熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

時事雑感:アメリカの迷走に思う

2025年03月04日 | 政治・経済・社会
   トランプ・ゼレンスキー両大統領の激しい口論が衆目の注視するところとなり、国際情勢が一気に不透明感を増した。
   昨日、日経の朝刊「春秋」で、
   ”よくぞ言った。・・・大国風をふかせて恫喝する相手に、じっと耐えつつ一歩も引かないゼレンスキー大統領の姿に胸のすく思いがした。” ”助けてやっているのだから礼を言え。小国の客人を見下して隠そうともしない。”と報じた。
   ”祖国を背負うゼレンスキー氏の言葉には、重みがある。多大な犠牲を払って侵略者と戦ってきたのだ。後に禍根を残すうわべだけの合意など出来るはずがない。”とも述べている。
   私もそう思うし、世界中の殆どの良識派の考え方もそうであろうと思う。
   ワシントン・ポストは社説で、トランプ大統領のゼレンスキー大統領に対する振る舞いは、映画「ゴッドファーザー」の主人公でマフィアのボスである「ドン・コルレオーネのようだった」と批判した。 と言うから、アメリカにも良識があるのである。
   アメリカの凋落の兆しを思わせるような、アメリカの迷走ぶりが世界を震撼させた。

   トランプ大統領の頭から欠落しているのは、ロシアが、国際法など国際秩序を無視して独立国家のウクライナに一方的に軍事侵攻して、破壊と殺戮を重ねて蹂躙し続けているという考えられないような極悪非道の国際犯罪を侵していると言う認識であり、更に、ウクライナが、アメリカが建国以来国是として確立して育み続けてきた自由民主主義を死守するために矢面に立って必死になってロシアに対峙している厳粛なる事実の理解が皆無だと言うことである。
   この本源的な事件の根幹、この価値判断さえできる良識人であれば、ウクライナのレアアースを人質に取って、交換に軍事援助を継続するという姑息極まりない取引をしてMAGAを押し通そうとした筈はないし、決裂で成果をアピールすべきセレモニーが吹っ飛んでしまい、会談でメンツをつぶされたとして、ウクライナへの援助を中断するというガキの喧嘩にも等しき愚策に及ぶ筈もなかった。

   アメリカは、既に、前世紀の後半から、経済力や国力の低下によって、国際的な覇権的地位を喪失して、世界の警察官としての役割を放棄して、パクス・アメリカーナの時代が、過ぎ去ってしまっている。
   その上に、今回のトランプ・ゼレンスキー会談決裂が、さらに追い打ちをかけて、為政者の姿や対応の稚拙さが、アメリカが、もはや、世界のリーダーでも世界平和の導き手でもなく、その器にも値しないことを、白日の下に晒してしまったのである。

   さて、アメリカの変節によって、同盟国であろうと何であろうと、アメリカを信じて付き合えなくなった。
   すべて、アメリカに頼れない、アメリカ抜きで考えよ、自力で生きて行けと言うことである。
   MAGAと同じで、MJGA、すなわち、日本第一で、日本は自分自身で自分の国の安全と平和を守らなければならなくなった。
   「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」ただけでは、 国家の存続さえ危うい。当然だが、現実である。
   どうするか、それが問題である。
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ジョセフ・ヘンリック (著)WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上

2025年02月15日 | 政治・経済・社会
   欧米人に典型的なWEIRD 以下の頭文字を綴ったもの
   ((W:Western(西洋の)/ E:Educated(教育水準の高い)/ I: Industrialized(工業化された)/R:Rich(裕福な)/ D:Democratic(民主主義の)))
   この普通ではない( Weird奇妙な)と著者が特定するWEIRDの心理を、経済的繁栄、民主制、個人主義の起源 を追求しながら浮き彫りにしてゆく、上下巻合わせて900ページに及ぶ大冊ながら、興味深い本である。

   さて、本筋からちょっと離れるが、私が、まず興味深かったのは、キリスト教会が行ってきた信者たちへの教化と権力集中の歴史である。
   歴史的にWEIRDの心理を形成してゆく過程において、宗教、この場合は、キリスト教の影響が大きく影響していることは自明の理であるが、その展開が興味深いのである。
   16世紀にレオ10世が財政難を切り抜けるために、カトリック教会が発行した罪の償いを軽減する証明書贖宥状(免罪符)などその鬩ぎあいの典型だが、マルティン・ルターが『95ヶ条の論題』で 批判して宗教革命が起こった。 

   まず、キリスト教会が大成功を収めるに至った最大の要因は、婚姻や家族に関する禁止、指示命令、優先事項を定めた極端な政策パッケージにある。と言う指摘。
   キリスト教の聖典には(あったとしても)希薄な根拠しかないにも拘わらず、これらの政策は次第に儀式の覆いに包まれてゆき、説得,陶片追放、超自然罰の脅威、世俗的処罰といったあの手この手を組み合わせて、可能な限りあらゆる地域に普及していった。この教会の婚姻・家族政策は、緊密な親族ベース制度や部族的忠誠心を切り崩すことによって、個人を徐々に自らの氏族や家の責任、義務、恩恵から引き剥がし、その結果、人々が教会に身を捧げる機会が増え、教会自身の拡大を促進した。
   教会は、一夫多妻婚、取り決めによる結婚、血族間や姻族間でのあらゆる婚姻を禁ずることによって、社会技術でもあり、家父長権限の源泉でもあった婚姻の効力を劇的に削いだ。近親婚禁止のむいとこ婚禁止に至っては婚姻相手が居なくなるなど、この婚姻をめぐる禁忌事項や処罰が、国王や君主に至るまで情け容赦なく繰返されて、破門や財や資産が収奪され、最終的にヨーロッパ諸部族を消滅させた。と言う。
   
   また、興味深いのは、富める者は、教会を通じてその富を貧民に施すことによって、本当に天国へ行けるという説を広めて、それによって教会の金庫室を創設した。慈善の教えに加えて、相続権や所有権の変更を加えることで、教会の成長拡大が促され、その懐も潤った。慈善寄付の広まりは、高額の贈与がもたらす説得力によって、新たな信者を引き付けるとともに、既存の信者の信仰心を深める働きもし、同時に、こうした遺贈によって、激流のごとく収入が、教会に流れ込んできた。

   教会は、死や相続や来世を利用して、その財力を増して権威を築き続けてきた。と言うのである。
   
   何も、キリスト教に限った話ではなかろうが、教会と世俗社会との鬩ぎあいのような感じがして興味深かった。

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バルセロナの市民参加型の市政

2025年02月03日 | 政治・経済・社会
   先日、斎藤 幸平 (著)人新世の「資本論」のブックレビューで、「脱成長コミュニズム」 への道程で、バルセロナでの脱成長社会を目指す「経済モデルの変革」、すなわち、資本主義の終わりのない利潤競争と過剰消費が気候変動の元凶だと糾弾して気候非常事態宣言を発して、国家が押し付ける新自由主義的な政策に反旗を翻す革新的な地方自治体「フィアレス・シティ」の先陣を切った最先端のモデルケースであると紹介した。
   市民参加型の「脱成長コミュニズム」である。

