横浜市で開かれた国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会で、地球温暖化に関する最新の報告として、地球温暖化は「すべての大陸と海洋で影響を与えている」と強調、温暖化のリスクとして、熱波による死者や病気の増加など、海面上昇や高潮による被害で移住を迫られる住民の増加や大都市での洪水のリスクの上昇、気温上昇や干ばつによる穀物生産への影響が大きいと考えられるリスク等を明示し、世界経済への損失については「収入の0.2~2.0%」との推計結果を盛り込むなど警鐘を鳴らしている。
ところで、先日、ブックレビューしたマット・リドレーの「繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史」では、本のタイトル「Rational Optimist 合理的楽観主義者」の面目躍如で、人類の歴史は、紆余曲折はあっても、進歩と繁栄であるから、地球温暖化や気候変動などによる悲劇は、クリアできると説かれている。
この本が、総ての悲観主義を論破すべく論陣を張った、FTのベスト・ビジネス本で、英米でも脚光を浴びたベストセラー だと言うから、私など、IPCCの見解の方が正しいと思っており、人類の終末論が見え隠れする悲観論に偏っている方なので、どう考えたらよいのか(何故、この本を識者が高く評価するのか)、非常に疑問でもあり悩むところである。
この本では、リドレー流に個々の事例毎に、詳しく反論を展開しているのだが、詳論は避けて、リドレーの結論だけに絞れば、ローマクラブの「成長の限界」も、マルサスも、テクノロジーの変化の速度と大きさ、すなわち、世界を再配列する一連の新しいレシピを過小評価しているからで、
地球上に残された石油の量、世界の農場総てを合わせた生産能力、更には、生物圏の回復能力ですら、固定された数字ではない。それは、人間の発明の才と自然の制約が絶間なく相互に働きかけることによって生成される、動的な変数なのだ。と言うことである。
石炭がなければ、イギリスで産業革命が起こらなかったし、人類の繁栄に対する電気の貢献はいくら強調しても足りないし、20世紀の繁栄は石油が支えてきたのだが、これら化石燃料を活用したエネルギー技術の進化発展のお蔭で、地表の多くが産業化から免れて、自然環境がより自然のままに維持保全されてきたのだ。と言う逆転の発想とも言うべきリドレーの見解が、非常に興味深い。
アメリカの人口3億人に現在の需要エネルギーを供給しようと思えば、再生可能エネルギーなら、
スペインの広さのソーラパネル
または、カザフスタンの広さの風力発電基地
または、インドとパキスタンの広さの森林
または、・・・ 必要だが、
実際は、一連の火力・原子力発電と一握りの製油所および天然ガスパイプラインが、ほぼすべての現在アメリカ人のエネルギーを供給している。と言うのである。
土地をむさぼり食うモンスターのような再生可能エネルギーを、「地球に優しい」だの、人道的だの、クリーンだのと呼ぶのは、奇妙だとまで言う。
FUKUSHIMAの原発事故で、一気に、反原子力発電への運動が加速し、地球温暖化への対応で、化石燃料への依存から脱却するために、再生可能エネルギーへの期待が大きいのだが、リドレーの言うように、風力発電機が海岸線の景観を害し、ソーラーパネルが広大な面積の地表を覆い、食糧用の農地を圧迫してエタノール用の農地が拡大し、・・・等々、確かに地球環境に負荷をかけつつあることは事実であろう。
しかし、善意に解釈すれば、あるいは、イノベーションに全幅の信頼を置くリドレー説に従えば、いずれは、再生可能エネルギー産出へのイノベーションが生み出されることによって解決可能である筈である。
余談だが、アベノミクスがどうかと言うことは別にして、景気は、「気」のものである要素が強く、経済は感情で動くとする行動経済学が説く如く、長い間停滞していた日本経済が、日本人の気持ちが上向き加減に向き始めた所為もあって、少しずつ、上昇気流に乗りつつあるような気がしている。
リドレー説は、謂わば、元気印の未来の預言書、悲観論ではなく、無理にでも、前向きに、人類の未来を展望したいものである。
(追記)
このリドレーの「繁栄」だが、下記の書評の如く、楽観論に終始しているが、非常に示唆に富んだ貴重な本で、一読に値すると思う。
“A fast-moving, intelligent description of why human life has so consistently improved over the course of history, and a wonderful overview of how human civilizations move forward.” (John Tierney, New York Times)
