返還前の香港を舞台に、違法取引で巨大な財をなした男と、ICAC(汚職対策独立委員会)の捜査官として彼を15年もの間追い続ける男の話。
マレーシアに技師として渡るものの、仕事に失敗し、1980年代の香港に流れ着いた男チン・ヤッイン(演:トニー・レオン)と、私生活を犠牲にしてまで彼の逮捕に執念を見せる捜査官(演:アンディ・ラウ)。
株式市場の高騰に乗じてどんどん資産を増やし、秘書(演:シャーリン・チョイ)の名前を使い、何社もの会社を設立てマネーゲームに興じるチン・ヤッイン。
映画の中では、一介の技師だった男が苦労して変わろうとする様子は殆ど描かれない。たまたま話せた福建語のおかげでチャンスを掴み、次第に言葉巧みにお金を右から左に動かし、ある程度の金を集めるとそれを元手に株を動かし始める。金に目がくらんだ者に声を掛け、インセンティブを高騰した株で支払う事で更に取引額を増やし、そんな事を繰り返し続けて資産が膨らんでいると思い込ませるのだ。いずれも自ら手を下すというより、全て周りの人間を動かすという、どこか間接的な動きが多く、彼に強力な決定権があるとは思えない。カリスマ性は感じさせるものの、その実、中身がどんなものなのかは一つも見えてこないのだ。
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私は株について詳しくはないが、映画の中で繰り返される『株と現金の価値を一緒にする』という言葉がこの詐欺のキーワードだと理解。現金の価値は景気がどうなっても変わらない。1円は何年経っても何があっても1円のままだ。ただ、株は株式市場が高騰すればするほど価格が上がっていく。
株式市場の高騰がいつまでも続くような雰囲気を作り出し、市場が暴落すれば株の価格が下がる事を忘れさせるような雰囲気を作り出すのだ。
『株と現金の価値は一緒』と思い込んだ人間たちは益々踊らされていく。
チン・ヤッイン自身はその高騰を眺め、それに乗じて自身も大きく見せるものの、その実態は非常に不透明。大きな損を背負っても、あたふたするのは周りの人間だけだ。
派手なスーツに身を包むも、その実態をハッキリとは見せない男と、法でその男を裁こうとする男のなんとももどかしい15年もの間の戦い。
私は、結末になんとも虚しい思いを感じたが、実際にその時代を知っている香港の人達には、もう少し別の物が見えていたのかもしれない。
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蛇足
トニー・レオンが劇中で見せる派手なスーツの着こなし。少しだけブルーノ・マーズを連想する。