   これに呼応したような記事が、日経日曜版に、掲載された。
   「人に優しいスマートシティー、バルセロナが問う未来の街 NIKKEI The STYLE」である。

   住民がオンラインで政策決定に参加する仕組み「デシディム」。提案を書き込めば市の担当者から実現可能性などの返信が必ず来る。書き込みを見た別の住民が「いいね」を付けたり、「こういう方法もあるのでは」などとオンライン上で議論したり。全人口170万人のバルセロナで約15万人が利用する。 
   使い方も日々進化していて、20年からは4年に1度、3千万ユーロ(約50億円)の使い道をデシディム上の投票で決める「参加型予算」も始まった。公園の改修や街の緑化など、住民の書き込んだ要望を投票で絞り込む。
   デシディム以外にも住民が街づくりに参加するためのオンラインシステムが増えた。例えば「イリス」は「通りのごみ箱があふれている」など、その場で写真を撮って市にクレームを投稿できる。
   底流に流れるのは「街を良くしよう」との気風。今日のこのバルセロナの気風は、フランコ独裁政権末期のムーブメントが淵源である。1975年まで続いたフランコ政権下でバルセロナは冷遇され、信号や学校などインフラが不足していて、集会の自由も制限されていたが、祭りの準備などと見せかけて住民集会を開いて話し合い、結束して少しずつ街を良くしていった。
   テクノロジーの発達によってデシディムなどの仕組みが整い、昔より誰もが簡単に政策に意見を言えるようになり、議事録など情報にもアクセスしやすくなった。バルセロナに根付いた住民参加の文化がテクノロジーによってさらに進化した。のである。

   バルセロナを訪れたのは、もう、3~40年も前のことで、ガウディの建築物やフラメンコ、市場の賑わい、オペラ鑑賞くらいしか覚えていないが、エキゾチックな素晴らしい多くの観光資源に恵まれたスペインでも、特異な観光地市であった。
   このカタルーニァ地方は、言葉も違うし独立意識の強いところで、スペインと一線を画した政治文化文明、
   どこまで、集権意識の強いマドリード政府に抗し得るのか、興味のあるところである。

(追記)口絵写真は、ウィキペディアから借用。
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トランプ大統領就任演説「黄金時代が今始まる」

2025年01月21日 | 政治・経済・社会
   トランプ大統領の就任演説をNHKの録画で見て、読売新聞電子版の演説全文を読んだ。
  今から、アメリカの黄金時代がはじまる。The golden age of America begins right now. からスタートした30分ほどの演説。
   ホワイトハウスのHPを開いたら、先日のバイデンから、全く様変わりで、第1ページは、トランプの映像写真の下に、次の文章、
   America Is Back
Every single day I will be fighting for you with every breath in my body. I will not rest until we have delivered the strong, safe and prosperous America that our children deserve and that you deserve. This will truly be the golden age of America.
   さて、the golden ageになるのか、the dark ageになるのか、神のみぞ知るということであろうか。

   私が気になったのは、
   「今日、私は一連の歴史的な大統領令に署名します。これらの行動により、私たちはアメリカの完全な回復と常識の革命を開始します。まず、南部国境に国家非常事態を宣言します。あらゆる不法入国は直ちに停止されます。 」と言うところの「常識の革命the revolution of common sense 」と言う文言で、「常識 common sense」と言う言葉などトランプには最も縁のない言葉である。アメリカの発展もその後の爆発的な成長も、すべからく、移民あってのアメリカ。その移民排斥が、「常識の革命」と言うのなら、何をか況やである。
   尤も、バイデン政治を否定した一連の歴史的な大統領令が、「常識の革命」と言うのなら、殆ど常識外れのような気がする。

   しかし、一番気になるのは、
   バイデン氏が退任演説でトランプ政権で少数独裁到来と警鐘を鳴らした
   「ハイテク産業複合体」―の不気味な台頭。
   軍産複合体による支配の危険性を唱えたアイゼンハワー元大統領の退任演説に言及し、人工知能(AI)開発を含む「ハイテク産業複合体」の台頭が「同様の脅威をもたらす可能性がある」と指摘した。のだが、 
   今回の就任演説会場では、テスラのイーロン・マスク氏、グーグルのスンダー・ピチャイ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、メタのマーク・ザッカーバーグ氏などビッグテックのCEOたちが、閣僚より前の席に配置されて目を引いた。と言う。正面演台のすぐ後ろ左側、トランプファミリーとの並びである。
   
   トリプルレッドで殆ど白紙委任状を得て超独裁権を握ったトランプ政権と、人類の文化文明史上最先端産業であり最高の経済権力を握るハイテク産業が癒着してアメリカのみならず世界全体を支配すれば、どんなことになるか、バイデンは、最後の白鳥の歌を歌って去ったのである。
   移民問題や関税の問題、ウクライナや中東の問題より、はるかに強力な文明破壊力が炸裂するような気がしている。
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ウォートンM:高技術移民の影響 The Impact of High-Skilled Immigrants

2025年01月14日 | 政治・経済・社会
   ドナルド・トランプのシリコンバレー/MAGA連合内でのH-1Bビザ(高技能労働者向け就労ビザ)論争は、いくつかの重要な疑問を提起しているのだが、
   ウォートンマガジン2024年秋冬号に掲載された「高技能移民の影響」外国人労働者が米国企業、そして経済全体を改善する方法」が、アメリカにとって、海外からの高技術者移民が非常に貢献しているとレポートしていて興味深い。

   移民と米国経済に関する大きな論争は、通常、海外の労働者が米国の求職者に損害を与える可能性があるかどうかに焦点が当てられているのだが、、移民と米国経済に関するさまざまな研究を分析したウォートン経営学部のブリッタ・グレノン教授は、新しいエッセイで、高技能移民のメリットについて考察した。
   グレノン教授は、移民が米国生まれの熟練労働者の仕事を奪っているわけではないことを発見し、実際、熟練移民は起業することが多いため、むしろ雇用を生み出している。ある研究によると、移民は米国生まれの市民に比べて起業する可能性が約 80% 高く、高技能移民のおかげで企業の業績が向上し、投資が増えると、通常はより多くの人を雇用することになり、それは経済にとって良いことである。「移民は、特に新興企業にとって、企業の成果に大きなプラスの利益をもたらしている」と言う。

   グレノン教授は、「移民に関する公共政策の議論が企業の役割を無視し、移民政策の影響は国境内に限定されていると想定する傾向にあることに、私は不満を感じてきた」と述べた。「このエッセイは、政策議論における企業の重要性を示し、ある国の移民政策の変更が他の国にどのような影響を与えるかを示すことで、その状況を変えようとしている。ここには、見落とされがちな国家競争力の観点がある。」という。

   移民は、ビジネスをより効率的にし、全体的な賃金を上げることができる新しいアイデアや技術を頻繁に持ち込む。例えば、米国企業に雇用されている人工知能の博士号取得者の59%は移民である。また、移民は多国籍企業が製品やサービスを海外に輸出する際にパフォーマンスを向上させるのに役立つと指摘する。
   これらの利点を考えると、多くの国が最も才能のある移民を誘致し、選ぶという共通の目標を共有している。米国は移民の主な目的地の 1 つであり、2020 年には世界の海外労働者の 18% が米国に移住した。多くの場合、企業からの雇用ベースのグリーンカードの需要が国ごとの制限を超え、永住権の待機期間が長引いている (中国、インド、メキシコ、フィリピンが顕著な例である)。米国で働くことを目指すインド国民の場合、これらの待機期間は現在 100 年を超えると予測されている。

