原爆を開発するマンハッタン計画の化学者達のリーダーとなり、1945年7月のトリニティ実験を成功させ、原爆の父と呼ばれたオッペンハイマーの生涯を追う映画。
昨日のブログで『物理に詳しくない事と併せて、監督のクリストファー・ノーランの得意とする時間軸が入り組む展開にやや心配があり…』と、やや気弱な事を書き、YouTube等でいわゆる予習をした事を書いたが、時間軸が入り組む展開についての心配は、そんなにする必要はないと思う。
モノクロが過去、カラーが現在という固定概念を捨ててしまえば、入れ替わる時間軸についてそんなに拒否感を持つ事もないだろう。モノクロは他者目線、カラーが彼の視点。映画は原爆が開発される過程を描いてはいるが、映画そのものは原爆を開発したオッペンハイマーの視点から描かれたものであるからだ。
実験は苦手であるが理論に優れた才能を示し、更に芸術にも造詣が深い化学者であったオッペンハイマーが、どのようにマンハッタン計画への招聘を受け入れ、秘密主義の計画に不満を示す化学者達をまとめ上げたか。その後、出来上がった原子爆弾が自分の手元を離れて、世の中に与える影響の大きさに苦悩する様。そんな一人の優秀な化学者オッペンハイマーの歩んだ道がモノクロとカラー画面が何度も入れ替わりながら描かれる。
広島、長崎の惨状が描かれなかったのも、その時点で物事はもう彼のコントロール下になかったからだ。映画はあくまでも彼の視点から描かれているからだ。
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私の場合は、オッペンハイマーが活躍した時代は量子力学が飛躍的に発展した事(アインシュタインさえも過去の人だ)、エドワード・テラーが重水素を使って核融合反応を利用すればさらに強力な核兵器(水爆)が作れる事に固執したのか・・・等を見る前にちょっとだけでも予習した事が映画を楽しむ上で役に立った。
このちょっとした予習がなければ、ウランの核分裂反応を用いて核爆弾を作っている中で、(そうやって作り出した核爆弾を用いて)更に強大な核融合反応を作り出し、何倍も強力な水素爆弾を作り出すという事の意味を理解することが出来なかっただろう。
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米上院議員のマッカーシーが主導した赤狩りに端を発するいわゆる「オッペンハイマー事件」
私は、映画好きなので、「映画業界のどこに共産主義者が入っているか徹底的に調査する」とマッカーシーが赤狩りを主導したことでブラックリストが出来上がり、ハリウッドを分断した事は知ってはいたが、この赤狩りがアメリカ全体に吹き荒れた事はよくわかっていなかった。赤狩りは、下院非米活動委員会が主導したとの事。映画の中の執拗なやり取りを見ながら「非米活動」という単語が、何故か2024年の今も不穏な単語のように思えてくる。