日鉄が買収しようとしているUSスチールは、世界を制覇していた頃のアメリカ経済の最高峰のシンボル企業であり、アメリカ資本主義の命そのものであった。
そのUSスチールが落ちぶれて、日本企業に買収されようとしているのだから、腐っても鯛は鯛、
墓穴を掘っても、誇り高きアメリカ国民にとっては耐え難い。
米大統領が、日鉄の買収阻止へ最終調整に入り、統合話が消える公算が高くなり、これに対してUSスチールが反発というニュースが日米のメディアの話題になっている。
買収計画には、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対していて、11月の米大統領選を控え民主党候補のハリス米副大統領は2日、USスチールについて「米国内で所有、運営されるべきだ」と述べ買収に反対の姿勢を示し、トランプ前大統領も再選すれば買収を阻止すると明言している。
買収は対米外国投資委員会(CFIUS)が審査していて、CFIUSが日鉄に対し安全保障上の懸念があると伝えたと言うことで、バイデンはCFIUSの勧告に基づき、買収を禁止する行政命令を出すとみられている。
それを受けて、USスチールのデービッド・ブリットCEOは、日本製鉄による買収が不成立なら、製鉄所を閉鎖することになり、本社をピッツバーグから移転する可能性も高いと米紙ウォールストリート・ジャーナルに語った。ブリット氏はインタビューで、日鉄はUSスチールの老朽化した製鉄所に約30億ドル(約4300億円)の投資を約束しており、それが競争力を保ち雇用を維持する上で不可欠だが、日鉄買収が不成立に終わるなら、それは実現されない。と述べたという。
さて、USスチールの情報を知ろうと、HPを開いたら、日本製鐵とUSスチールのロゴが横並びで表示されて、口絵写真の真ん中に、次の表示のみ、
MOVING FORWARD TOGETHER AS THEBEST STEELMAKERWITH WORLD-LEADING CAPABILITIES
LEARN MORE をクリックすると、
Nippon Steel Corporation + U. S. Steel
Moving Forward Together as the ‘Best Steelmaker with World-Leading Capabilities’
Nippon Steel Announces Transformative Investments at U. S. Steel's Mon Valley Works and Gary Works
日鉄の投資提案を提示し、加えて、
The Steel CityとStandard Steel’s Comebackとの短い動画で明るい未来を描く。
HPには、2社の統合に関する情報以外に記事はない。統合によって、USスチールの未来が如何に明るく起死回生を図れるかのオンパレードである。
USスチールにとっては、日本製鐵との統合以外には眼中になく、破談すればその未来はないと思っている。
詳細は省くが、既に、USスチールの命運はほとんど尽きており、日本製鐵との統合がだめになれば、衰退の一途を辿るだけで、反対する労働者の生きる道もなくなってしまうのに。と思っている。
なぜ、買収反対がアメリカにとって愚の骨頂かは、2月22日のこのブログで、プロジェクト・シンジケートの論文アン・O・クルーガー 「 アメリカの鉄鋼狂気 America's steel madness」を紹介したので、一部引用する。
バイデンは、3つの主要な経済政策目標を定めている。外国直接投資の奨励などにより「良い仕事」の数を増やす。 米国の製造と現地生産を強化する。 そして最新テクノロジーの導入を加速する。 バイデンはまた、より多くの貿易、特に重要な物品の輸入を米国の同盟国に振り向けること、いわゆるフレンドショアリングを目指している。
この鉄鋼合併はこれらすべての目標を前進させると同時に、米国の主要同盟国との関係を強化する可能性がある。
日本製鉄による 買収とそれに伴う技術の向上により、US スチールの衰退は逆転するはずである。 取引条件は、この買収により米国の鉄鋼業界の生産性が向上する可能性が高いことを意味している。 米国の鉄鋼価格が下落すると、鉄鋼を輸入するインセンティブが低下し、冷蔵庫や自動車などの製品を製造する米国のメーカーはコストを削減できるため、競争力が高まるだろう。 これらすべてが米国の製造業と技術基盤を強化し、米国での「良い仕事」の継続的な提供、そして可能性のある創出を確実にするであろう。
US スチールの運命を逆転させ、アメリカの鉄鋼産業の見通しを改善する本当の機会を意味するこの出来事を歓迎すべ きであって、このチャンスをミスるのは、America's steel madness正気の沙汰とは思えない。 と言うことである。
日鉄はUSWに譲歩案として、少なくとも、現行の労働協約が失効するまでは従業員のレイオフ(一時解雇)、工場閉鎖は実施しないとも公約したのだが、この公約を「空約束」として、USWは首を縦に振らない。しかし、このまま、衰退して解雇されるよりは、USスチールが技術革新によって生産性が向上して起死回生すれば、雇用機会も増え労働条件も良くなると考えるべきであろう。
選挙ともなれば、「アメリカファースト」も色あせてしまって、金の卵を殺すのも知らずに、労働者票を取りたいばっかりに、定見も知見も欠如したUSWにすり寄る悲しさ、
トランプは勿論、ハリスも。
日鉄のUSスチール買収反対は、アメリカ製造業凋落の象徴ともいうべき現象で、葬送行進曲の序章がかすかに聞こえてくる、と言えば言いすぎであろうか。
米鉄鋼メーカー、クリーブランド・クリフスが買収合併に動いているようだが、斜陽の弱者同士の統合は死期を早めるだけ、
アメリカ政府が、国内企業の統合だけで危機を乗り切ろうとするのなら、先は見えている。