   グレノン教授は、これらの問題が米国企業の決定と結果を形作っていると考えている。熟練した移民は、特に新興企業にとって、企業の成果に大きなプラスの利益をもたらしており、その入手可能性が変化すると、企業は生産方法を調整したり、事業を拡大したり、熟練労働者を海外に移転したりする可能性があると言う。

   グローバル経済では、熟練した移民の流入を制限する国の企業は、よりオープンな政策を持つ国の企業に比べてうまくいかない可能性がある。最終的に、企業が選択を行い、熟練移民の入手可能性の変化に適応する方法を考慮した、より洗練された移民モデルを求めていて、結論として、「制限的な熟練移民政策で自国の企業を妨害する国は、投資とイノベーションを海外に移すことで、自国の競争力を損なう可能性がある。」と言うのである。

   外国出身の高技能労働者とH-1Bビザ(高技能労働者向け就労ビザ)を巡って、MAGAとシリコンバレーの間で勃発したアメリカ文化に関する激しい非難合戦が、共和党内部とドナルド・トランプ次期大統領の支持層内で生じている深い分断を反映している。
   イーロン・マスクは、最初に南アフリカから渡米した際にJ-1ビザ(交流訪問者ビザ)を取得し、その後H-1Bビザに移行した恩恵派。テスラなどハイテク関連企業を経営しているので、このプログラムを利用した多くの従業員を抱えるなど大いに恩恵に預かっていて、MAGA派の急先鋒でことごとく移民反対の極右インフルエンサーのローラ・ルーマーやトランプ元側近で昨年10月に刑期を終えたスティーブン・バノンなどと敵対している。
   さて、どうなるか、アメリカの命運がかかっている。
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TOP RISKS 2025 日本への影響

2025年01月13日 | 政治・経済・社会
   ユーラシアグループが、恒例のTOP RISKS 2025を発表した。
   全リスクとも、トランプリスクと言っても良いほど、トランプ塗れの2025年バージョンだが、
   末尾に、各国への影響が収録されていているので、今回は、そのうちの 日本への影響(View implications for Japan )について触れてみたい。

   この項を要約すると、ほぼ、次のとおり。
   まず、冒頭、現代の日本に とって孤立は選択肢とはならず、国際貿易は日本の経済の生命線だ。米国なしでは日本 の安全保障が危機にさらされる。リスク回避の傾向が強い日本社会ではあるが、地政学上 のリスクを巧みに管理する必要がある。として、
   今年は日本の外交 手腕が試される年になるだろう。トランプ次期大統領や中 国の習近平(終身)国家主席のような強引な世界の指導者たちに対応しなければならな い。また、貿易摩擦、インフレ圧力、不安定な円相場の悪影響にも対処し なければならない。と説く。

   米国に関連して、二つの重大なリスクがある。トランプ関税は、特に日本から輸入する自 動車が標的となった場合、日本経済に打撃を与える可能性がある。またトランプノミクス が米国のインフレを再燃させれば、日本の消費者物価、金融政策、円相場に混乱を招く可 能性がある。また日本にとって、「米中決裂」も深刻な懸念材料だ。中国と米 国は日本の最大の貿易相手国であり、米国と中国の関係が悪化すれば日本も巻き添えを食 う可能性が高い。と言う。

   米国は日本にとって最も重要なパートナーで、これほど緊密な関係にある国は他にな く、その米国への依存こそが、リスクNo. 4「トランプノミクス」を2025年の日本 にとっての最大のリスクとする理由だ。貿易に関してトランプを動かすものは二つ、関税への愛と、貿易赤字への憎悪だが、米国の対日貿易赤字は長年にわたり年700 億ドル前後で推移し、赤字のほとんどは日本からの自動車輸入が原因だ。この対日貿易赤字もトランプの 貿易ターゲットのリストに載る。
   しかし、トランプノミクスは日本にとって関税リスク以上のものをもたらす。日本の 消費者物価、金融政策、円相場も影響を受ける可能性がある。トランプの政策が米国 のインフレを再燃させて円安が進み、日本のインフレ率上昇につながる場合、日銀の 金融政策正常化の計画に影響を及ぼすことになる。
   
   リスクNo. 2「トランプの支配」のリスクは米国でビジネスを行う日本企業だけでなく、石破茂首 相にも重くのしかかる。 次期大統 領による恣意的な決定、例えば在日米軍駐留経費負担の大幅な増額要求などから石破 を守るものではないが、石破にはトランプに対していくつかの切り札がある。日本は 米国への海外直接投資額で5年連続トップであり、トランプはこの状態を維持したい と考えている。また、トランプの側近たちは、戦略上の最優先事項である中国への対 応を効果的に行うには日本の支援が必要であることをトランプに思い出させるだ ろう。

   米国に次いで、日本に影響力があるのは中国だ。日本経済の健全性は中国経済に大き く依存しているため、リスクNo. 3 「米中決裂」が日本にとっての懸念事項のリ ストの上位となる。トランプが大統領に返り咲けば、中国との関係における脆弱な安 定は崩れるだろう。彼は就任後すぐに中国に対して大幅な関税を課す可能性が高い。 また、日本などの主要な同盟国や貿易相手国が、国家安全保障関連の対中輸出規制の 拡大で米国に同調することを期待しており、それは日本の経済に多大なコストを強い る可能性がある。さらに、米中関係の崩壊はグローバルなサプライチェーンを混乱さ せ、日本企業を含む世界中の企業は貿易の流れを再構築することを余儀なくされてコ ストが増加する。

   リスクNo. 10「米国とメキシコの対立」は、移民、麻薬、貿易をめぐる米国とメキシ コの関係における火種に焦点を当てているが、日本との関連も大きい。トラ ンプの最大の不満は、中国が米国への商品販売の裏口としてメキシコを利用している ことだ。日本の自動車メーカーは米国への輸出拠点としてメキシコで製造工場を運営 しており、この問題に巻き込まれるリスクがある。米国におけるメキシコからの輸入 品に対する関税引き上げや原産地規則の厳格化が行われれば、日本の自動車メーカー とサプライヤーに直接的な影響を与えることになる。  

   トランプをリーダーとする米国は、リスクNo.1「深まるGZERO世界の混迷」で述 べられているように、世界的なリーダーシップを発揮することを望まないだろう。日 本は、米国が長年担ってきた「世界の警察官」や「自由貿易の擁護者」という役割を 放棄することを望んでいない。これらの役割は、米国に何十年にもわたって平和と繁 栄をもたらしてきた。米国は日本が望むようなリーダーシップの行使には抵抗するだ ろう。米国は依然として、敵対者たちよりも強い。中国はここ数十年で最悪の経済危機 に苦しんでおり、ロシアは深刻な衰退に陥り、イランは存亡の機にある。これらはす べて、チームUSAの一員である日本に有利に働く。

