NHKBSP4Kで、2024年7月25日に収録されたバイロイト祝祭劇場バイロイト音楽祭2024 楽劇「トリスタンとイゾルデ」が放映された。
ワーグナー 作曲
演出:ソルレイフル・オーン・アルナルソン
出演:トリスタン:アンドレアス・シャーガー 、イゾルデ:カミッラ・ニールント 、国王マルケ:ギュンター・グロイスベック 、クルヴェナール:オウラヴル・シーグルザルソンほか、
合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:セミョーン・ビシュコフ
私が初めて見た最初の本格的なオペラが、このワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」。
大阪国際フェスティバル1967でのバイロイト祝祭劇場の引っ越し公演で、4月の某日に、月給1か月分を叩いてチケットを買って出かけたので、よく覚えている。(ピエール・ブーレーズ指揮、NHK交響楽団)
丁度、直前に、カール・ベーム指揮のバイロイトのレコードが出て、イゾルデがビルギット・ニルソン、トリスタンがウォルフガング・ヴィントガッセン で主役が同じなので、何度も聞いて予習をした。
しかし、ロンドンに5年居たので、ハイティンクがロイヤルオペラで振ったお陰で、ワーグナー・オペラの舞台は殆ど観ているが、このトリスタンとイゾルデを、実際の舞台で鑑賞したのは、
先述のウイントガッセンとニルソンのバイロイトを皮切りに、ロンドンで、ウエールズ・ナショナル・オペラとロイヤル・オペラ、それに、ウルトラウト・マイヤーのベルリン・オペラだけで、あれだけレコードやCDを聴いてワーグナー節が頭にこびりついているのに、鑑賞機会は非常に限られているのである。
最も最近に聴いたのは、METライブビューイングの舞台で、もう、随分前になり記憶は殆どないのだが、
大阪フェスティバルのワーグナーの孫・ウイーラント・ワーグナーの演出は、幽かに原色のバックが浮かび上がる殆ど真っ暗で何もない舞台の奥の、全くと言って良いほど動きの止まった空間から、延々と歌手達の歌声とオーケストラのうねるようなコワク的な音楽が迸り続けると言う感じは、今でも覚えている。
今回の舞台は、演出のソルレイフル・オーン・アルナンソンによる新演出版 で、船底ようの舞台に擬古的な芸術品や装飾品で飾った趣向を凝らした舞台で、なかなか趣があって興味深い。
このオペラは、ワーグナーには珍しく神が登場しない至上の愛の物語。
コーンウオールのマルケ王に嫁ぐ為に帆走されてきたアイルランドの王女イゾルデが、それが嫌で、着船間際に死のうとするのを、侍女のブランゲーネが避けるために、毒薬と愛の妙薬をすり替えて与えた。マルケ王の甥で迎えの使者として来た自分の許婚を殺した憎いトリスタンと一緒に飲んでしまった二人は、たちまち恋に落ちてしまう。
王妃ながら王の目を盗んで密会していた二人の愛の絶頂に、マルケ王達に踏み込まれ、禁断の恋が露見する。トリスタンは、裏切った忠臣メロートに刺されて重態となり故郷に帰り養生するが良くならず、会いに来たイゾルデの前で息絶える。
こんな話を、ワーグナーは3幕ものの4時間以上のオペラに仕上げたのだが、主要登場人物も限られていて、心情描写の微妙な対話が延々と続き、殆ど舞台にも動きがなく、壮大な合唱もなければスペクタクルもない息詰まるような重厚なオペラ。
王妃ながら王の目を盗んで密会していた二人の愛の絶頂に、マルケ王達に踏み込まれ、禁断の恋が露見する。トリスタンは、裏切った忠臣メロートに刺されて重態となり故郷に帰り養生するが良くならず、会いに来たイゾルデの前で息絶える。
こんな話を、ワーグナーは3幕ものの4時間以上のオペラに仕上げたのだが、主要登場人物も限られていて、心情描写の微妙な対話が延々と続き、殆ど舞台にも動きがなく、壮大な合唱もなければスペクタクルもない息詰まるような重厚なオペラ。
私が一番気に入っているのは、第二幕の、トリスタンとイゾルデが、禁断の恋に酔いしれて歌い続ける「愛の二重唱」。
長大な螺旋を上りつめて行くように延々と続くあまりにも甘味で美しいトリスタンとイゾルデの愛の交歓で、これを聴きたくて出かけて行くようなものである。
ウィキペディアによると、この長大な「愛の二重唱」は、実演では「愛の二重唱」前半の「昼の対話」部分が342小節に及びカットされる場合がある。約15分間にわたるこのカットは、第3幕のトリスタンの長丁場のために、スタミナを温存させる配慮からなされたものである。1951年のバイロイト・ライヴ以降、こうした短縮は基本的に禁じられた。という。
ところが、今回の演出は、短縮版で、トリスタンとイゾルデがサワリを歌うだけで、急にマルケ王とメーロトたち従臣が踏み込んでくる。
全くの拍子抜けで期待外れであった。
コンサートなどで、「前奏曲と愛の死」が、演奏されることがあり、素晴らしい録音も多いが、傑出したワーグナー歌手が歌う終幕のイゾルデの「愛の死」は、感動的である。
イゾルデの愛の死
さて、カミッラ・ニールント は、 1968年生まれのフィンランドのソプラノで、世界中で活躍しており、レオノーレやヴェルディのエリザベッタ、ワーグナーのエリザベートやジークリンデと言ったリリックードラマチックなロールで国際的名声を博している。バイロイトでは、2011から14まで、タンホイザーのエリザベートを歌っており、祝祭デビューは、2017年のワルキューレのジークリンデ。
「トリスタンとイゾルデ」を始めて歌ったのは、2018年4月のカーネギーホールでのアンドリス・ネルソン指揮のヨハネス・カウフマンとのボストン交響楽団の演奏会だったという。
アンドレアス・シャーガー は、オペレッタのテノールからキャリアーをスタートしたオーストリアの歌手で、ワーグナーのトリスタン、ジークフリートやパルジファルと言ったヘルデンテノールに進み、ベルリン国立歌劇場の歌手として、スカラ座やバイロイトなどの国際舞台で活躍している。
バイロイト祝祭でのデビューは、2016年にさまよえるオランダ人のエリクで、2017年と18年に、パルジファルを歌っている。
指揮者のセミョーン・ビシュコフは、ロシア出身の卓越した指揮者で、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の指揮を打診されるが、政治信条を理由に公演が流れ、1974年にソ連から亡命して、欧米で活躍。数奇な運命を辿りながら、 現在はチェコ・フィルの音楽監督であり、カラヤンを尊敬していたというから、膨大なクラシック音楽要素が結集した指揮者なのであろう。
愛の妙薬を握りしめながら
カーテンコール
指揮:セミョーン・ビシュコフ