“The Rational Optimist will give a reader solid reasons for believing that the human species will overcome its economic, political and environmental woes during this century.” (Fort Worth Star-Telegram)
ところで、先日、ブックレビューしたマット・リドレーの「繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史」では、本のタイトル「Rational Optimist 合理的楽観主義者」の面目躍如で、人類の歴史は、紆余曲折はあっても、進歩と繁栄であるから、地球温暖化や気候変動などによる悲劇は、クリアできると説かれている。
この本が、総ての悲観主義を論破すべく論陣を張った、FTのベスト・ビジネス本で、英米でも脚光を浴びたベストセラー だと言うから、私など、IPCCの見解の方が正しいと思っており、人類の終末論が見え隠れする悲観論に偏っている方なので、どう考えたらよいのか(何故、この本を識者が高く評価するのか)、非常に疑問でもあり悩むところである。
この本では、リドレー流に個々の事例毎に、詳しく反論を展開しているのだが、詳論は避けて、リドレーの結論だけに絞れば、ローマクラブの「成長の限界」も、マルサスも、テクノロジーの変化の速度と大きさ、すなわち、世界を再配列する一連の新しいレシピを過小評価しているからで、
地球上に残された石油の量、世界の農場総てを合わせた生産能力、更には、生物圏の回復能力ですら、固定された数字ではない。それは、人間の発明の才と自然の制約が絶間なく相互に働きかけることによって生成される、動的な変数なのだ。と言うことである。
石炭がなければ、イギリスで産業革命が起こらなかったし、人類の繁栄に対する電気の貢献はいくら強調しても足りないし、20世紀の繁栄は石油が支えてきたのだが、これら化石燃料を活用したエネルギー技術の進化発展のお蔭で、地表の多くが産業化から免れて、自然環境がより自然のままに維持保全されてきたのだ。と言う逆転の発想とも言うべきリドレーの見解が、非常に興味深い。
アメリカの人口3億人に現在の需要エネルギーを供給しようと思えば、再生可能エネルギーなら、
スペインの広さのソーラパネル
または、カザフスタンの広さの風力発電基地
または、インドとパキスタンの広さの森林
または、・・・ 必要だが、
実際は、一連の火力・原子力発電と一握りの製油所および天然ガスパイプラインが、ほぼすべての現在アメリカ人のエネルギーを供給している。と言うのである。
土地をむさぼり食うモンスターのような再生可能エネルギーを、「地球に優しい」だの、人道的だの、クリーンだのと呼ぶのは、奇妙だとまで言う。
FUKUSHIMAの原発事故で、一気に、反原子力発電への運動が加速し、地球温暖化への対応で、化石燃料への依存から脱却するために、再生可能エネルギーへの期待が大きいのだが、リドレーの言うように、風力発電機が海岸線の景観を害し、ソーラーパネルが広大な面積の地表を覆い、食糧用の農地を圧迫してエタノール用の農地が拡大し、・・・等々、確かに地球環境に負荷をかけつつあることは事実であろう。
しかし、善意に解釈すれば、あるいは、イノベーションに全幅の信頼を置くリドレー説に従えば、いずれは、再生可能エネルギー産出へのイノベーションが生み出されることによって解決可能である筈である。
余談だが、アベノミクスがどうかと言うことは別にして、景気は、「気」のものである要素が強く、経済は感情で動くとする行動経済学が説く如く、長い間停滞していた日本経済が、日本人の気持ちが上向き加減に向き始めた所為もあって、少しずつ、上昇気流に乗りつつあるような気がしている。
リドレー説は、謂わば、元気印の未来の預言書、悲観論ではなく、無理にでも、前向きに、人類の未来を展望したいものである。
(追記)
このリドレーの「繁栄」だが、下記の書評の如く、楽観論に終始しているが、非常に示唆に富んだ貴重な本で、一読に値すると思う。
“A fast-moving, intelligent description of why human life has so consistently improved over the course of history, and a wonderful overview of how human civilizations move forward.” (John Tierney, New York Times)
“The Rational Optimist will give a reader solid reasons for believing that the human species will overcome its economic, political and environmental woes during this century.” (Fort Worth Star-Telegram)