     島国である日本は天然資源に恵まれず、エネルギーの輸入に依 存しているため常に危険にさらされている。この脆弱性のため、リ スクNo.5「ならず者国家のままのロシア」とNo.6「追い詰められたイラン」が日本 のエネルギー安全保障にとって重要なリスクとなる。日本は世界第2位のLNG輸入 国であり、G7による制裁があるにもかかわらず、依然としてLNGの9%をロシアか ら輸入しているが、政治的な現実によ り、日本はロシアのLNGへの依存を低下せざるを得なくなり、他の潜在的な供給源 (アラスカやカナダ西部など)を検討することになるだろう。 
   日本は原油も90%を中東から輸入しており、2024年の原油価格の低迷から恩恵を受 けている。米国とイランの対立が拡大し、原油価格が上昇する事態は望んでおらず、特に、イランが報復 として地域のエネルギーインフラを攻撃したり、ホルムズ海峡を封鎖したりした場合 にその懸念は高まる。

   民放テレビで、日本としてどのようにトランプに対応すれば良いかと聞かれて、ブレマーは、悪目立ちしないようにして、単独行動を避けて同盟国などと連携して当たること、適当な妥協は必要だが、基本的に大切な事項は妥協すべきではないと答えていた。
   確たる思想も哲学もないトランプの行き当たりばったりの政策に、真面に対応しておれば振り回されるだけであるから、目立った対応は避けて、流れに乗って、臨機応変に賢く立ち回れということであろうか。

   トランプの2度目の大統領就任は、民主主義を窮地に追い込み、外交政策の混乱を招き国際秩序を破壊する。 そんな心配はないであろうか。
   1 期目における絶え間ない衝突と予測不可能性が倍増し、米国の同盟関係に緊張をもたらし て弱体化させ、世界における米国の影響力や地位を低下させ、平和を促進してきた国際機関を弱体化させ、世界的な紛争 の可能性を高めるなど、長期的には、地政学的な不安定性を高め、Gゼ ロの世界を進行させ、世界をより危険な 場所にするだろう。とも予言する。
   興味深いのは、 しかし序盤戦では、トランプが得点を重ねる可能性があるので注意すべきだ。という付言である。  行きはよいよい帰りは恐い、ことに大衆は気付かないかもしれない。
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NHK:人新生の地球に生きる

2025年01月11日 | 政治・経済・社会
   NHKのBSスペシャル
   人新世の地球に生きる 〜経済思想家・斎藤幸平 脱成長への葛藤〜を見た。
  
   人類の経済活動が地球環境に深刻な影響を与える「人新世」の時代、 経済思想家、斎藤幸平が、ドイツや北米を訪ねながら、新たな生き方を探す思索の旅。 「人新世」の時代、私たちはどう生きていくのか‥マルクスの「資本論」に新たな光を与えて、“脱成長”を提言し、今、彼は、自らの思想をどう実践に結びつけていくか、悩んでいる。若き思想家が、ドイツの環境運動の最前線や北米の先住民族を訪ね、対話を重ねながら、新たな生き方を探す思索の旅を追った。番組である。

   斎藤准教授は、一世を風靡した「人新生の資本論」の著者だが、まだ読んでいないし、NHK100分de名著カール・マルクス「資本論」を見たくらいで、よく知らなくて、2022年1月の日経の「民主主義、気候変動でも試練」という論文 を読んで、「脱成長コミュニズム、脱成長共産主義」 に疑問を呈した。計画的なコミュニズムをイメージするならば、ソ連や冷戦以前の共産主義社会は例外としても、中国などの今様共産主義国家を考えるしかないが、人権など文化文明にとって最も重要な公序良俗を軽視する専制国家であって、理想的な社会だとは思えない。 としたのである。

   しかし、NHK放映の番組では、コミュニズムについては、ヨーロッパで生まれ育まれてきた原初のコミュニティと言うか民主的な共同体コモンを意図しているようで中国型のような国家主体のコミュニズムではなさそうである。
   また、NHKのマルクス講座でも、資本主義の構造的矛盾について論じた主題に加えて、マルクスが晩年に遺した自然科学研究、共同体研究の草稿類も参照し、パンデミックや気候変動といった地球規模の環境危機をふまえ、いまこそ必要なエコロジー・脱成長の視点から 社会変革に向けた実践の書として『資本論』をとらえ直す、まったく新しいマルクス論を展開している。
   経済成長について、今回感じたのは、「脱成長」と言う言葉が、反経済成長論者として誤解を招いていることである。自然環境を破壊して遂行する大量生産大量消費のエコシステムを無視した経済成長を非難しているのであって、スケールダウンやスローダウンは意図しているが決して成長を否定しているのではないと言うことである。

   次の写真がフンボルト大学のエントランスロビーの2階へ上る階段の踊り場壁面のマルクスの言葉である。
   哲学者たちは世界をさまざまに解釈してきた
   肝心なのはそれを変革することである

   斎藤准教授は、要するに資本主義がだめならどう変えて行くかなど、理論と実践の問題であって、これをどうやって21世紀に、もう一回発展させたり継承してゆくか、自分の中での学問的なミッションみたいな気持ちで勉強している。と言う。

   ベルリンの壁崩壊直後に、東ベルリンに入ってフンボルト大学に行って、この壁面を見たはずだが、記憶は全くない。
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民主主義は経済成長の結果であろうか

2025年01月09日 | 政治・経済・社会
   先に引用した岩井克人教授の論考で、教えられたのは、迂闊にも知らなかったシーモア・リプセットの「豊かな国ほど民主主義を維持できる可能性が高い」と言う説である。
   Wikipediaの英語版で、この部分を引用すると、
   リプセットの「民主主義の社会的要件: 経済発展と政治的正当性」は、近代化理論、民主化に関する重要な著作であり、ここで、経済発展が民主主義につながるという「リプセット仮説」を立てた。
   リプセットは「近代化理論」の最初の提唱者の 1 人であり、民主主義は経済成長の直接的な結果であり、「国が裕福であればあるほど、民主主義を維持する可能性が高くなる」と述べている。 リプセットの近代化理論は、民主主義への移行に関する学術的な議論や研究において、引き続き重要な要素となっている。

   私が注目しているのは、これまで何度も書いてきたが、国家経済が成長発展して成熟の段階に達しなければ、民主主義制度を確立することも維持することも不可能である。と言うことで、このことが論証されたことである。
   成熟経済国家になった欧米先進国には民主主義が定着しており、日本を追いかけて雁行成長で離陸した東南アジアの台湾、香港、韓国、シンガポールなどもそのケースである。
   一方、民主主義政治体制を取りながら、中所得や低所得の新興国に留まっている国、例えばインドなどは、まだ、民主主義もどきと言った段階であろうか。

   欧米先進国の識者たちは、驚異的な経済成長を遂げて大国へと驀進した中国に対して、民主主義国家への脱皮を期待したが、ロシアと共に、西欧型民主主義を否定して、専制主義的独裁国家に変貌して、違った発展経路を打ち立てた。
   本来の民主主義体制を構築するためには、ウォルト・ロストウの経済発展段階説を昇りつめて離陸するために、大変な努力と時間を費やして経済発展を遂げなければならなかった。
   しかし、今日では、知識情報化社会でノウハウが拡散し、かつグローバル経済世界で多くの成長発展の先例が生まれて、そのショートカット方式を採用して、中国やロシアのように専制主義国家体制を取って、独裁的に、経済の成長発展を策した方が、手っ取り早く実現可能となった。
   多くの発展途上国がこれに倣って、七面倒な自由や人権やと言った問題に悩まされることなく、発展を遂げられるので、欧米よりの民主主義国家がどんどん減って行くのは、歴史の当然の帰結である。

