役所広司演じる公衆トイレ清掃員の平山。朝暗いうちに東京の押上の古いアパートを軽自動車で出発し、渋谷界隈の公衆トイレの掃除に向かう。渋谷らしい洒落たトイレの数々を丁寧に掃除し、夕方には銭湯の暖簾をくぐり、脱衣所でゆっくりしながらテレビの相撲中継を見る。押上から渋谷へ、渋谷から押上へ・・・移動の車中に流れるのは彼が長年聞いてきたカセットテープの音楽。
窓を開ける音、畳の上を歩く彼の足音、畳んだ布団の上に置かれるそばがら枕の音、車に乗り込む前に自販機で購入する缶コーヒーが転がり落ちてくる音。アパートの中での日常を彩るのは、平山の生活音の数々。
静かな生活音で彩られる朝晩の様子、カセットテープの音楽で彩られる日中の移動の様子。大きな出来事がなくとも静と動が繰り返される日常から、一人の男性の営みが伝わってくる。
そして判で押したような毎日を淡々と過ごす平山ゆえ、ちょっとしたさざ波が引き起こす彼の感情の動きがより大きな波に感じられる。
若い同僚のだらしない行動にも意見しない平山の懐の深さは、どこから来るのだろう。
ちょっとした感情の動きをみせつつ、それらを飲み込み、いつものように日々を過ごす平山という男の横顔を見ながら、彼の歩いて来た人生を想像してみる。