画業界のどこに共産主義者が入っているか徹底的に調査する」とマッカーシーが赤狩りを主導したことでブラックリストが出来上がり、ハリウッドを分断した事は知ってはいたが、この赤狩りがアメリカ全体に吹き荒れた事はよくわかっていなかった。赤狩りは、下院非米活動委員会が主導したとの事。映画の中の執拗なやり取りを見ながら「非米活動」という単語が、何故か2024年の今も不穏な単語のように思えてくる。


オッペンハイマー

2024-03-30 20:01:05 | 映画鑑賞

明日、オッペンハイマーを見に行く予定なのだが、物理に詳しくない事と併せて、監督のクリストファー・ノーランの得意とする時間軸が入り組む展開にやや心配があり、事前にYouTube等を検索して見る。

普段はこんな事をした事はないのだが、やはり3時間超の上映時間が私にこんな行動をさせたのだろう。

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【予習動画】オッペンハイマーを観る前にこれを見ろ【ネタバレなし】