   したがって、前述のリプセット仮説は、欧米先進国型の民主主義と経済成長の直接的な結果を述べているのであって、現下では、欧米型の「国が裕福であればあるほど、民主主義を維持する可能性が高くなる」国もあれば、国の富裕貧困に拘わらず、従来の民主主義には縁のない国が多くなってきた、
   民主主義(?)の変質と言うべきか、全く異なった政治経済社会体制が形成されつつあると言うことである。

   ところで、トランプアメリカの民主主義の危機はどう見るべきなのか、
   「国が裕福であればあるほど、民主主義を維持する可能性が高くなる」と言うのだが、その豊かなアメリカが、民主主義の最大の危機に直面している。
   ディストロイヤー・トランプが、民主主義を破壊すると豪語している(?)のである。
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日本の民主主義の使命とレジリエンス

2025年01月08日 | 政治・経済・社会
   6日の日経に、岩井克人教授の「日本の世界的使命は何か」と言う興味深い論文が掲載されていた。
   これまで、資本主義や貨幣、法人について研究してきて、今後も続けられることが当然と考えてきたが、ここ数年、自分の足元が崩れつつあるという気がしている。「歴史の終わり」から説き起こして、現下の国際情勢の惨状を分析し、自由に基づく近代的な民主主義の最も声高な提唱者であった米国の内側で、反逆が始まっている。として、民主主義と言う制度がいかに脆弱であるかが白日の下に晒された。と言う。

   今世界は大きく混乱しているのだが、その混乱の中で見えてきたのは、日本の国という使命だという。
   かっては世界支配からの東洋の開放こそ日本の世界史的使命であると唱えていたが、敗戦後、西洋から極東と呼ばれたこの島国で、戦後80年にわたって近代的な民主主義が曲がりなりにも機能してきた。自由がなくては思考ができないが、その自由を当たり前のこととして人間が好きに学問ができた。その事実が、近代的民主主義が西洋的な理念ではなく、洋の東西を問わない普遍的理念の証である。
   日本の世界的使命とは、どれだけ凡庸であろうとも、そのような社会であり続けること。そして、その事実を世界全体に向けて語り続けることにある。と説いている。

   もう一つ、日本の民主主義についての論考で興味深いのは、ニューズウィーク「2025年の世界を読む」特集号のトバイアス・ハリスの「日本政治のしなやかさは民主主義の希望となり得る」と言うコラムである。
   総選挙で大敗した自公政権と野党の意外な協調ムードが、日本の多党制民主主義に驚くべきレジリエンス(しなやかな強さ)があることを見せつけて、世界の模範になる。と言うのである。
   自民党主導の少数与党の政府が誕生しても国会が膠着せず、むしろ与野党がより柔軟な協調体制を見せるようになった。野党は、与党の動きに誠実に対応し、弱った自民党政権を潰そうとはせず、日本式「コビタシオン(保革共存)」のパートートナーとして振舞っている。
   トランプの政敵への復讐、韓国の尹大統領の非常戒厳宣告、フランスやドイツの政治の混乱等々他の民主主義国とはその違いは鮮明である。日本の現在の政局は、ポピュリズムの台頭や格差と貧困の拡大、SNSが煽るデマと偽情報の拡散に負けず、民主主義のレジリエンスを世界に見せつけるチャンスである。と言う。

   私も世界中を駆け回ってきて、日本の民主主義の有難さは肝に銘じているので、全く異存はない。
   さて、まず、今25年の日本は、このしなやかな多党制民主主義を発展させ得るのかどうか、そして、日本の安穏な民主主義社会を維持し続けていけるかどうかが問題であろう。
   いずれにしろ、トリプルレッドで白紙委任状を手にした今世紀最も恐怖の民主主義ディストロイヤーと目される独裁者トランプの強烈な破壊工作の挑戦を受けて、いかにして、日本が虎の子の民主主義を死守できるか、厳しい挑戦が待ち受けている。
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バイデン日鐵のUS Steel買収を拒否

2025年01月04日 | 政治・経済・社会
   バイデン米大統領は3日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの143億ドル(約2兆2500億円)規模の買収を阻止する考えを表明した。「何度も述べているように、鉄鋼生産や生産に携わる鉄鋼労働者は我が国の屋台骨だ」とコメントして、「国内で所有・運営される強力な鉄鋼産業は国家安全保障上の重要な優先事項であり、強じんなサプライチェーン(供給網)にとって不可欠となる」との認識を示し、安保への懸念を強調した。
   同盟国間の民間企業どうしが合意した買収を、米大統領が認めないのは極めて異例 であり、ワシントン・ポストによると、側近らがバイデン氏に対して、買収の阻止は今後の日米関係に悪影響を与えるとして翻意を求めたが、バイデン氏の考えは変わらなかったという。 
 
   しかし、米シンクタンクのハドソン研究所によると、USスチールの取引先は自動車や建設など民間部門が多く、国防関連先に鉄鋼を供給していない。また、国防総省が必要とする鉄鋼は米生産量の3%にとどまり、米鉄鋼業界は十分な生産量を確保できているという。  同研究所は、安さを武器に世界の鉄鋼市場の支配を強める中国に対抗する必要性を強調。同盟国の日本からの投資を受け入れれば、「米国の安全保障を強化するだろう」と指摘していた。と言う。

   このバイデン大統領の買収阻止の正式発表にたいして、USスチールのブリットCEOは、「バイデン大統領の行動は恥ずべきもので、腐敗している」としたうえで、「労働組合の幹部へ政治的な見返りを与えたが、それはUSスチールと社員の未来、国家の安全保障を損なうものだ」と批判した。 さらに「経済的にも安全保障のうえでも重要な同盟国である日本を侮辱し、アメリカの競争力を危険にさらしている。中国共産党の指導者たちは、小躍りして喜んでいるだろう」と指摘した。

   レイムダックで死期を迎えたバイデンの白鳥の歌ならず、最後の悪あがき、
   US Steelの今後が哀れだが、アメリカのレッドオーシャン製造業の晩鐘が聞こえてくる。

   US SteelのHPの表題ページは、口絵写真のままで変化なし
   NIPPON STEEL United States Steel
   MOVING FORWARD TOGETHER AS THE
   BEST STEELMAKER
   WITH WORLD‐LEADING CAPABILITIES

   日鐵とUS Steelの理路整然とした声明がすべてを語っているので、今回は蛇足を避けて、
   日テレ記事からの引用にとどめる。
   【日本製鉄とUSスチールによる共同声明全文】
日本製鉄とUSスチールは、バイデン大統領が、本買収に対して禁止命令を決定したことに失望しています。この決定は、バイデン大統領の政治的な思惑のためになされたものであり、米国憲法上の適正手続き及び対米外国投資委員会(以下、CFIUS)を規律する法令に明らかに違反しています。大統領の声明と禁止命令は、国家安全保障問題に関する確かな証拠を提示しておらず、今回の決定が明らかに政治的な判断であることを示しています。バイデン大統領の決定を受けて、日本製鉄とUSスチールは、法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する所存です。
日本製鉄とUSスチールは、本買収により、ペンシルバニア州やインディアナ州をはじめとする米国鉄鋼業がある地域が再び活性化し、米国の鉄鋼労働者の雇用確保、米国の鉄鋼サプライチェーンの強靭化、米国鉄鋼業の中国に対する競争力の強化、及び米国の国家安全保障の強化につながるものと確信しています。日本製鉄は、USスチールが事業を行う地域コミュニティ及び米国鉄鋼業界全体に利益をもたらすため、米国の象徴的な企業としてのUSスチールを支え、成長させるために必要な投資を行うことができる唯一のパートナーです。日本製鉄は、既にコミットしている27億ドルの投資の一環として、ペンシルバニア州モンバレー製鉄所に少なくとも10億ドル、インディアナ州ゲイリー製鉄所に約3億ドルの投資を行うことを決定しています。本買収を禁止することは、USスチールの設備を長期間にわたり稼働させるために必要な27億ドルの投資が実行されないことを意味し、良好な処遇条件で家族を養う何千もの労働組合員の仕事が危機に晒されることになります。バイデン大統領による今回の買収禁止命令は、自身の政治的な思惑のために、米国鉄鋼労働者の未来を犠牲にすることに他ならないと考えます。また、USスチールの株主に対して、買収完了時に1株当たり55ドルを支払うとの約束を果たすべく、日本製鉄とUSスチールは、法的権利を守るためのあらゆる措置を講じてまいります。 
日本製鉄とUSスチールは、CFIUSの審査において、当初から、誠実かつ透明性をもって真摯に協議に応じてきました。CFIUSに提出された記録を見れば、日本製鉄によるコミットメントを伴う本買収は、米国の国家安全保障を弱体化させるのではなく、強化するものであることが明らかです。CFIUSの審査プロセスが、政治によって著しく適正さを欠いていたことは明白であり、その結論は、実質的な調査に基づかず、バイデン政権の政治的目的を満たすためにあらかじめ決定されたものでした。米国政府が、米国の利益につながる競争を活性化する本買収を拒否し、同盟国である日本国をこのように扱うことは衝撃的であり、非常に憂慮すべきことです。残念ながら、米国へ大規模な投資を検討しようとしている米国の同盟国を拠点とする全ての企業に対して、投資を控えさせる強いメッセージを送るものです。 
日本製鉄は、CFIUSの示した懸念に対応すべく、本買収完了後のUSスチールの取締役の過半数は米国籍とし、そのうち3名の独立取締役はCIFUSが承認すること、CEOやCFO等の重要職位は米国籍とすること、USスチールが提起する通商措置に日本製鉄は一切関与しないこと、生産や雇用を米国外へ移転しないこと、ペンシルベニア州、アーカンソー州、アラバマ州、インディアナ州、テキサス州にあるUSスチールの拠点の生産能力をCFIUSの承認なく10年間削減しないこと、国家安全保障協定(National Security Agreement)の遵守状況等をCFIUSに定期的に報告すること、CFIUSは取締役会にオブザーバーを派遣する権利を有すること等を含む、米国政府にとって完全に強制執行が可能な様々な問題解消措置を自主的に約束しました。しかしながら、CFIUSは、日本製鉄とUSスチールが100日間にも亘って、自主的に提示した4つの確固たる国家安全保障協定案に対して、書面によるフィードバックを全く行わなかったことから明らかであるように、両社が提案した問題解消措置のいずれについても適切に検討することはありませんでした。本日、バイデン大統領が決定を下したことに、日本製鉄とUSスチールは、深く失望しています。
日本製鉄とUSスチールは、本買収に際し、USスチールの従業員、地域コミュニティ、政府関係者、政治家、経済界をはじめ、米国および日本の様々なステークホルダーの皆様に多大なる協力と熱烈な賛同を頂いたことに感謝申し上げます。我々は、米国のステークホルダーの利益のために、米国で事業を遂行することを決して諦めません。日本製鉄とUSスチールのパートナーシップが、USスチール、特に全米鉄鋼労働組合との基本労働協約対象拠点をはじめとして、USスチールが将来にわたって競争力を保ち、発展し続けるための最善の方法であると確信しています。それらの未来を確かなものとするために、日本製鉄とUSスチールは、日米政府関係者を含むステークホルダーの皆様と引き続き緊密に連携し、法的権利を守るためのあらゆる措置を追求してまいります。
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アーサー・ラッファー「トランプは自由貿易主義者」

2025年01月03日 | 政治・経済・社会
  NHKの新春番組「NHKスペシャル 巻頭言2025 新・トランプ時代 混迷の世界はどこへ 」で、トランプの経済顧問であったラッファー教授が、トランプの貿易関税やインフレなどについて興味深い見解を述べていた。
   まず、冒頭、勲章を貰った所為でもなかろうが、トランプは、博識で教養があり正しい判断を下すと意表を突く発言で煙幕を張る。

   「MAGA」の権化のトランプが、自由貿易主義者だというラッファーの発言に違和感を覚えたのだが、まず、見解を示すと、
   何故、関税を引き上げようとするのかと言う質問に、日本人はトランプのユニークさを知らない、彼は自由貿易の交渉が好きなのだ、関税を課すぞと脅しているのは、各国に交渉のテーブルつかせるためである、関税はどちら側にも損害を与えて誰も得をしない、自由貿易はウィンウィンである、トランプは自由貿易の世界を本当に実現したいと思ている、実は、トランプは自由貿易を望んでいる、と言う。
   本当に日本に関税を課すのかついては、それは日本次第、自由貿易の交渉に日本が応じれば関税を課さない、ぜひ、関税のない自由貿易政策を結ぼう、日本は政府の保護政策が国民に損害を与えるを理解していない、勿論守るべき品目はあるだろうか最小限にとどめるべきで、保護主義を理由にすべてを守ってはいけない、と言う。
   

   至極尤ものように聞こえる見解だが、まず、アメリカの実体経済からは、逆立ちをしても、トランプが自由貿易を思考する余地はない。レーガン時代にラッファー・カーブで一世を風靡した経済学者の残影がトランプ時代到来に蘇ったというべきか、
   どう考えても、アメリカファーストで、同盟国は勿論、世界との連携、共存共栄に一顧だにしないトランプが、自由貿易の大切さ、その意味を理解しているとは思えないし、脳裏にある筈もない。
   国際競争力を喪失してポンコツになったラストベルトの産業を守るために、腹いせに関税を引き上げるような時代錯誤の姑息な政策を打ち出す単細胞。日鐵のUSスチール買収の拒否が決まったようだが、バイデンもトランプも、斜陽の極に達したアメリカの実力を全く知らず、外資を締め出し世界からの頭脳の流入を拒否し、高関税を課して貿易戦争を引き起こして国際経済を縮小して、結局返り血を浴びて窮地に泣くのはアメリカ。

   新トランプ時代の到来だが、混迷の世界は、どう動くのか、全く先が読めない。
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日経平均株価は4万円直前で年越し

2024年12月31日 | 政治・経済・社会
   2024年の株式市場も、今日の大納会で終了した。
   世界全体が大変な危機に見舞われた激動の1年であったが、終わってみると、次の新しい年の動向が気にかかる。

   大手証券会社の株価予測では、日経平均株価が年末には4万円と言うことであったが、未達ながらも年末最高値でほぼ達成間近で年を越しており、
   年度末には4万2000円、25年末には4万5000円にと上昇トレンドで推移するとしている。
   来る春闘次第だが、賃上げに期待して実質賃金がポジティブに上昇する可能性が高く、企業業績が上向きであり設備投資の拡大傾向がみられると言うことで、日本経済の活力の復活を予測する向きもあって、25年の経済予測はかなり楽観的である。
   したがって、株価も上昇傾向だと言うのだが、さて、どうであろうか。

   今年、私の株式投資に関して変わったことは、銀行株が値上がりしたので、20年以上も塩漬け株であった三井住友が水面上に上昇したので現金化して、これに、旧NISAで満期になった三井物産株の現金化を加えて、新NISAの成長株投資に振り向けたことであろうか。
   8月の大暴落前後に切り替えたのだが、鳴かず飛ばずで赤字続きであったが、やっと、年末になって、プラスマイナス均衡し始めて、5%ほどプラスになって年を越すことになった。
   微妙な時期ながら、自動車株や鉄鋼株、それに商社株なので、先行き不透明で浮沈が激しいとは思ったが、長期保有のつもりなので、株価の変動にはあまり気にする必要はないと思っている。
   時流に乗った注目株や成長株には興味がない。興味がないと言うより、分からないと言うことであり、また、調べたいと思わないし、結局、この会社が傾くようでは日本も終りだという会社の株になる。

   いずれにしろ、私の株のポートフォリオは、やっと、プラスマイナスとんとんになった。
   来年は、また、沈むかもしれないが、成り行き任せである。

   確たる思想も哲学もないと言われるトランプ2.0がスタートすれば、何が起こるか分からない。
   行き当たりばったりの創造的破壊(?)が、吉と出るか凶と出るか、世界秩序が大転換する予感が新鮮でもある。
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日本の1人あたりGDP、世界22位

2024年12月25日 | 政治・経済・社会
   朝日新聞レジタルが、「日本の1人あたりGDP、世界22位 円安や高齢化影響、韓国下回る」と報じた。

   内閣府は23日、2023年の国民1人あたりの名目国内総生産(GDP)は米ドル換算で前年比0.8%減の3万3849ドルとなり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中22位だったと発表した。21位の韓国(3万5563ドル)を下回り、22年も1人あたりGDPで日本を上回っていたことが判明した。OECD加盟国の順位で韓国に抜かれたのは初めてだった。と言う。
   国民1人あたりGDPは、石破茂首相が就任後初の所信表明演説で「増加」を掲げるなど、政権が重視する指標の一つだが、日本の順位は00年の2位をピークに下落の傾向が続く。22年はイタリアに抜かれ、14年ぶりにG7で最下位に転落した。
   専門家の「円安や日本企業の競争力の衰えだけでなく、高齢化が進んで1人あたりの稼ぐ力が低下したことも大きい」との分析を紹介し、
 名目GDPは物価の変動分も反映されるため、日本も円ベースの金額は物価高もあって増えたが、円安が進んだことで、ドル換算時の目減りの影響のほうが大きくなった。と言う。

   韓国に抜かれたことは、既に、このブログの22年1月の記事で、日刊SPA!が、”韓国に追い抜かれる日本。平均賃金や一人当たり実質GDPも…韓国人の本音は?”を引用して報じている。
   GDPの国際比較は、購買力平価だと比較的現実的だが、通常の米ドル評価では、為替レートが大きく関わるので、今日のように極端な円安の場合には、日本の順位が大きく下がる。今現在1ドル156円くらいだが、円高の時には1ドル80円を切っていた頃もあった筈で、倍近くで雲泥の差である。

   問題は、そんなことではなく、日本経済が失われた30年間、GDPが、500兆円台に止まって、殆ど実質的に成長しなかったことで、人口減でありながら、一人当たりのGDP成長も果々しくなく、足踏みしておれば追い抜かれるのは自明の理である。

   なぜ、日本経済が成長から見放されてしまったのか、何度もこのブログで書き続けてきた。
   経済成長の原動力たる日本企業の労働生産性が、先進国で最下位であり目も当てられない位低いことが元凶である。
   経済成長要因は、「全要素生産性の上昇、労働の増加、資本の増加」の3要素だが、日本の場合、人口増は少子高齢化でマイナス要因であり、投資も低迷しているので、経済成長のためには、全要素生産性の上昇アップ、すなわち、技術革新・規模の経済性・経営革新・労働能力の伸長・生産効率改善など幅広い分野の技術進歩が必須要件である。
   特に、少子高齢化で、移民を活用しない限り、労働人口減が急速に進み経済成長の足を引っ張るので、全要素生産性上昇率と資本装備率の上昇で労働生産性を上げて国際競争力を涵養して経済の質を向上させることが重要である。のだが、このエンジンが一向に始動しない。

   何故か。
   日本の経済政策の問題は、競争を喚起して積極的な企業の参入・退出を図らずに、特に、競争力をなくしたゾンビ企業を温存させる愚をおかし続けてきたこと、この企業の新陳代謝を促してイノベイティブな新規参入を促進できなかったことが、日本の生産性上昇率の低迷や国際競争力の低下の最大の原因になってきた。
   既得利権を死守する時代離れした旧態依然たる経済体制を抜本改革して、無用な民間企業への過度なセーフティーネットやサポートを取り外すなど、ゾンビ維持体制を駆逐すべきである。  
   シュンペーターの説いた創造的破壊者をどんどん生み出せるような経済社会を醸成すること、これしか生きる道はない。

   経済は成熟老成化して成長力を失い、平安無事でそこそこの生活水準に満足して、もういいかと、太平天国を決め込んで、活力も敢闘精神もなくした国民心理が恐ろしい。
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激動の世界で平安な幸せが如何に貴重か

2024年12月15日 | 政治・経済・社会
   朝起きると、インターネットを立ち上げ、日経を開き、テレビを見るのだが、悲惨な世界情勢の報道が後を絶たず、益々酷くなっていて、胸が痛む。
   ウクライナ戦争からパレスチナイスラエル戦争、これに、シリアのアサド政権の崩壊が加わって中東が一気に混沌としてきた。
   さらに、平穏であった韓国も揺れ始めた。
   来年から始動するトランプ政権が、アメリカのみならず、ヨーロッパの政治経済社会を再編成するであろうし、
   欧米先進国と中露専制国家との軋轢対立の激化、新興中進大国の台頭など、国際情勢が不透明になってきた。

   一番文化文明が発展して頂点に達している筈の今日の人類社会において、信じられないようなバンダリズムが跋扈しており、
   まだ、第3次世界大戦の兆候の足音は遠いが、いつどこかの火薬庫が爆発して大惨事を引き起こして宇宙船地球号を窮地に追い詰めるかも知れない。

   それに比べれば、対岸の火事とは言いながら、わが日本は、如何に平和で平安無事であるのか。
   5歳で終戦を迎えたので、第二次世界大戦の悲惨さを微かに覚えている。
   防空警報が鳴ると頭巾をかぶって防空壕に逃げ込む。西宮に居たので、毎夜、大阪と神戸方面の夜空は空襲で赤く染まっていた。ある日、梅田に出た時には、焼け爛れて廃墟と化した大阪駅前の惨状を見て脳裏に焼き付いている。米軍機に撃墜された日本の戦闘機の破片が、銀紙のように輝きながら舞い落ちてきた。空襲が激しくなったので、隣の宝塚に移転して、しばらくして西宮に帰ったら、家の周りは跡形もなく焼失してしまっていた。
   思い出したくない。

   随分経ってから、アメリカへ留学してMBA教育を受けたので一宿一飯の恩義は感じているが、広島長崎への原爆投下や悲惨な常軌を逸した爆撃など許せないので、アメリカに対しては愛憎半ばで複雑な気持ちである。
   さて、アメリカなど連合国による戦後処理が幸いしたのか、日本は民主主義、資本主義の恩恵を受けることとなって、今日に至っている。

   幸いと言うか、少数与党となったお陰で自民独走が解消して少数者の見解も考慮される雰囲気が生まれて、政治の風通しも良くなった。
   103万円の壁が喫緊の課題、
   年明けには、日経平均株価が4万円越えだという。
   日本は殆ど無風状態で、中ぐらいの幸せ感であろうか、
   太平天国を決め込んで新春を迎えようとしている。

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IMF世界経済見通し2025年

2024年12月07日 | 政治・経済・社会
   IMFは、2024年10月に、「政策の転換、高まる脅威」として、「世界経済見通し」を発表し、「世界経済の成長は、今後も安定し続けることが見込まれるものの、勢いが欠けそうだ」と報じた。
   2024年と2025 年はともに、成長率が3.2%となる予想だ。これら予 測値は、2024年4月の「世界経済見通し(WEO)」お よび2024年7月の同改訂版から実質、変わりない。 しかし、水面下では大きな変化が見られる。今般、欧 州の大国諸国を中心に、先進国の成長率予測が下 方改定された。一方で、こうした下降分を相殺するか たちで、米国の予測値が上方改定された。新興市場 国・発展途上国についても同様に、石油を中心とし た一次産品の生産・供給の寸断、紛争、社会情勢不 安、異常気象現象にともなって、中東・中央アジアと サブサハラアフリカの成長率予測値が引き下げられ た。一方で、アジア新興市場国の見通しは上方改定 され、中東・中央アジアとサブサハラアフリカの下方 改定分を相殺している。アジア新興市場国では、人 工知能への大規模投資によって半導体や電子機器 に対する需要が急増しており、成長が促進されてい る。世界経済の5年後の成長率は、最新予測で3.1% と見込まれており、パンデミック前の平均値と比べる と依然さえない数字だ。高齢化や生産性の低迷など 構造的な逆風が根強く残り、多くの国で潜在成長率 が 抑 制 さ れ て い る 。と言うのである。 

   インフレについては、
   主要経済国では、年初と比較して、循環的な不均 衡が緩和しており、潜在GDPと経済活動が前より一 致している。この変化によって、各国の物価上昇率が 収斂しつつあり、総じて、世界のインフレの減速に貢 献してきた。世界の総合物価上昇率は、年間平均値 が2023年の6.7%から2024年は5.8%、2025年は 4.3%へと低下していくことが予想されている。インフ レ率の物価目標への回帰は、新興市場国・発展途上 国よりも先進国で早く達成されることになるだろう。 ベースラインと概ね合致するかたちでディスインフレ が世界的に進行していく中でも、物価安定への道が 平坦ではない可能性がまだある。財の価格は安定し たが、サービス価格は今も、多くの地域で高止まりし ている。この点を踏まえると、部門別の力学を理解し たり、金融政策を適切に調整したりすることの重要 性が窺える 。

   また、構造改革について、
   世界が低成長や人口動態の変化、グリーン経済への移行・技術的移行に関連する課題に取り組む中で、構造改革が急務となっている。しかし近年、改革の取り組みは、強まる市民の抵抗を前に後退しつつある。構造改革の社会的受容性を詳しく掘り下げ、世間の態度の原動力や、支援を拡大するさまざまな戦略の有効性を調査した結果、市民の抵抗は経済的な自己利益よりも、認識、誤情報、そして信頼の欠如にしばしば原因があることが明らかになったので、改革の必要性に関する意識の喚起や、政策の仕組みに関する誤解の是正といった情報戦略が大衆の支持を促進する必要がある。効果的な戦略は、信頼を育む強固な制度的枠組みや、関係者と一般市民による双方向の対話で補完するべきである。 
   

   以上が、IMF報告の要旨であり、参考として利用できる。
   新春に、イアン・ブレマーが、どのような「世界10大リスク」を発表するか楽しみである。

   さて、この予測を踏まえて、かんべえ(吉崎 達彦)が、「2025年はトランプ構文がわかれば意外に怖くない 3つの視点で来年の世界経済を展望してみよう」と論評しているのだが、私が気になったのは、
   エド・ハイマン氏は2017年3月のレポートでこんなことを書いていた。
「トランプの成長戦略には3つのチャネルがある。①Fiscal Stimulus(財政刺激策)、②Deregulation(規制緩和)、③Animal Spirits(アニマル・スピリッツ)――楽観度の平均、つまり消費者、住宅建設業者、中小企業、CEO のアニマル・スピリッツは過去最高レベルに達している」。と言う点。
   このアニマルスピリットである。

   アニマルスピリット(デジタル大辞典)は、ケインズが、「雇傭・利子および貨幣の一般理論」のなかで使用した用語。経済活動の多くは合理的動機に基づいて行われるが、その一方で、将来の収益を期待して事業を拡大しようとする、合理的には説明できない不確定な心理によって左右されるとし、その心理をいったもの。「血気」「野心的意欲」「動物的な衝動」などと訳される。
   ジョージ=アカロフとロバート=シラーは2009年に発表した共著「アニマルスピリット」の中で、人の心理が世界金融危機に及ぼした影響を分析し、アニマルスピリットを取り込んだマクロ経済学の必要性を説いている。

   アニマルスピリットについては、これまでにも何度も書いてきたので、説明は省略するが、
   シュンペーターの「創造的破壊」の原動力であり「イノベーション」を誘発する。巨大な機動力で炸裂すれば、旧体制を破壊して、政治経済社会の世界を、一気に、革命的に変革する。

   トランプ自身のアニマルスピリットがどのようなものか分からないが、問題は、今や世界最大のアニマルスピリットの体現者であり稀有な創造的破壊者のイーロン・マスクの巨大ダイナマイトの炸裂が、どれほど強烈なものかと言うことで、大いに見ものである。
   これ以上望むべくもないほどの創造的破壊者なので、秩序破壊的なマイナス要因を引き起こして、政治経済社会を混乱に陥れるかも知れない。
   しかし、これまで、アメリカの歴史では、有効なカウンターベイリング・パワーが働いて、窮地を救って、健全なアメリカ社会を維持してきている。
   アメリカの良心が働いて、素晴らしい創造的破壊を発揮することを祈りたい。

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